ロボットの心、マインド・エンジンの研究開発を進める株式会社ロボマインド。
前編では、ロボットの心を考える上で前提となる3つの物語と、代表取締役 田方篤志氏の事業展開に至るまでの部分にフォーカスをしてお話を伺った。
後編では、現在研究開発を進める「ロボットの心」について、より詳しい内容を伺った。
※前編記事はこちら
意識と無意識を先に理解しましょう
--ズバリ伺いますが、ロボットの心って、どうやって作るのでしょうか?
田方篤志(以下、田方):ロボットの心を理解するときに、前提となる考え方があるので、かいつまんでお話しさせてください。
まず意識と無意識の考え方についてです。
カエルを思い浮かべていただきたいのですが、カエルってハエや蚊が飛んでいると、長い舌を使って捕食して食べますよね。あれって意識的にやっていると思いますか?
--たぶん、「あれ食べたいなー」と思ってやってるわけではないと思うので、無意識ですかね。
田方:そう、あれは無意識なんです。ちょっと固い表現をすると、無意識の活動は、外界からの入力があると、自動的に身体の行動という形で出力します。カエルは外の世界の状況に応じて単に反応しているだけなので、世界を見ているわけではないのです。
一方、意識って、外の世界と切り離されて、頭の中だけで活動できるんです。さっきおっしゃったように、ハエが飛んでいるという外の世界の状態に関わらず、考えたり迷ったりします。
「盲視」って聞いたことありますか?
--はじめて聞きます。
田方:盲視は、脳内の視覚情報処理の一部が損傷した場合に起こる症例です。盲視の患者さんは、全く目が見えないと言います。スクリーンに光点を表示させて、「どこに光点があるか分かりますか?」と聞いても、当然、「全く分からない」と答えます。
そこで、「デタラメでもいいから、適当に指で指し示してほしい」と言って指し示してもらうと、驚いたことに、すべて正確に指し示すことができるのです。本人としては、本当にデタラメに指を指しているにも関わらず、です。
これが盲視です。この例だけでなく、飛んでくるボールをよけたりなど、さも見えているかのようなことができるんですね。
このことから、視覚には「見たものに対して自動的な身体動作で対処するもの(=無意識的)」と「見えていると頭の中で認識していること(=意識的)」の2つがあると分かります。
マトリックスって本当ですよ
田方:じゃあこの「見えていると認識している」世界はどのように構築されているか、ということなのですが、結論としては、僕たちは「世界を脳内で再構築している」と考えます。
つまり、僕たちの意識が直接感じ取っているのは、脳が作り上げた仮想世界だということです。
--だんだん映画「マトリックス」みたいな話になってきましたね。
田方:まさにそうです。
マトリックスって、毎日普通に生活していると思われていたのは現実の世界でなく、コンピュータによって見せられていた仮想現実の夢だった、という話じゃないですか。実はそれが僕たちの世界でも行われています。
僕たちは、眼や耳を通して現実の世界を感じていると思っていますが、実は、僕たちの意識が直接感じ取っているのは、脳が無意識に作り上げた仮想世界だってことなんです。
僕はこれを「意識の仮想世界仮説」と呼んでいます。
もちろん、仮想現実の中身はマトリックスみたいにカプセルの中で延々と培養されている、ということではなく、現実を忠実に模倣したものだということなんですけどね。でも、現実世界でないことには違いはありません。今も、僕たちが見ている世界は仮想世界なのです。
--すごく斬新で挑戦的な仮説ですね!
田方:そうなんですよ。これ、ブログにも書いていて、個人的にはすごい仮説を世の中に出したと思っているんですが、あんまし反応がないんですよね(笑)
この仮説を使えば、いわゆる人工知能に関わる未解決問題、シンボルグラウンディング問題(記号接地問題)だとか、意識のハードプロブレムだとかが解決できると考えています。というか、解決しました、というブログをすでに書いています(笑)。
それと、「フレーム問題は解決済み」というブログは一番読まれていますね。
ちなみに、これもこれからブログに書こうと思っているのですが、脳科学の分野で「人間には自由意志があるのかないのか」という難問があるのですが、それについても、この意識の仮想世界仮説を使うことで説明することができると考えています。
ロボマイ語という独自の言語を作りました
--実際に意識って、どのようにプログラミングされるのですか?
田方:先ほどお話しした意識と無意識の考え方を元に、意識をプログラムで再現します。
さっき、意識と無意識の第一の違いは、入力と出力が直結しているのが無意識で、入力された情報を基に頭の中に仮想世界を創り、それを操作するのが意識だ、ということをお話しました。
もう一つの違いは、無意識は変更不可能で、意識は変更可能だということです。
僕の体験なのですが、小さい頃にタクシーに乗ってひどい乗り物酔いになったことがありました。それ以来、タクシーのあの独特の匂いを嗅ぐと、たとえタクシーに乗っていなくても乗り物酔いになってしまいます。無意識のところで反応してるんですね。無意識は、体が勝手に反応するタイプの処理なので、変更することができないんです。
一方、例えば正月にしか会わないおじさんの例を考えます。小さい頃にたまにしか会わないおじさんはいつもムスっとしていたから、怖い人だという認識がありました。でもある時、宿題で困っている僕を親身になって手伝ってくれたことで、実は優しい人なんだという認識になりました。つまり、意識は、頭の中で考えるタイプの処理、言い換えれば、頭の中の仮想世界を操作する処理なので、変更することができるんです。
ものすごくざっくり言うと、コンピュータで無意識を作るにはセンサーからの入力に反応して手足を自動で動かせばよく、逆に意識プログラムは、頭の中の仮想世界を操作するコントローラと言う位置付けで実装するべき、と考えています。
現在のほとんどの人工知能技術は圧倒的に前者が強く、後者は実現できていません。
ロボマインド・プロジェクトは、後者を実現するものです。
ちなみに、頭の中の仮想世界を操作する言語として、「ロボマイ語」という専用のプログラム言語を開発して実装しています。
--どんどん複雑な話になってきましたが、つまりは、入力された言葉(自然言語)をロボマイ語に変換して、仮想世界を操作することが、言葉の意味を理解するということですかね。
田方:そうです。まさに、その通りです。今考えているのは、人と会話できるチャット・ボットです。
現在世の中にあるチャット・ボットって、結局は人間があらかじめシナリオを書いてそれに従って動くだけのものなのですが、僕が作ろうとしているシステムは、人間と同じ心を持ち、相手の言いたいことや文脈を理解することができます。ですので、自然な会話が続き、心が通ったコミュニケーションがとれます。
最初の実験ジョークアプリとしての「メニューメーカー」
--現時点で何か動くものってあるのですか?
田方:まだまだ研究開発の途上なので、今お伝えしたチャット・ボットとしてはありません。でも、実験的に作った、冗談半分のアプリならありますよ!メニューメーカーというWEBアプリです。
--どういうものなのでしょうか?
田方:簡単にいうと、料理名を作るアプリです。最初から高度な文章をプログラミングするのはとても難しいので、ある程度単語を絞り、適当に組み合わせただけで意味のある言葉が生成できるものはないかと考え、思いついたのがこの料理名生成プログラムです。
操作いただくとわかると思いますが、正直、おバカAIなので生成された料理自体はあくまでジョークです。ただ僕が提案したいのは、会話できるAIにしろ、コンピュータゲームにしろ、そろそろ、決められたセリフだけをしゃべるのは終わりにしようということです。
シューティングゲームであたかも敵が操縦しているように、その場で動きを自動生成するように、セリフも、その場で単語から自動生成しようということです。
《メニューメーカー》
https://robomind.co.jp/menumakerpage/
--今実際にやってボタンを押してみたのですが、「天涯孤独なお父さんの嫌いな熱帯魚に、ワインをしかたなくかけたコンソメスープ」っていうメニューが表示されました(笑)
田方:くだらないでしょ(笑)
でもこれが、単語から文を組み立てる第一歩なのです。予めいくつかのメニューを用意しておいてそれを出力しているのではなく、バラバラの単語からその場で組み立てて、毎回メニューを生成しています。そのため、少ない単語でも、無限のメニューを生成できるようになっています。
夢はあくまで「面白い物語の自動生成」です
--今日は数歩先の未来の姿をイメージできた気がします!田方さんの今後の目標を教えてください。
田方:僕の夢は、あくまで「面白い物語を自動で作ること」なんです。そのためにはロボットの心がどうしても必要だから、このような研究開発を進めています。
今までは一人でシクシクと研究開発を進めていたのですが、資金的な基盤も少しずつでき、そろそろちゃんとした組織体制で進めていかねばと考え、先日から採用を開始しました。
年内から来年頭にかけて、まずは動くシステムのベータ版をリリースできるようにしたいなと考えています。
--あくまで物語の自動生成なんですね!その初心が素敵です。最後に一言お願いします。
田方:ディープラーニングなどの現在主流のAIは特化型人工知能と呼ばれていて、画像認識や囲碁・将棋・チェスなど特定の分野では、人を凌駕するまでになってきています。
でも、囲碁や将棋で人間に勝てたからと言って、何か他の仕事ができるわけではありません。今、求められているのは、「あれをやって」と頼めば何でもやってくれる人工知能です。人間のように、言葉で説明すれば、その通りに仕事をしてくれる人工知能です。これを汎用人工知能といいます。シンギュラリティの鍵となる技術ともいわれています。
汎用人工知能には、言葉の意味を理解できる技術が不可欠ですが、まだ、誰も実現できていないのが実状です。株式会社ロボマインドは、「言葉の意味の理解」を実現できる世界で唯一の会社です。
シンギュラリティを起こしたいという方は、是非、弊社までご連絡ください。
現在、絶賛ロボットの心開発エンジニアを募集しております!
--最後は採用の宣伝になりましたね(笑)ありがとうございました!
編集後記
これまでにないアプローチでロボットの心を作るプロジェクト、と聞いて思わず関西まで取材に伺ってしまいましたが、その価値は十分すぎるほどありました。この取材の後、田方さんと一緒に飲みをご一緒したのですが、本取材以上のディープなお話を伺うことができました。
田方さんの研究開発内容はまだまだこんなものではなく、詳細は会社HP内の研究開発ブログをご覧いただきたいと思います。
以下が最初のブログ投稿となるので、是非ここから順番に読まれることをお勧めします。
(前編でお伝えした3つの物語は、ここから引用いたしました)
Love Tech Mediaでは今後も、ロボマインド社の挑戦を追っていきたいと考えています。
本記事のインタビュイー
田方篤志(たかたあつし)
株式会社ロボマインド 代表取締役
30歳になったとき、ロボットの心を作るアイデアが、ふと、ひらめく。コンピュータに意識を発生させ、人間と同じようにしゃべることができるロボットの心のアイデア。まずは、「プログラム入門」という本を買って来て、勉強を始める。かなり無謀なチャレンジと気づいた時には時遅く、既に会社を辞め、毎日、図書館に通って研究漬けの生活をしていた。収入もなく、このままでは生活できないと思ったとき、ふと、ひらめく。「そうだ、働かなくてもお金が入る仕組みを、先に作ろう」と。そうして、いくつかソフトを作り、そこから権利収入を得られるようになった。今は、AIの研究に専念している。