デーティングアプリのTinderが2026年7月23日、地域のイベントを探せるアプリ内の「Events」機能を米国と欧州の9都市へ拡大すると発表した。
3月に試験運用を始めたロサンゼルスに続き、ニューヨーク、ダラス、デンバー、カンザスシティ、フェニックス、ベルリン、ミュンヘン、チューリヒ、ジュネーブで提供し、9月末までには26都市へ広げる計画だという。
ユーザーは、陶芸教室やハイキング、ヨガ、音楽イベントなどをアプリで探し、同じ催しに関心を示したほかのユーザーを事前に確認できる。チケットの購入、会場でのチェックイン、参加後のマッチングも一連の機能に含まれる仕様だ。
Tinderは、プロフィールを左右にスワイプして相手を選ぶサービスから、街へ出る前からイベント参加後までユーザー同士をつなぐサービスへ機能を広げようとしているわけだ。
Eventsの全機能を利用するには「写真認証」が必要とのことで、認証機能がリアルイベントへの参加に対する不安をどこまで減らせるのか。以下、その仕組みと安全対策の範囲を詳しく見ていく。
「スワイプ疲れ」への対策の一環か

TinderがEvents機能を広げる背景には、いくつかの要因が考えられる。
まずは、ユーザーの画面上でプロフィールを選び続けることへの疲れ、いわゆる「スワイプ疲れ」「マッチングアプリ疲れ」への対策だ。
例えば、Forbes HealthとOnePollが2024年3~4月、過去1年間にマッチングアプリを使った米国の成人1,000人を調べたところ、78%がアプリによる精神的・心理的・身体的な消耗を少なくとも時々感じると回答した。原因としては、24%が複数の相手との反復的な会話、22%がスワイプ、21%がアプリに費やす時間を挙げている。
アリゾナ州立大学の研究チームが実施した調査も興味深い。現在マッチングアプリを使っている独身者493人を対象に、12週間にわたり4回の追跡調査を行ったところ(4回全てに回答したのは190人)、時間の経過とともに、アプリ利用に伴う感情的な消耗と、「使っても成果につながらない」という無力感が強まっていったという。また、抑うつ、不安、孤独感が強い利用者ほど、消耗感や無力感が大きい傾向も確認されている。
日本でも、Omiaiが2025年にマッチングアプリ利用経験者664人を調べたところ、88.6%がアプリ上で「人となり」を表現しにくいと回答。また84.6%が、人柄が伝わらず、外見やスペックで判断されることが「マッチングアプリ疲れ」の一因になっていると答えている。
対面イベントをアプリに組み込む狙い

また、共通の活動を通じて人とリアルに会いたいという需要への対応も、Events機能拡大の要因として大きいだろう。
例えば、AxiosがイベントプラットフォームのEventbriteから得たデータによると、同サービスで扱うシングル向けイベントは、2022年から2025年にかけて倍増したという。
Tinderの競合に位置付けられるデーティングアプリ・Bumbleも、コンサート、運動教室、交流会などを扱うBumble IRLを展開している。対面での出会いをアプリへ取り込む動きはTinderだけではないのだ。
さらに、Tinder側としては、アクティブユーザー数や課金ユーザー数の減少を止めるという事業上の事情もあるだろう。
親会社Match Groupが2026年5月5日に発表した第1四半期決算説明会の発言原稿によると、Tinderの新規登録者数も前年同月比1%増と、2024年6月以来初めて増加に転じており、月間アクティブユーザー数(MAU)の減少率も直近31カ月で最も小さくなってはいるものの、それでも3月の前年同月比は7%減となっている。
また、同説明会の補足資料によると、月平均課金ユーザー数は2025年第1四半期が910万7,000人だったのに対して2026年第1四半期は863万2,000人と、前年同期比5%減となっている。
イベントを探すたびにアプリを開き、参加後もマッチングへ戻るEventsは、利用頻度を高める施策として一定の効果があるだろう。
イベントを探してから、参加者と再びマッチするまで

Tinderの公式発表によると、Eventsの試験運用が行われたロサンゼルスでは2026年3月以降、60件を超えるイベントが掲載され、同市場の対象となる写真認証済みアクティブユーザーの66%が、何かしらのイベントに参加したという。
Eventsでは、ユーザーがアプリを開き、画面下部にあるカレンダー型のタブから地域の催しを探す。提供期間中は、従来の「Explore」タブが一時的にEventsへ置き換わる。

現在公表されている主な操作を、イベントの前後に分けると次のようになる。
| 場面 | ユーザーができること | アプリ上で起きること |
|---|---|---|
| 参加前 | 催しを探し、興味のあるものを「Interested」で選ぶ | 同じ催しに関心を示したユーザーへプロフィールが表示される |
| チケット購入時 | 「Tickets」を押す | 外部の提携チケットサイトへ移動するので、そこでチケットを購入する |
| 会場到着時 | 位置情報を使ってチェックインする | プロフィールに参加済みを示す「Attended」バッジが付く |
| 参加後 | 同じ催しに参加した人を探す | 参加者同士がアプリ上でマッチできる |
Tinderのヘルプページによると、「Interested」の一覧に表示されるほかのユーザーは最大50人だ。実際の参加人数が50人を超えていても、全員のプロフィールを確認できるわけではないようだが、会場へ行く前から「会いたい人がいそうか」「避けたい相手がいないか」を判断できるのは大きい。
ロサンゼルスでの実証では、陶芸やビーチテニス、犬同伴のハッピーアワー、麻雀、ライブ音楽、ローラースケート、ハイキングなど、共通の体験を軸にした60件以上のイベントを展開した。なかでも60人定員のキャンドルライト陶芸教室は、提携先による告知から1日以内に完売している。
全機能に写真認証。身元や会場の安全までは保証せず

TinderはEventsの全機能の利用条件として、写真認証が必要だと説明している。
写真認証では、まず、ユーザーが短い動画セルフィーを撮影する。すると、Tinderに実装されている顔認証システムが、動画に“実在する人”が映っているかを調べ、動画内の顔と少なくとも1枚のプロフィール写真を照合した上で、条件を満たせば、プロフィールに認証済みバッジが付くことになる。
もちろん、これは公的な身分証などを使った本人確認などではないため、プロフィールに記載された情報の真正性を保証するものではない。このことは、Tinder自身も写真認証の説明で説明している。
気になる点があるとすれば、加工写真との差分をどこまで確認できるのか、だ。デーティングアプリで使用する写真について、何かしらの加工を施す方が多いのではないだろうか。一方で、写真認証に加工機能なんてものはないため、ユーザーによっては全く異なる写真の見比べになるケースもあるだろう。その辺の拡張性がどこまで対応されているのかは、気になるところだ。
ちなみに、Eventsが写真認証済みのユーザーだけが使えるからといって、イベントに集まるのも写真認証済みのユーザーだけ、というわけではない。Tinderによれば、一部のイベントではユーザーが同伴者を連れて参加できる。同伴者はTinderのユーザーである必要がなく、「Interested」の一覧にも表示されない。
スワイプの先に、どれだけの共有体験を創出できるか
AIを通じてオンライン上で膨大な情報や会話相手にアクセスできるようになるほど、同じ場所で時間を共有する体験の価値は、むしろ高まっていく。TinderのEventsは、そうした需要をアプリの外へ逃がすのではなく、イベントの発見から参加後のマッチングまで自社サービス内へ取り込む試みだ。
従来の「スワイプ型アプリ」から「リアルイベント基盤」へと進化しようとしている点が、非常に興味深いところだ。
Eventsがスワイプ疲れを和らげ、安心して人と会える新たな導線になるか。今後のEvents機能の利用率はもちろん、実際の出会いや継続的な関係につながった割合、トラブルの発生状況までを注視していきたい。


