記事の要点
・海洋DXを進めるMarindowsが、2021年11月1日、シードラウンドとして総額2億円の資金調達を実施。事業シナジーが見込める旭タンカー、カシワテック、商船三井、ワールドマリンの4社が参加。
・今回調達した資金は、海事産業で最も深刻で喫緊な『安全』と『人』の課題へと対応する各種サービスの開発加速と早期事業化に繋げる予定。
・船員の業務負担軽減と安全・健康の大幅な向上を目指し、船員に船員標準業務支援端末の提供と、海難事故防止のためのネットワーク型ドラレコとネットワーク型ポータブルナビを展開予定。
編集部コメント
来年から、海上における通信環境が劇的に向上することをご存知だろうか。
現在、次世代衛星ブロードバンド通信等のNTN(※)通信環境の普及により、エリアによっては海上でも数百kbpsレベルでの通信が可能になっているわけだが、これが次世代高速衛星サービスが開始されることにより、数Mbps〜数十Mbpsの相互通信環境へと変貌。陸上と同様のデジタルイノベーションとデジタル技術が、海洋の世界にも導入される見込みなのだ。
※Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク
いわば大転換期の到来とも言える海事産業なのだが、ここにピンを止めて事業展開しているのがMarindows株式会社である。海上ブロードバンド通信をベースに、AI等を活用したDXを海事産業へと取り入れることで、船や海に関わる全ての人を支える海上統合デジタルプラットフォーム 「Marindows」の開発を行っている会社だ。
海洋領域におけるデジタルプラットフォーマーを目指す同社が重要視しているのは、国内物流の45%を担う「内航海運」(船で国内の港から港へ貨物を運ぶ海運のこと)だという。
内航海運においては、船舶および船員の高齢化や、働き方改革の遅れによる低い労働生産性、DXの遅れや通信環境の未整備、主たる燃料として重油を利用するGHG排出削減への環境対応、低い事業収益性など、様々な課題に直面している。
同社は、そんな内航海運を含む海事産業全体の課題と、その解決策をフェーズ1~4に分類しているのだが、そのうち最も深刻で喫緊な課題としているのが「安全」と「人」の課題だという。
海上で働く「船乗り」にとって、離社会性や離家庭性、閉鎖性などの生活様式の制限は大航海の時代から変わっておらず、心身のストレスの大きな原因となっている。
ここにメスを入れるべく、今回Marindowsでは海事産業のステークホルダー各社(旭タンカー、カシワテック、商船三井、ワールドマリン)から事業連携含めた資金調達を実施し、具体的なソリューション開発に着手している。
具体的には、まず、船員に対して船員標準業務支援端末 「Mフォン:Marindows Phone(仮称)」の提供を開始するという。こちらは、IPトランシーバー機能や大音量スピーカー、防水/防塵/防塩機能はもちろん、予定管理や労務/給料管理、既存業務の電子化、ストレスチェックなど各アプリケーションが搭載され、1台で船員の業務負担軽減〜安全・健康の大幅な向上までを実現する設計とのこと。
今後、パートナー企業の協力を得ながら、グローバル市場や陸上市場の「現場DX端末」としての普及を視野に開発を進めていくという。
加えて、ネットワーク型ドラレコ「ドラれもん(仮称)」とネットワーク型ポータブルナビ「ナビ子ちゃん(仮称)」も展開予定で、全ての船への標準装備を目指し、海難事故防止に挑戦していくという。
同社の代表取締役社長兼CEO末次康将氏によると、海洋は地球上における最後のフロンティアであり、オンライン化された海洋の世界には、かつての大航海時代以上の魅力とチャンスが広がっているという。
基幹産業が活発になると、必然的に周囲の様々なサービスも整備されていくものだ。この大きな変化を成長の機会と捉え、海事産業が抱えている様々な課題を推し進めようとする同社の動向に、今後も注視していきたい。