記事の要点
・国際宇宙ステーションに代わる日本初の「宇宙環境利用プラットフォーム」を開発する東北大学発ベンチャー・ElevationSpaceが、MAKOTOキャピタル、事業会社、個人エンジェル投資家計8者を引受先とする第三者割当増資により、約3000万円の資金調達を実施。
・同社が提供する小型宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」は、宇宙の特徴である微小重力環境でのサイエンス研究や、地球では不可能な高品質材料の製造を実現し、その成果物を地上まで持ち帰ることが可能。
・今回調達した資金により、現在開発している小型人工衛星「ELS-R100」の開発を加速し、大気圏再突入技術(大気圏で燃え尽きず、地球に帰還させる技術)」の獲得を目指す。
LoveTechポイント
世界有数の技術である「大気圏再突入技術」の獲得に向けた、大きな一歩だと感じます。
中長期的には日本初の宇宙ホテル建設をめざすとのことで、その夢あるLoveTechな取り組みを、引き続き注視したいと思います。
編集部コメント
宇宙利用プラットフォームを開発する株式会社ElevationSpaceが、株式会社MAKOTOキャピタル、事業会社、個人エンジェル投資家計8者を引受先とする第三者割当増資プレシードラウンドにて3,000万円の資金調達を実施。同社の補助金等も含めた累計調達額は創業半年で約4,000万円となった。
ElevationSpaceは、「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」というミッションの下、東北大学大学院生の小林稜平氏(代表取締役 / CEO)と東北大学准教授の桒原聡文氏(取締役 / CTO)が共同設立した東北大学発宇宙スタートアップ。
まずは最初のステップとして、小型宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」を開発している。
背景にあるのは、軌道約400km上空を周回している国際宇宙ステーション(以下、ISS)の存在だ。ご存知の方も多いと思うが、ISSは構造寿命などの関係から2024年以降の運用が未定となっており、運用終了後は宇宙利用を行う場所が無くなると考えられている。
このような課題感から、同社は、これまで研究室で開発してきた10機以上の小型人工衛星の知見を活かし、ELS-Rの開発をはじめたというわけだ。
ELS-Rでは人工衛星内に複数の装置を載せ、宇宙空間における「微小重力環境」を活かした科学的研究や、地球では作れない高品質材料の製造などを行うことを想定している。
その大きな特徴は、まず、高頻度打上が可能だということ。
ISSような大型のプラットフォームでは、利用できる頻度が半年に一回程度と非常に少ない。一方でELS-Rは小型衛星であるため、一機当たりの価格は低く、将来的には毎月人工衛星を打ち上げることが可能だという。
また、打上までの期間が短いことも挙げられるだろう。有人の宇宙ステーションでは当然ながら厳しい安全審査が設けられているのだが、ELS-Rは無人の人工衛星であるため、安全審査が有人ほどに厳しくはなく、打ち上げるまでの期間と手間を省力化することができる。
さらに、ISSは利用用途がばらばらで、かつ成果物を一度にまとめて持ち帰る必要があるため、宇宙実験が終了してから地球へ帰還するまで時間がかかるのだが、ELS-Rでは利用方法が「実験や製造」に限定されているため、利用終了後にスムーズに地球に帰還させることが出来る点も大きい。
要するに、有人のISSと比べてELS-Rは、簡単に素早く利用できる宇宙利用プラットフォームだ言えるだろう。
具体的な利用ターゲットとしては、ISSで行われている宇宙実験はもとより、先述したような高機能材料の製造や、各種プロモーションや科学教室といったエンタテインメントなども考えられている。特に地球上では作ることができない高機能材料の製造は、非常に期待されている。
このELS-R構造には、世界有数の技術である「大気圏再突入技術(※)」が必要であるといい、そのために同社は、100kg級の小型人工衛星「ELS-R100」の2023年の打ち上げを目指し開発をしている。今回調達した資金により、ELS-R100開発をさらに加速させていく予定だ。
※宇宙空間から大気圏に突入し、燃え尽きずに、狙った場所に正確に帰還させる技術で、小型宇宙利用・回収プラットフォームの構築には欠かせない重要技術。再突入タイミングのずれは落下位置の大きなずれに繋がるため、高精度な軌道上での制御が求めらる。その他にも、有人輸送や惑星探査、サンプルリターン等の広範囲なミッションにおいて必用不可欠な技術である。
ElevationSpaceのCEOである小林稜平氏は、月面基地や宇宙ホテルといった宇宙建築の分野で精力的に活動しており、Mars City Design Challenges 2019を始めとする国内外のコンペティションで日本1位、世界2位を獲得している存在だ。
だからこそELS-Rは、将来の宇宙旅行において必須となる技術として、中長期的には日本初の地球軌道上の「宇宙ホテル」建設を目指しているという。
なんとも夢があるLoveTechな取り組みである。
日本初の宇宙利用プラットフォーム開発の道中を、引き続き注視して参りたい。