「レシピのない料理教室」がAI時代の子ども教育を革新する、ハクシノレシピ《後編》

インタビュー

 アクティブ・ラーニング× 料理の独自の教育概念である”キッチン学”を自宅で学べるハクシノレシピ。

 ”キッチン学”とは、アクティブ・ラーニングの学習方法で料理を学ぶオリジナルの教育概念。ハクシノレシピを提供する株式会社Hacksiiの代表である髙橋未来(たかはしみく)氏が、幼児教室勤務時代に学んだ子どもの脳発達プログラムを参考にして作られた。調理技術の向上ではなく、料理の各工程において主体性はもちろん、“思考力”、“判断力”、“表現力”の習得と向上を目的としており、これからのAI時代における必須のスキルを身につけるべく設計された教育プログラムだ。

 2月25日には、この“キッチン学”で子どもの脳活動が活発になることを実験を通じて確認したというリリースが発表され、名実ともにキッチン学が子供の脳発達を促す可能性が示唆された形だ。

 前編では、上記脳活動を測定するための株式会社NeUとの共催実験内容についてレポートした。後編では、代表・髙橋氏へのインタビューをお伝えする。

 なぜキッチン学を提唱されているのか、今回の実験結果をどのように受け止められているのか、そして今後のビジョンについてお話しいただいた。

》前編記事はこちら

ヤラセかっていうくらい、はっきりと結果が出てくれた

--今回の実験、とてもいい結果になりましたね!やはりキッチン学は子どもの脳活動を活性化させるんですね。

髙橋未来(以下、髙橋氏):ありがとうございます!

ヤラセかっていうくらいに、はっきりと結果が出てくれて、嬉しい限りです。

<前編より>映画鑑賞チームによるお留守番体験では、90分以上の映画をシッターと一緒に視聴したが、楽しんでいる様子ではあったものの、前頭前野の脳活動は高くはならなかった。一方、調理チームによるキッチン学体験では、全般的に高い脳活動が見られた(上図の下部を参照)。次に、キッチン学体験の工程の中では、野菜の説明から何の料理を作るか決めていく過程で左右の脳活動が見られたり、素材を切る時にも右前頭前野にて脳活動が上昇していた(上図の上部を参照)。また、ひき肉をエプロン先生と話しながらこねて形作ったりするシーンでも、左右両方の脳活動の上昇が見られたという。

 

--改めて、”キッチン学”誕生および今回の実験の背景と目的について教えてください。

髙橋氏:もともと私は以前、幼児教室で勤務していまして、そこで子どものための脳発達プログラムについて学んできました。

子どもの脳はどのように成長していくのか、という部分についてある程度知見がついてきた中で、次第に保護者の皆さまから、食や教育に関するご質問をいただくことが多くなっていきました。

私は食育インストラクターといった食に関する資格も取得しており、その時に「食と教育って密接にリンクしているな」と感じたことから、現在の”キッチン学”の元となる概念が生まれました。

 

--なるほど。

髙橋氏:そのあと、料理は脳の発達に効果的なんじゃないのかという仮説のもと、子どもの脳発達と料理の相関関係について色々と調べていきました。その中で、まさにドンピシャなデータを発見したんです。

そのデータを発表されていたのが、あのゲーム「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(ニンテンドーDS専用ゲームソフト)などを監修されている川島隆太教授でした。

「これは絶対にお話させていただきたい!」と思い、すぐにアポイントを取り、仙台にある東北大学まで行ってきました。その際に、川島教授がCTOを務めていらっしゃる株式会社NeU様をご紹介いただいたんです。そしてNeUの長谷川社長ともお話をした上で、今回の実験にご協力いただけることになりました。

これまでもキッチン学について、なんとなく脳に良さそうだということは言っていただけるのですが、きちんとしたエビデンスを提示することがユーザーにとっても重要と考え、NeU様の技術力が必要でした。

エプロン先生は家庭教育のパートナー

実験会場で子どものアイデア発想に寄り添うエプロン先生

--今回の実験結果を受けて、ハクシノレシピはどのように進化していくのでしょうか?

髙橋氏:今までは単発の料理アクティブラーニングレッスンという形で、それこそベビーシッターの代替的位置付けでサービス展開していました。

でも今回の実験結果を受けて、より継続学習形式にした方が子どもの脳発達に有効的だと考え、月謝制の習い事としてリニューアルすることにしました。

2019年4月から、新しいカリキュラムでの提供を開始します。

 

--具体的にどのようなメニューを想定されているのでしょうか?

髙橋氏:ベースとなる料理の知識や技術のインプットを行い、それを元にアレンジをする力を身につけます。最終的には、自分だけのオリジナルレシピを作れることをゴールに、カリキュラムに沿ってレッスンを行うことで、新しいアイデアを生み出すことができる人材を育成いたします。

髙橋氏:弊社の”キッチン学”には、一般的な料理教室が用意しているレシピがありません。子ども達はまっ白なキャンパスに自由に作りたいものを作ってもらう博士と位置付けており、だからこそ料理や手順を固定化するレシピは必要なく、毎回のレッスンでは冷蔵庫にある材料から自由に作るものを発想してもらいます。

ハクシノレシピは、「白紙のレシピ」であり「博士のレシピ」でもあるのです。

 

--鳥肌が立つくらい素敵なサービスビジョンです!そして、サービス名がビジョンにガッチリとはまっていて、素晴らしいですね。子ども達は実際にどのように学習していくのでしょうか。

髙橋氏:継続学習なので、毎月のレッスン受講を前提にしたコース制にしています。いずれも月1回からのレッスンが受講可能で、ライトコース・ベーシックコース・アドバンスコースの3種類をご用意しています。

ハクシノレシピサービスページより(2019年3月12日時点)

 

--オリジナル学習プリントとは何でしょうか?

髙橋氏:思考力をより深めるための弊社オリジナルの学習プリント教材です。調理器具の仲間分けや、レッスン中に学ぶことを応用したプリントになります。このプリントの特徴は、正解は一つではないということです。例えば、仲間分けにはいくつもの方法があります。具体な内容を言いそうになりましたが、気になった方は、是非お問い合わせください(笑)

 

--アドバンスコースではLINE@での個別相談ができるんですね!

髙橋氏:ハクシノレシピは、子ども達が“自分で考えて主体的に行動できる“ようになるために各ご家庭と並走する存在であり、エプロン先生は家庭教育のパートナーという位置付けになります。

LINE@では料理に関するご相談はもちろん、教育に関する内容など、子育て全般についての相談をしていただけるように準備しています。

パーソナルプランとお考えください。

 

--月一のレポートも、親御さんにとってはとても楽しみな内容ですね。

髙橋氏:レポートでは、お子さまの非認知能力(※)を”見える化”するために、レッスンの内容を「思考力」や「判断力」、「表現力」といった項目で点数化して、毎月の評価状況をグラフで可視化し、成長の過程を確認していただけるようにします。

更にはマナーなどの家庭教育の項目も追加し、通常の習い事では手の届かない範囲もケアしたいと考えています。

※非認知能力:IQや学力テストなどの認知能力ではないもの全般を示す。具体的には、誠実さや忍耐心、リーダーシップ、コミュニケーション能力など。経済学や心理学で使われる言葉。

採用基準は子どもと料理がとにかく好きなこと!

--エプロン先生はどのような基準で採用されていらっしゃるのでしょうか?

髙橋氏:採用基準は「子どもと料理がとにかく好きなこと」です!

 

--すごくシンプルでわかりやすいですね(笑)

髙橋氏:世の中には料理に関連する資格がたくさんありますが、弊社ではそこは必須にはしていません。

代わりに、将来「達成したいこと」をしっかりと持っているかをMUST条件にしています。

例えば弊社のエプロン先生の中には、「栄養教諭の地位を向上させたい!」という目標を持って仕事に取り組んでくださっている人がいます。

 

--栄養教諭ってなんですか?

髙橋氏:やはりご存知ないですよね。

栄養教諭は2005年から始まった新しい資格制度で、小・中学校の生徒に対して食の指導を行ったり、学校給食の管理・運営に携わる教員の資格なんです。

管理栄養士と比べて認知も低く、就職にも有利じゃないので、学校でも取得希望者がどんどん離脱するらしいんですよ。

でも、仕事内容的にとても大事じゃないですか。

だからこそそのエプロン先生は、今の仕事を活かして将来的には栄養教諭の存在をもっと広め、就職にも有利になるような資格にしたいと目標を掲げています。

 

--素敵なビジョンですね。

髙橋氏:すごく共感し、応援しています!

エプロン先生になってくださる方々とは、今の事業パートナーである以上に、その先を見据えた関係を続けたいと考えています。

 

--現在、ハクシノレシピサービスの対象地域はどちらでしょうか?

髙橋氏:4月1日のリニューアル直後は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県となりますが、今後順次拡張していきます。

 

--早く全国の子ども達に”キッチン学”を届けたいですね!それでは最後に、Love Tech Media読者の皆様にメッセージをお願いします。

髙橋氏:ハクシノレシピは、正解のない新しい教育概念を提供することで、AIやロボットが当たり前のように存在する社会を生きていく上で大切な“自ら考える力“や”行動する力“と同時に、思いやりの心など人として大切な能力を育みます。

私自身はテクノロジーに相当疎いのですが、他の得意な人たちに支えられて、今の事業含めて楽しく日々を暮らしています。

これからもテクノロジーが進化するのは間違いなく、それ自体はとても喜ばしいことだと思っています。だからこそ、人間にできることを高めていくのがすごく重要だと考えています。機械と共存できる力を身につけることで、自分に自信を持って生きていくことができるはずです。

ハクシノレシピはテックサービスではありませんが、テックに寄り添うサービスです。

この時代だからこそ、リアルな学びを高めていきましょう!

 

編集後記

料理という、人類が物心ついた頃から存在する行為をアップデートするような事業に、Love Tech Mediaとして興奮を覚えます。

 

何より、「ハクシノレシピ」というサービスネームに込めた思いが素晴らしいです。

 

脳活動が活発になるのはもちろん、子供にとっての貴重な成功体験の場に、家庭のキッチンがなることがとても尊いことだと感じます。

 

いずれ、子ども達が作った作品集なんてものも、ぜひ見てみたいと感じました。

 

これからのハクシノレシピに、大いに期待しています!

エプロン先生と髙橋氏

 

『ハクシノレシピ』詳細についてはこちらをご覧ください

 

本記事のインタビュイー

髙橋未来(たかはしみく)

株式会社Hacksii CEO

新卒でワークスアプリケーションズに入社。その後半年のニート期間を経て、姉の妊娠をきっかけに右脳教育の幼児教室で講師として勤務開始。その後、大手介護事業会社の本社にて人事職に従事。2018年2月に起業家デビュー、その後株式会社Hacksii(サービス名:ハクシノレシピ )を創業する。

LoveTechMedia編集部

「”愛”に寄りテクノロジー」という切り口で、社会課題を中心に、人々をエンパワメントするようなサービスやプロダクトを発信しています。

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