記事の要点
・バイオスティミュラント資材の研究開発及び評価事業を推進するAGRI SMILEが、三井物産アグロビジネス株式会社との共同研究契約を締結。
・バイオスティミュラント資材とは、微生物や多糖類、ペプチド、有機酸、ミネラル、腐植酸などを原材料とする植物の免疫系を活性化し、根張り・収量の向上や、乾燥/過湿耐性、耐病性、耐高/低温性、耐塩性といった効果を付与する資材。
・本研究では、バイオスティミュラント資材のエビデンス情報の獲得、日本市場での普及へと繋げることを目的に、三井物産アグロビジネスが販売を進めるバイオスティミュラント資材に関して、作用機序の解明に向けた研究を開始する。
LoveTechポイント
気候変動による環境ストレスの増加、化学農薬や化学肥料の使用削減が求められ、持続的な農業の実現は厳しい課題に直面しています。
この課題解決の一助となるバイオスティミュラント資材の研究に、今後も注視していきたいと思います。
編集部コメント
バイオスティミュラント資材という新たな農業資材が注目されている。
バイオスティミュラントとは、気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術である。
そもそも植物の生育にとって好ましくない外的要因には、雑草、害虫、病気といった「生物的ストレス」と、気温や乾燥といった「非生物的ストレス(環境ストレス)」があり、生物的ストレスへの対処法として、現在は農薬が使用されている。
(参考)日本バイオスティミュラント協議会:
https://www.japanbsa.com/biostimulant/biostimulant-jbsa.html
昨今、地球温暖化を始めとする気候変動によって植物に対する非生物的ストレスが増加、収量や品質への影響が懸念されているなか、脱炭素や環境保護の観点から、欧米諸国を初め、日本においても2050年までに化学農薬や化学肥料の使用量を削減する目標が掲げられている。
ただ、現行の方法から化学農薬や化学肥料に頼らない農法にシフトした場合、収量や品質の確保が難しく、持続的な食糧供給を果たすための技術的な解決策が求められている。
そんななか、化学農薬や化学肥料の使用量削減と、気候変動による植物へのストレス耐性付与を同時に進める方法の一つとして近年注目を集めているのが、先述したバイオスティミュラント資材というわけだ。
バイオスティミュラント資材は、植物の免疫系を活性化し、根張り・収量の向上や、乾燥/過湿耐性、耐病性、耐高/低温性、耐塩性といった効果を付与する資材。
付与したい性質に沿って、バイオスティミュラント資材を適切なタイミング・量で供する技術が確立されれば、化学肥料や農薬の使用量を削減しつつ供給責任を果たす農業の実現へと貢献する解決策なのだ。
ただ、効果を及ぼす仕組み「作用機序」に関してはまだまだ知見が少なく、農業現場での実証試験の結果を基にその効果や応用性を評価することが中心となっている。そのため、新規資材の導入を目的とした試験では、使用技術の確立に時間がかかることに加え、効果はあるものの作用機序が不明瞭な資材という農業現場での不安を取り除くことができず、スムーズな現場導入が進まないという課題が横たわっている。
これに対して、テクノロジーによって、産地とともに持続可能な農業と地域をつくるをミッションとするAGRI SMILEは、新たな研究室の設立と、独自のバイオスティミュラント資材評価系によるバイオスティミュラント資材の検証及び新規資材の研究開発事業を進めている。
同評価系では、イネの幼苗を用いた研究室スケールの短期試験において、資材添加によるバイオマス量への効果の検証と、網羅的な遺伝子発現解析・植物ホルモン解析といったミクロな観点からのメカニズム解明、さらに研究室スケールでの評価から農地スケールへの評価も合わせて、スムーズな現場導入に向けた技術知見の獲得を目指している。
また今年度からは、肥料原料・肥料製品の物流と販売、青果物等の農産事業並びに農産関連事業を担っている専門商社、三井物産アグロビジネスと共同研究契約を締結。
同社の国際的なバイオスティミュラント資材のネットワークを活用し、フルボ酸、アミノ酸等を有効成分とした新規バイオスティミュラント資材の探索と日本市場への導入を進めている。
そして今回、双方の強みを活かし、素早く効率的に資材のエビデンス情報を獲得し、日本市場でのバイオスティミュラント資材の普及へと繋げることを目的に共同研究を開始することも発表。
その第一弾として、国外の食品産業における副産物を活用したバイオスティミュラント資材に着目し、三井物産アグロビジネスが資材調達を担い、AGRI SMILEが評価系による資材検証を進めていく。
気候変動による環境ストレスの増加、化学農薬や化学肥料の使用削減が求められ、持続的な農業の実現は厳しい課題に直面している。この課題解決の一助となる本研究に、今後も注視していきたい。