世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルス感染症。その感染拡大防止に伴う政府からの外出自粛要請により、人々は大きく、そして半強制的にライフスタイルのDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めることとなった。
Zoomをはじめとするリモートツールリテラシー向上による在宅勤務移行とオンライン会議・オンラインイベント等への参加、リアル店舗からECショップへの購買活動のシフト、置き配スタンスの普及等。外出自粛要請が解除された現状においても、政府による「新しい生活様式」公表を始め、ウィズコロナを前提とした“ニューノーマル”への模索が、各界で進んでいる。
そんな背景の中、ライフイベントの「出会いと結婚式」におけるオンライントレンドについて議論する場が、2020年6月17日にZoom上で開催された。
登壇したのは、デーティングアプリ「Dine(ダイン)」を開発・提供する株式会社Mrk & Co 代表取締役CEO 上條景介氏(写真左)と、完全オーダーメイドのオリジナルウエディング事業「CRAZY WEDDING」を展開する株式会社CRAZY 執行役員 吉田勇佑氏(写真右)。
オンラインデートとオンライン結婚式。両社が進めるオンラインサービスは、どのような思いで設計され、またどのような未来を描いているのか。本記事では、出会いと結婚式の未来に寄り添うLoveTechな勉強会の様子をお伝えする。
マッチングアプリ第3世代の旗手「Dine(ダイン)」
まずはデーティングアプリ「Dine」について、その概要とコロナ禍で開発されたオンラインデート機能について紹介する。
マッチングアプリ業界の異端児
「Dine」とは、「100回のメールよりも、1回のデート」というコンセプトのもと、マッチングしたユーザー同士の“ファーストデート”をアレンジするマッチングアプリ。「いいね」と一緒に行きたい飲食店を提案できるので、オンライン上のコミュニケーションを過度に重ねずとも、実際に会える設計になっている。マッチングから先の“デート”に軸足をおいた仕様になっていることから、“デーティングアプリ”という表現の方が正しいだろう。
「いきなり対面で会うのって、何かとリスクじゃない?」
そう感じる方もいるかもしれないが、従来のマッチングアプリには「マッチングしても実際に会えない」問題があった。
そもそもDine以前は大きく二種類のマッチングアプリ群があり、PairsやOmiaiに代表される、大勢の中から好きな条件で検索してマッチングしていく「第1世代型マッチングアプリ」と、Tinderやタップル誕生に代表される、カードをめくる感覚で気軽にマッチングできる「第2世代型マッチングアプリ」があった。だがいずれのアプリも、マッチング後にメッセージからコミュニケーションを始める必要があり、なかなかデートまでこぎ着けることができない悩みがあった。
そんなペインポイントを解消するべく、マッチングの段階で具体的なレストランでのファーストデート・セッティングまでワンストップで済ませてしまうのが、いわゆる「第3世代型マッチングアプリ」のDineだったというわけだ。
Dineで選択できるレストラン画面例
このような導線設計をしたアプリは、2017年リリース当時は皆無であり、マッチングアプリ業界の中では完全に異端児的存在であった。この辺りの詳細については、以下の取材記事もご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/20181017dine/”]約10日間で開発した「オンラインレストランDine」機能
Dineは「実際に対面でデートする」ことに重きを置いたサービスであるが、2020年3月より顕在化した新型コロナウイルス感染症の影響で、アプリでのレストラン予約数は逓減することになる。特に3月25日の都知事会見以降は予約数が激減し、減少幅ピークである4月11日は、通常時の10分の1以下にまで落ち込んだ。
Dineを通じてのレストラン予約依頼数の推移(提供:株式会社Mrk & Co)
「このままではユーザーがいなくなってしまう。」
そんな危機感から既存の開発計画を大きく前倒して、4月5日より10日間で開発されたのが、「オンラインレストランDine」という仮想レストランだった。様々なマッチングアプリのなかで最も早く、ビデオ通話機能を実装したのである(他マッチングアプリにおけるコロナ禍対応一覧はこちら)。
お相手とのマッチング後、オンラインレストランを予約することで、予約時間にアプリ内からレストランに「入店」可能となる。フードとドリンクはBYO(Bring Your Own)、つまり持ち込み制となっており、事前準備が整った上でアプリのオンラインレストランDineに入店すると、ビデオチャット機能がONになって、離れたお相手との会話が映像とともに楽しめるようになる。
特徴的なのは、ただビデオチャット機能が実装されただけでなく、二人の会話が盛り上がるような仕組みも機能として用意されている点。「出身地はどこ?」「好きな食べ物は?」といった基礎的な質問から、「残りの人生で何を成し遂げたい?」などお相手の深い内面を知ることができる質問まで、コース料理形式で10個のクエスチョンがお互いに提供される。また、デートの直前キャンセルやNo Showを防止するためのキャンセル料徴収システムも組み込み済で、ウィズコロナ時代のオンラインデーティングを考え抜いたUX設計となっている。
ウエディングのオーダーメイド文化を確立させた「CRAZY」
次はウエディング事業を展開する株式会社CRAZYについて、これまでの取り組みとコロナ禍で開発されたオンライン結婚式サービスについて紹介する。
ウエディング業界の異端児
Dineがマッチングアプリ業界の異端児であれば、CRAZYはウエディング業界の異端児と言えるだろう。
同社のメイン事業は完全オーダーメイドのウエディングプロデュースをする「CRAZY WEDDING(クレイジーウェディング)」。多くのウエディング会社が提供する“パッケージ型”のものではなく、まさにゼロから二人だけの世界観を反映したオリジナル結婚式を作り上げていくというサービスだ。
出展:CRAZY WEDDINGホームページ
拡大拡張によるフロンティア開拓が基本となる資本主義社会においては、コト・モノの均質化を進め横展開していくことが、一般的なプロセスとなる。ウエディング業界も同様で、業界各社は予め基本となるウエディングプランを用意し、そこにオプション形式で顧客の好みを追加・装飾して最終的な挙式提案を形作っていくのが“常識”だった。だが、CRAZYは「結婚式には人生を変えるほどのパワーがある」という創業以来の想いのもと、プランをパッケージ化しない戦略に舵を切り、一辺倒のマニュアル化が不可能な、まさに業界の常識からは外れたオーダーメイドウエディングを展開することとなった。
結果、創業より8年間で実に1,400組以上の完全オーダーメイドウエディングをプロデュース(2020年6月時点)。2019年2月には、自社ブランド会場「IWAI OMOTESANDO」(東京・表参道)をオープンし、「ゲスト中心」カルチャーの旗艦空間としてリリースした。
また。個人向けウエディングのみならず、2017年からは法人向けイベントプロデュース事業として「CRAZY CELEBRATION AGENCY(CCA)」も発足。企業の総会や周年パーティーなど、多岐にわたるイベントプロデュースを行なっている。
考えに考えてスタートしたオンライン結婚式サービス「Congrats」
(提供:株式会社CRAZY)
「結婚式は式場で執り行うもの」というのは常識であるが、2020年3月頃から新型コロナウイルス感染症の影響で、式の延期や中止が続出。各事業者でトラブルも多く発生するようになり、リアル空間での開催は困難を極める状況となった。そんな背景から、ウエディング各社は4月より順次オンラインでの結婚式サービスをリリースしていき、リアルの代替手段を構築していった。だが、なかなか市民権を得るに至らない。
その間、CRAZYが考えていたのは「顧客が“本当に”求めるオンライン結婚式のあり方」について。単純に今までの結婚式をライブ配信するだけでは、 顧客ニーズを満たせないだろうという強い仮説のもと、単なるコロナ対策ではなくサステナブルなオンラインサービス構築に向けた事業開発を続けた。そして5月に発表されたのが、オンライン結婚式サービス「Congrats(コングラッツ)」β版である。
これは、「時間やお金を必要以上に投資せずとも、新郎新婦、ゲストの記憶に残る結婚式を実現すること」を軸に設計されたもの。ネット環境さえあれば最短3日間で結婚式当日を迎えることができるようになっており、新郎新婦が設定した「参加費」をネット決済する仕組みとしている。
通常の結婚式だと打ち合わせ回数が多く準備事項も多岐にわたるが、Congratsであれば最小工数での開催が可能だ。またゲストにとっても、物理的な移動なく式に参列できるので、交通費や宿泊費含め、諸々の準備や出費も必要なくなる。詳細は以下の記事もご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/news/partner/20200520_01congrats/”]本記事執筆(2020年6月18日)時点で、Congratsには全国より40組以上が問い合わせをしており、内3組は実際にオンライン結婚式を実施している。さらにその中の1組は、以下の通り10日間で式の準備を終えたというから驚きだ。
(提供:株式会社CRAZY)
デートと結婚式、それぞれが描くオンラインサービスの在り方
ここからは両登壇者へのQ&Aセッションとなる。せっかくなので、それぞれの質問事項に対して1問1等形式で内容をご紹介していく。
Q. 結婚式という、人生の一大イベントをオンラインでやることに対して、利用者的に抵抗はないものでしょうか?
吉田氏(CRAZY):「選ぶ上でのハードルや、そもそもイメージがまだ湧かないという声は、率直に言ってまだまだあります。だからこそオンライン結婚式の選択肢が広がるには、相応のステップが必要だと感じます。
CRAZY WEDDINGも、最初は戸惑いがあったわけですが、実績を積むことで選択肢として認知されていった経緯があります。まずは地道に“文化”を作っていくことが必要なフェーズという認識です。」
Q. コロナ禍で、マッチングの傾向に変化はありましたか?
上條氏(Dine):「Dineは恋愛を主軸にしてはいますが、ユーザーさんの温度感はバラバラ。婚活目的の方から、ライトな層まで幅広くいらっしゃいます。
その中で、コロナ禍では多くの“ライト層”の方々が一時的に活動を停止していた印象です。もともとご飯を楽しむのがモチベーションとしてあって、それと合わさって外に出かけていたわけですが、その片方がなくなったことで、今は大人しくしていようとなったと思います。
一方、そういう人たちが一時的にいなくなったことで、真剣層の方々にとっては積極的にオンラインデートを使って出会う機会にもなっていきました。中には、ヤリモクみたいな男性が減った、と言った声もいただきましたね。」
Q. オンラインサービスをやってみて、面白い発見などはありましたか?
吉田氏(CRAZY):「リアルの結婚式と比較して、タイムスケジュールが特殊で面白いと感じています。通常はゲスト全員が一斉に式に参列し、披露宴に参加すると思うのですが、オンラインの場合は時間を区切る事ができるので、両家の時間、新婦側ゲストの時間、新郎側ゲストの時間と、それぞれ細かく区切ってコミュニケーションを取る事ができます。
あとは、結婚式をやった後に「今度はリアルでもやろうよ」という声が出てくるのも、オンラインならではだなと感じます。」
(提供:株式会社CRAZY)
上條氏(Dine):「オンラインレストランDineでは、MAX2時間までビデオ通話できるようにしているのですが、利用者の約3分の1は、最後ギリギリまでオンラインデートを楽しんでいるんです。まだ会ったことのない初対面の相手とです。これって結構すごいことだと思っていて、デート中の質問機能など含めて、満足度は高いんだろうと思います。」
オンラインレストランの滞在時間分布(提供:株式会社Mrk & Co)
上條氏(Dine):「ちなみに、デート後の「2回目デートへのモチベーション」アンケートを集計すると、オンラインでもリアルでもほとんど変わらないんですよね。なんなら、オンラインの方が少しだけ「また会いたい」が多い状況です。つまり、オンラインでも「また会いたい」気持ちは醸成できます。」
2回目デートへのモチベーション調査(提供:株式会社Mrk & Co)
Q. オンラインサービスという選択肢は、今後どうなっていくと思いますか?
吉田氏(CRAZY):「少なくとも今年は、人を呼びにくい状況もあってリアルに来場する人数は少ないと思うので、遠隔地の方を中心に選択肢としてオンラインが使われると思います。もしかしたら、オンライン参列という概念が広がっていくかもしれないので、この辺りは他社様と組むのもありだなと考えています。
また、高齢の方がスマホなどを持っていないケースもあると思うので、弊社の方でiPadなどの機材を用意・郵送して、電話ガイドの上で簡単に始められるような仕組みを早急に構築しています。もちろん、親族サイドで集まってサポートして頂きながら参列される形でも良いと思います。実際に、3組中2組では、そのようなケースがありました。
いずれにせよ、せっかくやるならコロナ対応だけの臨時的なものではなく、今後を見据えた選択肢を作るつもりでサービス構築を進めていくつもりです。」
Congratsではお食事の配送もオプションで行なっている(提供:株式会社CRAZY)
上條氏(Dine):「リアルのデートは、それこそ五感で相手を感じ取って、レストランデートの帰り道に二軒目に行くか否かを決めるという、ふわふわした選択肢があるわけです。これは、オンラインには絶対にない、リアルならではの体験です。
なので、今後オンラインがマジョリティになるかというと、そんなことはないと思います。」
Dineでのオンラインデート比率。4月のリリース直後は80〜90%近くがオンラインだったのに対し、6月になると20〜30%に落ち着くようになった(提供:株式会社Mrk & Co)
上條氏(Dine):「一方で、二つのケースでは今後オンラインのニーズが高まっていく可能性があるとも思っています。
ますが婚活ニーズ。たくさんのお相手に会いたい方にとっては、最初のデートをオンラインにするのは効率的だと言えます。現に、6月になってもオンラインデートをご利用されている方は、婚活ニーズの比較的高い方な印象です。
そしてもう一つが「Dine Tonight」。Dineには、その日にデートするお相手を探せる機能があるのですが、18時を超えると、途端にオンライン募集の比率が高まります。夜出歩くのが面倒な時間でも、誰かと話したいという場合、オンラインレストランは最適なソリューションと言えるでしょう。」
Dine Tonight募集におけるオンライン比率(提供:株式会社Mrk & Co)
編集後記
デートと結婚式。
いずれもオンライン化は相当ハードルの高い領域であり、安易なオンラインソリューションはブランドを壊しかねない分野だとも感じます。
そう考えると、両社のオンラインサービス設計思想は、中長期的な視点に立ったもので、非常に学びが多いですね。
私自身、コロナ禍を経てDineを使ったデートをオンライン・オフライン共に楽しんでいますが、オンラインデートを楽しんだ方にヒアリングしてみると、2時間丸々楽しんだという声が多かったです。
結婚式もデートも、今後はリアルかオンラインかという二項対立的な使われ方ではなく、どっちもメリットのある方法を部分的に取り入れる、というスタンスが、ニューノーマルな在り方だと感じた次第です。
スピード感を持って昨日開発を進めるDineと、結婚式というライフイベントに誰よりも当事者意識を持って寄り添うCRAZYの、今後のサービス展開を注視して参りたいと思います。