人間のようなロボットの心を作り進めるロボマインド《前編》

ここ最近、見ないことはなくなった人工知能(以下、AI)に関するニュース。かつてインターネットが私たちの社会・産業を大きく変えたように、AIも私たちを次のパラダイムに連れて行こうとしている。
しかし、多くの方がAIについて誤解している。「AIはなんでもできる」と勘違いしている方が多いが、現時点でできることはまだまだ限られている。
例えば会話。いわゆる自然言語処理である。世の中にある大量の文章をAIに読ませることで、一見受け答えができるようになる。例えば自動車のカタログを大量に読ませることで「人気の車種は?」「人気のボディー色は?」などの質問には答えられるようになるだろう。しかし「自動車でアクセルとハンドルとではどちらが高い位置にありますか?」という簡単な質問には答えることができない。なぜなら、学習させる元となる自動車のカタログには、そのような観点での解説は書いていないからだ。そもそも、「3次元空間」といった概念を持っていないから、「どちらが高い?」という質問に答えられないのである。
現状のAIはこんなこともできないのである。人間であれば、常識として悩むまでもない質問に対して、である。
本記事では、既存のトレンドとは異なるアプローチで、AIに「心」と「会話」を持たせようとする企業を取材した。兵庫県神戸市に拠点をおく株式会社ロボマインドである。同社は「ロボットの心」、いわゆる汎用人工知能を作る「ロボマインド・プロジェクト」を進めている。
Love Tech Mediaでは前編・後編に渡り、同社代表取締役である田方篤志氏にインタビューした。
まず前編では、ロボットの心を考える上で前提となる3つの物語と、田方氏の事業展開に至るまでの部分にフォーカスをしてお話を伺う。
ロボットの心にまつわる3つの物語
そもそも、ロボットの心とは何か。何があれば心となるのか。
初めに、同社が公式ブログで発信している「ロボットの心について考える」3つの物語を紹介する。
[第一の物語]
メアリーは山が好きな山ガールです。今日も、大きなリュックサックを背負って登山していました。
すると突然、メアリーのわずか数メートル先に熊が飛び出してきました。熊は腹を減らせているようで、今にもメアリーに飛び掛かりそうでした。メアリーは驚いて、その場に立ちすくんでしまいました。
このままだと、熊に襲われて食べられてしまう!例え全速で逃げても、すぐに追いつかれてしまう。どうしよう・・・
「そうだ、いいことを思いついたわ!リュックサックを熊の前に投げつけよう。リュックサックには食べ物がいっぱいはいってるし、熊がリュックサックをあさっている間に逃げよう」
そう思いつくやいなや、メアリーは熊にリュックサックを投げつけました。
思ったとおり、熊はリュックサックに飛びつき、中の食べ物を引っ張りだしてその場で食べ始めました。
その隙にメアリーは全速で走り、無事、逃げることができました。
[第二の物語]
この物語では、メアリーは荷物をリュックサックでなく、荷物運搬ロボットで運びます。四足運搬ロボットです。メアリーが「ついて来い」と言うと、どこまでも後について来ます。
しゃべることはできませんが、簡単な命令なら聞くことができ、山道もへっちゃらです。
ボストンダイナミクス社の犬型ロボットをイメージしてください。
今回も、突然、メアリーの前に熊が飛び出てきました。
今度もメアリーは驚いて立ちすくんでしまいました。
このままだと熊に襲われてしまう!逃げても、すぐに追いつかれてしまう!
「そうだ、運搬ロボットを熊に突進させよう」
そう考えると、メアリーは、運搬ロボットが熊に向かうようにスイッチを切り替えました。
運搬ロボットが熊に向けて突進すると、思ったとおり、熊は運搬ロボットに襲い掛かり、メアリーはその間に逃げることができました。
[第三の物語]
第三の物語でも、運搬ロボットが出てきます。ただ、第二の物語の運搬ロボットと違って、このロボットはメアリーと会話ができます。メアリーも、このロボットをロジャーと名付けています。
「お嬢様、足元に気をつけてください」
「お嬢様、疲れていませんか?そろそろ休憩にしましょうか?」
「ロジャー、あなたはいちいちうるさいわねぇ。私はこのぐらいの山道は平気よ」
山道を歩いていると、またもや、突然、熊が飛び出てきました。メアリーは思わず立ちすくんでしまいます。
このままでは、熊に襲われてしまう!とそう思ったとき、何者かがメアリーと熊の間に入り込んできました。
ロジャーです!
「お嬢様、ここは私が引き受けますので、お嬢様はすぐに逃げてください!」
「何言ってるの!そんな大きな熊が相手だと、あなたが壊れてしまうわ。速く逃げましょう!」
「お嬢様こそ何を言っているのですか。私はただのロボットですよ。
ロボットが壊れるぐらい、気にすることございません。
私が熊の相手をしている間に早く逃げてください」
そう言う間に、熊はロジャーに襲い掛かり、噛み付き始めました。
「は、早く、お逃げくださ・・・」
熊がロジャーの音声回路に噛み付いたのか、ロジャーの声が途切れてしまいました。
ロジャーの死を無駄にするわけにはいかない。そう思い、涙を振り切ってその場から逃げ出しました。
こうして、ロジャーのおかげでメアリーは無事、山を降りることができました。
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