親子起業の12歳中学生社長が「感覚過敏研究所」を発表、当事者集まるプラットフォームの始動

インタビュー

記事の要点

・親子起業スタイルで設立された株式会社クリスタルロードが、感覚過敏のある人の暮らしを快適にするための「感覚過敏研究所」をリリース。取締役社長である現役中学生・加藤路瑛(じえい)氏が、同研究所 所長に就任。

 

・感覚過敏に関する困りごとの洗い出しや情報発信・啓蒙活動、当事者やサポーターが集まるコミュニティーの運営、感覚過敏の対策グッズの企画・商品化などに取り組むオンラインベースのメディアコミュニティであり、将来的にはテクノロジーを活用しての課題解決も目指していく。

 

・感覚過敏のある当事者とその家族が悩みや情報を共有できるコミュニティー「かびんの森」には、当事者とその家族は無料で参加できる。

LoveTechポイント

感覚過敏の症状は、一般的にイメージしにくいものであるからこそ、なかなか理解を得ることができず、当事者は苦しむことになります。

今回発表された「感覚過敏研究所」は、そういった方々に心理的安全性を提供するスペースになり得ると感じており、非常にLoveTechだと感じます。

編集部コメント

読者の皆さんは「感覚過敏」をご存知だろうか。

 

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など、身体における諸感覚が非常に“敏感”になっている状態のことを示す言葉だ。

 

例えば味覚過敏の人は食べ物を口にした際にまるで砂利を食べているような感覚になるので食事がままならず、また聴覚過敏の人は周囲の音がやけに大きく騒がしく感じてしまうので対面にいる相手とのコミュニケーションがままならない

 

もちろん上述の症状はほんの一例であって、症状の出方や程度は人によって千差万別だ。

 

以前当メディアでも「視覚過敏」「聴覚過敏」当事者の知覚世界をVR技術を使って体験するというサービスを取材したことがあり、該当記事を担当した筆者は、その取材がきっかけで聴覚過敏の傾向があることを初めて「自覚」することができた経緯がある。

 

そう、「自分が感覚過敏だ」ということに気づいていないケースも多く、そうであるがゆえに他の人と違う自分に悩んでしまうことも多いわけだ。

 

そんな感覚過敏の症状があるために日常生活において悩みや問題を抱えている人が、快適に暮らせる社会を目指すための「感覚過敏研究所」が、株式会社クリスタルロードからリリースされた。

https://kabin.life/

 

具体的には、感覚過敏に関する困りごとの洗い出しや情報発信・啓蒙活動、当事者やサポーターが集まるコミュニティーの運営、感覚過敏の対策グッズの企画・商品化などに取り組むオンラインベースのメディアコミュニティであり、将来的にはテクノロジーを活用しての課題解決も目指していくという。

 

なぜこのテーマでサービスがリリースされたかというと、クリスタルロード 取締役社長の加藤路瑛(かとう じえい)氏自身がその当事者だからだ。

 

なんと、現役の中学生(中学2年生)である。

 

同氏は、食べ物のにおい・味・舌触り・見た目等で気分が悪くなることが多く、また教室や雑踏での騒しい声が苦手で頭痛や体調不良を起こす。さらには衣服の重さにも敏感とくるので、五感に何かしらの敏感さがあるという。株式会社という箱を持って自分の困りごとを解決することが、そのまま人の役にも立てるのではないかという考えから、昨年末12歳(中学1年生)の時に起業し、複数プロダクトをローンチした後に、今回の感覚過敏研究所を立ち上げたという流れだ。

路瑛氏が、所長を兼務するという。

 

そしてもう一つユニークな点が、同社が「親子起業」だということ。

 

取締役社長が加藤路瑛氏なのに対し、代表取締役が路瑛氏の母である加藤咲都美(かとう さとみ)氏になるという。会社ではボードメンバーとしての関係であると同時に、家庭では親子の関係だ。

写真左:株式会社クリスタルロード 取締役社長 加藤路瑛氏、写真右:代表取締役 加藤咲都美氏

 

咲都美氏路瑛は、それこそ4歳の頃から「働いてみたい!」と言っていた子どもだったのですが、私たち親は、勉強して大人になってから働きなさいと話していました。

でも中学1年生の時、理科が好きだった息子に『ケミストリークエスト』という元素記号のカードゲームを買ってあげたんですね。それが、小学校6年生(12歳)の時に起業した米山維斗さんの会社の製品だったんです。その時にお互い初めて、小学生でも起業できる方法(※)があることを知り、そこから色々と調べていって、私が代表取締役になることで路瑛が社長として活動できるよう会社を設立しました。

代表権だけが私にあって、事業はほぼ全て息子が進めています。

※株式会社を作る際には「印鑑証明」が必要になるが、満15歳以上でないと印鑑証明を作ることはできない。つまり、15歳にならないと代表取締役として会社を作ることはできない。一方で、今回の加藤家も上述の米山家も、両親のいずれかが代表取締役になり、子どもが取締役社長という形で登記を進めることで、満15歳未満でも社長役職に就任させることが可能となる。路瑛氏はこれを「親子起業」と呼んでいる

 

同社は、会社としてまだ設立1年ほどだが、これまで複数のプロダクトを世に提供している。

株式会社クリスタルロード ホームページより

 

そこにある一貫した想いは、「今」をあきらめなくていい社会を作ることにあるという。

 

咲都美氏:路瑛自身がかつて感じていた、お金や年齢や常識を理由に夢を諦めないことをビジョンに掲げています。今回の感覚過敏研究所も、自分が感覚過敏の当事者であることから、障害などの特性を持っているがゆえに諦めている人たちをサポートしていきたい、という想いを持って立ち上げられました。

 

路瑛氏が感覚過敏の症状を感じていたのは小さい頃からだったが、それが「感覚過敏」だと認知できたのは、ここ1年ほどだという。

 

遡れば小さい頃から、路瑛氏はものを食べるのが苦手だったわけが、咲都美氏もお父様も「いずれ偏食しなくなるだろう」くらいに思っていたという。だが、時間が経つにつれて症状がどんどんと研ぎ澄まされていくような印象で、これはちょっと違うかもしれないと感じていったという。

 

咲都美氏:2018年末に会社を設立したのですが、その前後で息子が学校で感じる居心地の悪さに拍車がかかっていったんです。それが何なのかを一つひとつ紐解いていくと、クラス内の騒がしい音が苦手だったり、食べ物の臭いがダメなのでお昼ご飯の後の教室の臭いが苦手だったり。

そのことを担任の先生に相談した時に、初めて『聴覚過敏』という言葉を教えてくれたんです。そこから、路瑛が感覚過敏なんだということがわかるようになりました。

 

今回発表された感覚過敏研究所は、路瑛氏が感覚過敏の自覚症状がある人をSNSで募集し、一晩で集まった25名と話し合いながら立ち上げたという。メンバーには中高生から大人までおり、また感覚過敏のある子どもを持つ親も参加しているという。

 

そんな感覚過敏研究所内には、現在2つのコミュニティ窓口が設置されている。

 

一つは、感覚過敏のある当事者とその家族が悩みや情報を共有できるコミュニティー「かびんの森」。メンバーからの困りごとから、対策グッズなどの商品化やサービスの企画をみんなで考えていく場であって、当事者とその家族は無料で参加できるという。

 

もう一つはサポーターコミュニティ。当事者や家族ではないが、支援したいと考えるサポーターメンバーだけが閲覧・参加できる場も別途設けられており、研究所の運営を話し合うチャンネルにも参加でき、運営やサービス企画などにも参画することができる。ここから、専門家や支援者のネットワークを構築できることも目指しているという。

 

障害や各種症状など、当事者によるサービス開発こそが、共感と使いやすさのUXが誕生すると感じている。『感覚過敏』という症状が未だ認知が十分に広がっていない現状だからこそ、本研究所の役割も重要なものであると感じる。

 

本記事を読んで「あ、私、○○過敏かも」と感じられた方は、まずは感覚過敏研究所のサイトをご覧になってみてはいかがでしょう。

 

視覚過敏の方でもストレスなく閲覧できるよう、色彩調整やボタン配置などが工夫された「やさしい設計」となっているので、例え当事者であったとしても安心してご覧になれる。

https://kabin.life/

 

以下、リリース内容となります。

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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