記事の要点
・CureAppが、開発中のアルコール依存症治療アプリを用いた臨床試験を、以前よりアルコール依存症の早期支援に取り組んでいた岡山市立市民病院で開始することを発表。
・アルコール依存症の未治療人数は100万人と推定。専門の医療機関が少なく、患者が受診に気後れするなどの原因で治療が進んでいないケースが多い。よって、数も多く、患者も足を運びやすい一般内科でアルコール依存症治療が実施できるよう、本治療用アプリを開発。
・本アプリのほかにも、CureAppでは世界で初めてニコチン依存症への有効性で国から承認を受けた「ニコチン依存症治療アプリ」を提供。薬事承認を取得し、2020年12月より保険収載され、処方が開始されている。
LoveTechポイント
既存の薬物や医療機器による治療とはまた異なる、第三の治療法として期待されているアプリ治療。
医療機関への受診や治療のハードルを下げることで、医療格差などの是正に繋がる点が、LoveTechだと感じます。
編集部コメント
株式会社CureAppが、開発中のアルコール依存症治療アプリを用いた臨床試験を開始することを発表した。
新しい治療法として国内外で注目されている「治療用アプリ」は、疾患治療のために医師が患者へ処方するスマホアプリだ。すでに欧米では、この領域について国の承認を得ており、保険償還されるかたちで実際に処方され始めている。
今回、地方独立行政法人 岡山市立総合医療センター 岡山市立市民病院で実証実験が実施されることとなったのは、内科でのアルコール依存症治療を目指し開発中のアプリである。
アルコールの有害な使用は本人の健康を損なうだけでなく、労働生産性の低下や自動車事故、犯罪の増加、家庭内暴力など社会的にも多大な悪影響を与えてしまう。
実際に、飲酒は世界の疾病負荷(疾病による影響を、財政コスト、死亡数、疾患数等の指標で表したもの)の原因第9位であり、国内のアルコール依存症患者は約107万人いると推定されている。
しかし、アルコール依存症に対して有効とされる認知行動療法や薬物療法などの専門的治療を受けている患者は国内では約5万人に過ぎず、100万人以上が未治療であると考えられ、アルコールによる身体疾患で内科に入院を要した患者でさえ、アルコール依存症専門治療を受ける方はごく一部にとどまっているという。
その原因として、専門の医療機関が少ないことや、内科入院後、依存症治療を受けるまでに平均で33ヶ月かかっているという調査結果報告もあることから、患者が専門医療機関の受診に気後れしてしまうことが挙げられる。
このような背景から、数も多く、患者も足を運びやすい一般内科でアルコール依存症治療が実施できるよう、本治療用アプリは開発されたというわけだ。
開発をしているCureAppは、ソフトウェアで「治療」を再創造するをミッションに、病気を治療するアプリである「治療アプリ®︎」の開発に取り組んでいるMedTechベンチャー企業である。
本アプリのほかにも、世界で初めてニコチン依存症への有効性で国から承認を受けた「ニコチン依存症治療アプリ」は、薬事承認を取得。2020年12月より保険収載され、処方が開始されている。
他にも、有効な医薬品が未だ存在せず食事・運動習慣の改善をするしか手立てがないNASH(非アルコール性脂肪肝炎)への治療アプリや、推定患者人口が約4300万人と推定される高血圧の治療アプリも研究開発中である。
いずれも、改善や予防のためには食事や運動といった生活習慣の改善が不可欠であり、患者の意思や生活環境に左右されるため、本人のみで管理・継続していくことは難しいもの。一方で、このような日々の生活習慣の改善や予防に対する医療機関の介入にも限界があるため、身近なスマホで治療がうけられる治療アプリは、患者にとって有効な手助けとなるだろう。
さらに、開発中のアプリにはがん患者に向けたものもあり、外来では難しいタイムリーな副作用の発見や、日々変化する症状への院外ケアや医学的に正しい支援を可能とすることから、薬物治療に取り組む患者のQOLの向上、および薬剤治療の完遂・継続が期待されている。
今年3月、CureAppは約21億円の資金調達を完了しており、既存医療の制約を乗り越える持続可能な社会に向けた革新的なデジタル療法として、国内外で注目されている。
どこにいても質の高い医療が受けられるだけでなく、医者の人で不足や医療費のひっ迫などの社会問題の解決にもつながる治療アプリ。引き続き、今後の動向を注視していきたい。