シェアリングエコノミーの祭典『SHARE SUMMIT 2019』
世界的な潮流として注目されているシェアリングエコノミー。「所有」から「共有」への価値観変化に伴うビジネスモデルのあり方として、我々の生活にも少しずつ浸透しはじめており、ビジネスや暮らしの前提、個人の消費スタイル、そして新しい社会のあり方が問われている。
そんなシェアリングエコノミーの祭典『SHARE SUMMIT 2019』が、11月11日(月)、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された。
主催は一般社団法人シェアリングエコノミー協会。各シェアサービスの普及、そして業界の健全な発展を目的とし、シェアリングサービス市場の活性化に取り組んでいる業界団体だ。
冒頭の挨拶で並ぶシェアリングエコノミー協会 理事の皆様
4回目となる今年のSHARE SUMMITテーマは「Co-Economy」。政府、自治体、企業、シェア事業者、個人が手を取り合い、セクターの枠を超えて“共創と共助”による新しい経済・社会のあり方をディスカッションする場としてセッティングされ、当日は様々なステークホルダーが参加する活気ある場となった。
LoveTech Mediaでは2つの注目セッションについて、前後編でお伝えする。
まず前編では、イベント冒頭のキーセッション「Co-Economy〜共創と共助で創るこれからの日本〜」について。
アメリカ型でもヨーロッパ型でもない日本型シェアリングエコノミーの形が見えてきた中で、あらゆるセクターの壁を超えて、それぞれの強みを活かし、「共創と共助」の仕組みで日本が直面するあらゆる課題を突破するべく、官民それぞれの立場で集まった登壇陣によるパネルディスカッションが展開された。
<登壇者> ※写真左から順番に
- 南章行(みなみ あきゆき)氏 ※モデレーション
株式会社ココナラ 代表取締役社長 - 増田宗昭(ますだ むねあき)氏
カルチュア・コンビニ エンス・クラブ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO - 宮坂学(みやさか まなぶ)氏
東京都副知事 - 松島倫明(まつしま みちあき)氏
『WIRED』 日本版編集長
それぞれにとってのシェアリングエコノミー
キーセッションのテーマが「Co-Economy 〜共創と共助で創るこれからの日本〜」ということで、非常に広い領域となっている。
まずはモデレーターを務めるココナラ・南氏による「セッションの目的と方向性」が示されたあと、各登壇者が「シェア」について今考えていることをそれぞれ語った。
「シェアリングエコノミー」という言葉は難しい by.ココナラ・南章行
株式会社ココナラ 代表取締役社長 南章行氏
レイチェル・ボッツマンによる著作『シェア 〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』(NHK出版 2010年12月刊)が日本で発売されてから、もうじき10年。南氏は「改めてシェアリングエコノミーという言葉の難しさを感じている」という。
既存産業をディスラプトするような、いわゆる「アメリカ型」シェアリングエコノミーはグローバルプラットフォームを創ると言った文脈で語られ、一方で「ヨーロッパ型」では、あくまで市民が中心に据えられ、市民とローカルの結びつきがシェアリングエコノミーだという文脈で語られている。
それでは、「日本型」シェアリングエコノミーとは何なのか?
「エコノミー(経済)というくらいなので、その国特有の文化や課題があるはずで、単にアメリカ型を輸入して地域のつながりを増やすんだ、と言っても、それは本末転倒と言えるでしょう。」
日本型シェアリングエコノミーを考えるにあたり、まずは日本ならではの課題が何なのかという考察が、本セッションのテーマだという。
「少子高齢化に伴う様々な問題を背景に、各々が“個”としてどうやって生きていくのか、どう幸せを追求していくのか、ということを考え、ベンチャー・大企業・自治体などが皆で垣根を超えて、一緒に作っていく。
これが『日本型シェアエコ』なのではないかと、シェアリングエコノミー協会メンバーの一社として考えています。」
今は、モノと情報が重なり合う時代 by.WIRED・松島倫明
『WIRED』日本版編集長 松島倫明氏
2018年11月13日、約1年間の沈黙を経てリブートされた雑誌『WIRED』の編集長に就任されたのが松島氏。リブート号以降は「デジタルウェルビーイング」「ミラーワールド」「ナラティブと実装」という流れで特集が組まれていき、毎号のように、我々が迎えるであろう“未来”への風穴を開けている。
そんな松島氏は、先ほどご紹介した書籍『シェア』を、我が国に送り出した人物でもある。
書籍では初期のAirbnb(エアビーアンドビー)について紹介がなされており、そこでは「知らない人の家に泊まることで生まれる交流やコミュニティってすごいよね」という文脈での記載がなされている。今のようなプラットフォーム企業という観点では全くなかったわけだ。
「シェアから10年が経ち、Airbnbはオンデマンドエコノミーに改修され、今ではデジタルテクノロジー側に大きく振れてしまっています。2010年当時から見ていた立場からすると、ちょっと違う方向に行っているのかな、と感じます。」
松島氏によると、“シェア”という言葉の元々の文脈は、90年代のインターネット黎明期に遡る。ものすごい勢いで情報化の時代へと突入していった中で、『シェア』が出てきた2010年代にSNSが勃興し、そこで人々がもう一度つながり始めた。SNS上での人とのつながりによって、ついでにモノもシェアしようという流れが、2010年代のシェアリングエコノミー文脈だったという。
そして今、2020年代ではもう一度、“情報”とフィジカルな“モノ”が重なり合ってきているという。モノの時代があって、情報化の時代があって、今度はモノと情報が重なり始めたわけだ。
2010年代は「人がハブになってつながるシェアリングエコノミー」だったわけだが、今はマシンが情報を持てる時代なので、また違った形のシェアリングエコノミーになることが想定されるという。
「僕たちは、デジタルテクノロジーを突き詰めて考え、個としてどうあるべきかを語る上で『ウェルビーイング』というキーワードをよく出しています。
今の時代、個に分断しすぎちゃっていると感じます。それに対して、どうやってもう一度つなげるかということを、みんなで必死になってやっているのが今だと思うので、そこでシェアエコは貴重な考え方になるのでは、と思います。」
東京に今一番足りないものはイノベーション by.東京都副知事・宮坂学
東京都副知事 宮坂学氏
令和元年9月、元ヤフー社長の宮坂氏が東京都副知事に就任したというニュースは、多くの方を驚かせたに違いない。民間出身の副知事は、2007~12年に同じく副知事を務め、その後に知事となった作家・猪瀬直樹氏以来である。
そんな宮坂氏は今、大きく3つのことを進めようとしているという。
一つ目は「東京全体を、モバイルインターネットがつながる土地にする」こと。電波が繋がらないところが都内でまだ残っていることに課題を感じ、地下と地表と空中の3次元で電波のない場所を無くすということを推進しているという。
二つ目が「最先端の仕事道具を使えるようにする」こと。交通局や水道局など、いわゆる“現場”職員を中心として、デジタルテクノロジーを上手く活用できていないのだという。具体的にはスマホなど、最先端の仕事道具を使えるようにしていくことも急務だという。
そして三つ目は、「各事業局の人たちに、ネット接続する形で仕事をしてもらう」ことだという。
「ヤフーの時は、あくまでスクリーンの中での仕事でした。今はスクリーンの外の仕事。全然違うので、日々悪戦苦闘しております。」
そんな中、モデレータの南氏より「ベンチャーと何かやっていきたいとかはあるか?」という質問が投げかけられ、それに対して「ベンチャーが、より動きやすい環境整備が大事」と宮坂氏。
「東京に今一番足りないものは『イノベーション』だと思っています。東京という街では、戦後から無数のスタートアップが成長していったわけですが、残念ながら世代交代ができていないと言えます。
行政として、大企業の安定感を使う一方で、スタートアップのイノベーションを促進するという、両輪を大事にしていきたいと思っています。」
シェアって、僕にとってはビジネスの本質 by.CCC・増田宗昭
カルチュア・コンビニ エンス・クラブ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 増田宗昭氏
レンタルビデオ/CDといえば「TSUTAYA」。ほとんどの方が、真っ先に思い浮かべるサービスだろう。
このTSUTAYA事業を中心としたエンタテインメント事業を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ、通称CCCグループを率いるのが、同グループ創業者である増田氏である。
同氏が貸レコード屋である蔦屋書店を立ち上げた際(1983年、蔦屋書店枚方店が1号店)、業界ではレコードショップがレコード会社等に訴えられるという流れが見受けられたという。
普通であれば事業進出をためらうところであるが、増田氏は「なぜ訴えられているのか。何がいけないのか。訴えられている、その本質は何なのか。著作権者にちゃんとした印税が入っていないからだとすれば、適切なフィーを払える仕組みを作ればいいんだ」と考え、すぐに国会議員等に相談の上、商業組合を作り、関係者と適正な料金設定をして、合法化に至ったという。
「民泊も同じことです。
宿泊した時に火事になって死ぬことがあって社会的に良くないから、こういうふうな防災設備をしなければならない。泊まった人が、食べたもので食中毒になることがあるから、キッチンの衛生面をこうしなければならない。本来的に、こういった社会善のために法律があるわけですから、民泊事業者の人たちが社会善をクリアしたら、絶対に合法になります。
なぜなら、こんなにお客さんが喜ぶ仕組みはないから。
関係者全員が喜ぶ仕組みの見通しがあるならば、絶対にやるべきです。
レンタルはまさに、レコードをみんなでシェアする仕組み。だから、シェアって僕にとっては、何か新しいものじゃなくて、ビジネスの本質だと感じています。」
増田氏によると、これまで起こってきたシェアリングエコノミーの時代背景には、資本主義社会のもたらす“格差”があるという。ごく少数のお金持ちと、多数のワーキングプアが発生し、例えばレコードでいえば、レコードを買いたくても買えない人が出てくる。
そんな時に、もっと広く音楽を楽しむ文化が醸成されるべきという流れから、貸レコード屋ができたということだ。
「この、日本人が持っている『みんなで幸せになりたい』という気分みたいなものが、シェアビジネスをやるにあたって、一番大事だと思います。
従来、日本人って魚を食べていましたよね。魚って生産するものじゃなくて、自然との共生の上で獲れるものなので、自然を大事にする機運が初めからあります。
日本人は生まれもって、自然の恵みの中で食べてきたので、自然との共生や仲間を大事にする“利他”文化が育まれてきたと思い、これから世界をリードしていくポイントだと思います。」
大切なのは「利他の精神」
南氏:本日は「日本型シェアリングエコノミー」というテーマなのですが、日本人ならではの信頼やコミュニティのあり方。もしくは日本人ならではの難しさなど、思うことがあれば教えてください。
松島氏:まさに先ほど出てきた「利他」の精神だと思います。
西欧って個人主義から積み上げていく社会なので、まず自分の幸せがあって、割とそれがウェルビーイングだって考えられています。
一方で日本人は、ある種“反主観的社会”を形成していて、この場のみんなが嬉しい、だったり、悲しんでいることを分かち合うのが、悲しいけれどウェルビーイングだ、みたいな感覚があると思うんですよね。
こういった社会の中で、ある種のウェルビーイングがあるとすると、そこからどう接続するかが、日本型シェアエコを考える上で大切かなと思います。
あと、シェアを考える上で、データが改めて大事になってくると思います。アメリカはデータ資本主義だし、中国はデータ管理社会。ヨーロッパはデータを公共のものと捉えている中で、日本はどこに配置するのか。
今日の登壇者である我々のような立場がリードして、しっかり考えていく必要があるでしょう。
南氏:データについて、誰がどう主導していくのかは興味深いですね。
松島氏:そうなんですが、今のところ日本人は全員、データに無関心な社会だと思います。アメリカでは、データの取り扱いについて大統領選挙の争点になっていたりもするくらいなんですけどね。
南氏:個人データを扱うことの難しさについて、Tカード事業を展開される増田さんはどのようにお考えでしょうか。
増田氏:データ活用については、今から30年ぐらい前にとある本を読んで、コンピューターを買ってデータ集めと分析を始めたのがきっかけでした。
データがゴールなのではなく、幸せがゴールです。
データと幸せの関係でいくと、個人を幸せにするデータと、企業活動を効率的にするデータの2種類があります。
前者の、個人の幸せで言うと、これからの少子高齢化社会の中では圧倒的に「健康データ」が大事になってくると思います。
僕個人としては、健康データを、誰かに管理してほしいと思っています。
ヨーロッパでは、第三者が健康系データを完全に把握していて、有事の際に病院の手配などをしてくれるサービスもあるようですから。
個人にとって、絶対に幸せだと思います。
企業活動を効率的にするデータの話は、もっと別の機会に議論すべき内容なので、割愛します。
南氏:ありがとうございます。最後、宮坂さんはいかがでしょうか?
宮坂氏:99年にYahoo!オークション(現在のヤフオク!)がスタートした時、確か最初の成約って、僕の出品物だったんですよ。
家にあった古いストーブを出品していて、100円くらいで買ってもらったんですよね。すごく嬉しかったのを覚えています。
誰かの役に立つというのは、とても神聖な体験でしたよ。
特に最初の頃は物流など何もなかったので、車を運転して相手に手渡ししていまして、モノのシェアと個人のつながりが一致している、ある種牧歌的な時代でした。
シェアエコって、エコノミーというくらいだから大きくなっていくものだし、あの時代とは前提が異なってきますが、今の時代で改めてこういう体験ができたら良いなと感じます。
(第2章以降のセッション写真:一般社団法人シェアリングエコノミー協会 提供)
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