授乳って色々な手段があり、まずはそこを受け止めるべき
写真中央)株式会社Bonyu.lab 代表取締役 荻野みどり氏
そもそもなぜ、このようなイベントが企画されたのだろうか。本イベントを企画・主催する株式会社Bonyu.lab 代表取締役の荻野みどり氏にお話を伺った。
当メディアでは、昨年開催された「子育Tech Meetup」以来のインタビューとなる。
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--まずはどのような背景で、この「母乳」というテーマのサービス開発に携わることになったのでしょうか?
荻野氏:私はもともと、2011年からオーガニック食品に関わる事業(株式会社ブラウンシュガー1ST)をしているのですが、食というものがどんどんと合理的になっていくことで、その後ろにある“食の豊かさ”や“人と人の繋がり”といったものが希薄化していき、食文化のマジョリティが無機質なものになっていく、という危機感を持つようになりました。
今後、「3Dプリンターで作るいちご」や「試験管内で培養させる人工肉」といったものが増えていき、それらのトレーサビリティーデータを管理して適切に流通させていく社会がメジャーになっていく。その中で、そういうものを無感情・無選択に食べるのではなく、自然環境で育ったいちごや牛のお肉の方が豊かで幸せだよね、と感じることができる子どもに育ってほしい、と思いました。
そんな背景から、子ども達や親御さんの“食の感性を育む食育サービス”を立ち上げようと思い、母乳のサービスを始めました。
--母乳って色々な意味で難しいテーマだと思うのですが、サービス開発にあたって苦労されている点を教えてください。
荻野氏:そもそもですが、母乳ってワードを出すと、すぐに「それって母乳神話(※)だよね」みたいな形で否定されることが多いです。
特に日本の場合、すぐに「母乳 VS 粉ミルク」といった対立構造に持ち込まれてしまうことが多く、「母乳っていいよね」を声高に言えない空気があります。
私は母乳に関するサービスを開発・提供していますが、母乳絶対主義という立場では一切なく、母乳が良くて粉ミルクが悪いなどという二項対立議論をするつもりは一切ありません。
そもそも授乳って色々な手段・手法があって、まずそこを受け止めるべきだ、というのが私のスタンスです。
その前提で、母乳という手段を選んだのだとしたらそれに関する知識を深めてもらい、その上で母乳の出が悪い場合はどうしたら良いのか、といった議論をもっとオープンにしていきたいと思っています。
※母乳神話:母乳じゃなきゃダメ、粉ミルクだと病気になる、と言った母乳絶対主義の思想全般を示す言葉
--確かに、母乳育児をしていても、そのことを話しにくい空気感ってありますよね。
荻野氏:そうなんです。
厚労省の調査によると、妊娠中の時点で実に9割以上の方が母乳育児をしたいと考えていますが、いざ出産すると、それが実現しないことで苦悩するケースも多い現実があります。
それには、思うように母乳が出なかったり、早期の職場復帰による時間的な制約だったりと、色々な要因があります。
出典:厚生労働省「平成27年乳幼児栄養調査」(2016) 「表1 母乳育児に関する妊娠中の考え別授乳期の栄養方法(1か月)(回答者:0~2歳児の保護者)」
荻野氏:そのことから、自分の母親としての素質に自信を持てず、落ち込んでしまう方がとても多いです。
だからみんなで集まっても、うまくいっている事例があまり言われないんですよね。母乳が出ない人を傷つけちゃう、と周囲が必要以上に考えてしまうんです。
でも本来的には、そういった方々も含めて、どうやったら母乳が出るようになるかといった議論がなされ、粉ミルクでもいいんだよ、といった肯定もなされる必要があると思います。
みんなで楽しくお話ししながら育児の相談をざっくばらんにできる場を作りたくて、今日のこの「おっぱいフラッシュモブ」を企画しました。
社会でタブー視されていることにしっかり取り組みたい
--この母乳問題、一人で抱え込んじゃうという点では、妊活や不妊治療にも通じる課題に感じます。ちなみに御社名が「Bonyu.Lab」ということで、母乳に関して色々と誤解されることも多いのでは?と感じたのですが、いかがでしょう。
荻野氏:私自身、社会でタブー視されていることを全面に出していきたい性格でして、母乳問題に切り込んでいくためには、直球で勝負していきたいと思っています。
だからこそ、あえて「Bonyu」と社名につけています。
もちろん、母乳ってどうしても「母」と紐づいており、授乳の主体としてはパパなど母以外も大いに考えられる中で、悩みはしました。
学術的には「人乳」なんて言いますしね。
ただ、日本では人乳という表記は一般的ではなく、象徴的な意味も込めて「Bonyu」を使うようにしました。
--なるほど。御社のサービスは一言で言うと「母乳の検査」になるわけですが、なぜこのようなアプローチになったのでしょうか?
荻野氏:母乳って、謎だらけの領域なんですよね。
粉ミルクメーカーの方々とお話ししていても、彼らは理想の粉ミルクを作ってはいるのですが、赤ちゃんの理想のフィーディングを作っているわけではありません。
この、理想の母乳を誰も追求していない現状に、なんで誰もやってないの?と思ったわけです。
調べてみると、例えば初乳・1ヶ月・2ヶ月などの授乳時期や、エリア、季節等によって理想値が違うから、一概に「理想のミルク」なんて設定できないと言う考え方なのですが、ホントか?と。
こんなにデータ・ドリブンな社会になっているのに、母乳だけアナログなままである必要はありません。
先日、米国で開催されたCES 2019に出展しまして、海外の方々に弊社「BONYU.CHECK」を見ていただいたら、とても画期的だと各方面から評価いただきました。
これまでも、例えば母乳内のアルコール残留状況をチェックするツールだったり、高額な成分チェックサービスはあったのですが、私たちのように安価で母乳成分をトータルチェックできるものは、世界でもおそらく初めてです。
この領域における先行者として、しっかりと啓発を先導していきたいと思っています。
--ありがとうございます。まずは「おっぱいの日」前半の第1部が終了して、今のお気持ちを教えてください。
荻野氏:今の日本では、おっぱいや母乳はとにかく説明コストが高いです。
すぐに「母乳神話ってやつ?」「粉ミルクでよくない?」から始まり、そもそもこれ自体が課題だと認識している人が少ない現状です。
今回企画した「おっぱいフラッシュモブ」を通じて、授乳の多様性をみんなで考えて、母乳でも粉ミルクでも、2018年に解禁された液体ミルクでも、ママでもパパでも大丈夫。そんな文化を作っていけたらと思います。
会場やタイミング、形式などは色々と改善が必要ですが、ぜひ、定期的に開催していきたいと考えています!
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