世界一の不妊大国とも言われる我が国で、夫婦1組1組に対し、中立的な立場で寄り添い続けるスタートアップ、株式会社ファミワン。当メディアでも第一弾インタビュー記事として、昨年6月にお話を伺っている新進気鋭のスタートアップだ。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/famione20180626/”]同社は妊活に取り組む夫婦に向け、LINEチャットを使ったパーソナルサポートサービス『famione(ファミワン)』を事業展開している。
これから妊活する人も、すでに深く妊活・不妊治療をしている人も、そして男女問わずどのフェーズであったとしても、LINEを通じてエビデンスに基づいたアドバイスを提供している。
この「エビデンスに基づいた」という点が重要である。
世の中には様々な妊活ソリューションが提供されており、中には根拠の乏しい内容であったとしても、堂々とサービスとして流通しているものがある。エビデンスがないものに対しては、そう伝えることも重要だが、意図的に曖昧な表現をしている場合も多い。根拠が乏しい=ダメなサービス、という二元論的な話をしたいわけではないが、サービス利用者の「安心・安全」といった点にフォーカスをすると、少なくとも根拠(エビデンス)に基づいた内容であるに越したことはないだろう。
そんな背景の中、エビデンスを重視したサービス設計を進めるファミワンが新たに、東京大学医学部附属病院と「生活習慣が体外受精(以下、IVF)の成功率に与える影響の解明」を目的とした共同研究を開始したと発表した。
いったいどのような内容なのか、どのような背景と目的で東大病院と組むことになったのか。本記事では、まず共同研究概要をチェックしたのちに、株式会社ファミワン代表取締役 石川勇介氏にこの辺りのお話を伺った。
生活習慣とIVF成績の相関を示すエビデンスがまだ少ない
石川氏によると、今回の共同研究に至る背景の一つは、「妊活領域における、信頼できる情報の少なさ」だという。
妊活において、WHOから発表されている「不妊の原因の約半数(48%)が男性にある」という事実自体は男女問わず認知が向上してきており、併せて「妊活は男女で取り組むもの」という意識も、少しずつではあるが広がっている印象である。
引用:医療法人浅田レディースクリニックホームページ
同社が監修に加わった、昨年放送のテレビドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)の影響も大きいだろう。
しかし、2016年に実施されたアンケート(バイエル社調査)によると、「妊活・妊娠に関する情報を正しく理解できている自信がない」との回答が60%と、多くの不妊で悩むカップルが不安を抱いているという結果が出ている。つまり、信頼できる情報にアクセスできていないのだ。
例えば、女性の加齢や子宮内膜症、喫煙がIVFの成績を低下させる原因であることはエビデンスと共に分かっているものの、一方で食事や運動、ストレスなどの生活習慣がIVFの成績に影響を及ぼすかを調べた論文の報告はまだ少なく、解明が進んでいないというのが現状だ。
つまり、「なんとなく良さそうだから」「数名に効果があった(と思われる)から」という理由で、上述に絡めた妊活サービスというものが存在しているということになる。
そこで、食生活や運動の習慣、生殖における生活の質QOLとIVFの治療成績を調べることで、これらの生活習慣や生活の質がどのように影響するのかエビデンスを取得するべく、しっかりとした体制で研究するというわけだ。
多施設共同の臨床研究
発表された研究は、ファミワンと東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)、さらには医療法人三慧会(以下、三慧会)の3者共同で進められるという。つまり、多施設共同の臨床研究というわけだ。
まずは東大病院と三慧会にて体外受精を行う女性を対象に、年齢やBMI、疾患などから、今回の臨床研究の被験者となる人をスクリーニングする。当然ながら体外受精のタイミングは通院者によってバラバラなので、スクリーニングも都度行われるものだ。
次に、「FertiQol インターナショナル」(※)をはじめとする既存の調査票を参考に、東大病院と共同で作成した生活習慣にまつわるアンケートを取得する。
※FertiQol インターナショナル:2011年に海外で開発された、不妊に関する生活の質(QOL)アンケート調査票。高得点であるほどに、QOLが高いことを示す。(欧州ヒト生殖発生学会および米国生殖医学学会)
その上で、各被験者のIVF成績や治療・投薬記録を取得していき、事前に回収していたアンケートデータ等とつき合わせ、生活習慣や生活の質がIVF成績にどのように影響するかを調べていくという。
「適切な被験者スクリーニング」「医学的観点に基づく調査票」「体外受精の各種成績」という3点が、今回の共同研究のポイントだと言えるだろう。
この情報を前提に、石川氏に共同研究を通じて目指すことや、その思いについて伺った。
まずは必要なデータを作るところから
--今回の共同研究、もともとどのようなきっかけで始められたのですか?
石川氏:もともと創業時から、こういった臨床研究をしたいと考えていました。これまでもいくつかのクリニックさんとお付き合いする中で、このような共同研究をしましょう、というお話があがっていました。
ただ、多くの場合は「うちのクリニックとだけなら」という条件指定がついてきました。
より幅広い母数の中からスクリーニングし、公平な環境で研究を進めたかったので、今回、東大病院さんに共同研究を提案しました。
しっかりと中央倫理審査委員会を経た上で進めています。
--なるほど。東大病院との共同研究であれば、名実ともに”ちゃんとした”臨床研究であることを示せますね。今回はファミワン・東大病院・三慧会の3者で進めるとのことですが、その役割分担はどのようになっていますか?
石川氏:今回の研究では、数百レベルの被験者を想定しています。東大病院と三慧会に来院される患者さんを対象にスクリーニングを実施して頂き、個人情報を除く形で患者データをご提供いただきます。また試験設計や質問票についても、両者にご協力頂いています。
被験者の生活習慣に関するアンケートと、IVFの成績や治療・投薬記録が揃ったら、その後のデータ解析を弊社と東大病院、共同で進めていきます。
--逆に、ちょっと失礼な質問かもしれませんが、東大病院が貴社と組む理由は何でしょうか?他にデータを持っていそうな企業や団体って、結構ありそうな印象です。
石川氏:ビッグデータ解析で多くの方が誤解されていることなのですが、ただデータが多ければ良いものではなくて、「解析の目的に沿ったデータ」が多く用意されている必要があります。
今回研究する「生活習慣とIVF成績の相関」を解析できるデータって、実はまだどこも持っていません。海外でも少しずつこれに関する論文は出てきているものの、ちゃんとしたものは非常に少ないです。
だからこそ、今回の共同研究では、そのデータを”作るところ”から始めます。
東大病院とは以前からこのような研究の必要性を話し合ってきており、先方もそれに対して非常に前向きだったので、今回、一緒にやりましょう!ということになりました。
妊活・不妊治療に関わる議論の健全な活発化が最大の目的
--今回の共同研究で、現時点で期待されている成果を教えてください。
石川氏:大きく3つあります。
まず1つ目は、どういった生活習慣の項目がIVFの成績にポジティブに働くか、ということが解明されることです。これまでほぼ仮説ベースでしか語られてこなかった部分を、科学的に分析できます。
2つ目は、どのような人に対して、どんな治療方法や投薬が、IVF成績に影響を及ぼすかというところも、見える化できるようならしたいですね。医師の判断の1つの参考情報になれるレベルまで精度を高めされると、非常に有効なものになります。
いずれも貴重なデータになるでしょう。
--なるほど。
石川氏:そして3つ目が、妊活や不妊治療に関わる議論の健全な活発化です。
この領域では、どこかから論文を1つ引っ張ってきて、これが正しい、これが間違いといった二元論的な言い合いを続けている、というのが現状です。
今回弊社がこの共同研究を発表することで、「うちは1万件でやったらこうなった」「うちは50名の被験者だけど、もっと厳しい試験設計でやったらこうなった」など、議論の性質がちょっとずつ変わっていけると考えています。
このきっかけ作りが、実は一番期待している成果です。
--なるほど。現状の妊活や不妊治療に関わる議論って、そんな状況なんですね。
石川氏:例えば「冷え性が妊活に悪い」もしくは「影響しない」という議論にしても、何を持って冷え性とするか、なぜ悪いとされているのか、もしくはそうでないか。あいまいなまま議論が繰り返されている印象です。
どう社会を変えるか、という軸を大切にしています
--ある意味、儲けるためだけならばこんな共同研究をする必要はないと思いますが、あえてこのような研究を進め、妊活市場をより健全にさせようとするのは、なぜなのでしょうか?
石川氏:やはり、僕自身が妊活した時に感じた「現状の妊活関連情報への課題感」という原体験からですね。
(詳細は前インタビュー記事をご参照:妊活夫婦にLINEで寄り添うファミワン《前編》)
そもそもこの会社を立ち上げたきっかけです。
サプリのアフィリエイトとかもやったほうが儲かるよ、という外部からのアドバイスを何百回も言われ続けてきましたが、そうではなくてまず最初に「どう社会を変えていくか」という軸を大切に、活動してきました。
--創業時から一貫して変わっていませんね。
石川氏:あと、これは次の段階の話なのですが、今回の共同研究を通じて、例えば「食」「睡眠」「運動」といった具体的な項目がIVF成績に影響することが判明したら、今度はそこを深掘っていきたいと考えています。
その際には、今度はAMED申請や製薬企業との共同研究といった、より一層の連携も積極的にしていきたいですね。
理想としては、地域ごとの特性や、結婚年齢、住居形態(二世帯住宅か単世帯住宅か等)との相関なども将来的に取得できたら、妊活・不妊治療における選択肢の指針が広がっていくのではと期待しています。
そうなってきたら、弊社でも以前進めようとして断念した妊活プログラムといったものも、今度はエビデンスに基づいた内容で設計できると考えています。
ファミワンでは数年前に、FLIPP(フリップ:Fertility Life Improvement – Personal Program)と呼ばれる妊活力改善プログラムを設計し提供を試みたが、今回のインタビューでお話されたエビデンスの不足に課題を感じ、展開を見送った経緯がある。
今回の共同研究を経た成果を通じて、改めてバージョンアップしたサービスが同社からリリースされることが、今から楽しみだ。