デジタルサイネージを内蔵させた機密回収ボックスe-Pod Digital。ボックスそのものがメディアとなって広告配信することでマネタイズするという、非常にユニークなビジネスモデルである。
企業にとっては従来有料でしか利用出来なかった機密書類の処理コストが、業界で初めて「タダ」で利用できるようになり、また広告主にとっては企業のオフィス内にいるビジネスパーソンに対してダイレクトに自社の広告訴求ができるという、双方にとってこれまでにないメリットが提供されるものだ。
前編ではこのe-Pod Digitalの事業概要について、本事業を展開するTAAS株式会社 代表取締役兼CEOの大越隆行(おおごしたかゆき)氏に詳しくご説明いただいた。 後編では、大越氏がどのような経緯で同社を立ち上げ、どのような思いで現在の事業を運営され、どんな未来を見られているのか。この部分について、詳しく伺った。
大企業とベンチャー、それぞれで得た経験と感覚
--改めて、大越さんのこれまでのご経歴を教えてください。
大越隆行(以下、大越氏):新卒でHRTechベンチャーの株式会社groovesで3年半ほど働き、その後25歳でアマゾンジャパン合同会社に転職しました。そこでの経験が一番長く、丸5年間務めたあと、起業前提でランサーズ株式会社に入り、海外子会社の役員を経て、2016年9月に独立。TAASを創業しました。
--ベンチャー→大企業→ベンチャーというユニークな経歴ですね!
大越氏:私自身、学生の頃から起業したいという思いが強く、就職活動の時も大企業への就職は一切考えず、ベンチャー1本でしたね。
--なぜそこまで新卒ベンチャーと考えられていたのでしょうか?
大越氏:将来起業するためには、様々なことを一人でできるマルチプレイヤーとしての能力が必要になると考え、業務が細分化された大企業よりも、そうでないベンチャーを選ぶことにしていました。
--なるほど。でもそこから今度は、アマゾンという大企業に転職されましたね。それはなぜなのでしょうか?
大越氏:ビジネスの基本はモノの売り買いです。起業するにあたって、その部分で大きなイノベーションを起こしていたのが、当時のアマゾンでした。これは絶対に勉強になると考え、5年限定で働くと決め、転職しました。ちなみに、今でこそ何千人もいる日本法人ですが、当時はまだ200〜300人程度しかおらず、非常に刺激的な職場でした。
今振り返ると、そこでの経験が最も大きな気づきを与えてくれましたね。
当時の時点で、ビッグデータなどテクノロジー関連では間違いなく最先端を行っており、「イノベーションとはこういうことだ」という、ある種の物差しが自分の中にできました。
--5年限定というのはなぜだったのでしょうか?
大越氏:率直に申しますと、外資という相当厳しい世界の中、とりあえず5年頑張ってみようと思ったんです。毎年相当の割合の従業員がクビを切られていますからね。
--でも結果として、大越さんはアマゾンジャパンで世界最年少の事業責任者に就任されましたよね。
大越氏:今はどうかわからないですけどね(笑)
入社直後は営業部隊として出店事業者の開拓やフォローをしていたのですが、半年でトップセールスになり、それを評価いただいての就任だと思います。
本来はMBAホルダーの40歳くらいの方がなるポジションなので、社内でも色々と批判も多かったです。でも、とにかくがむしゃらについて行くことだけに集中して、就任数カ月で少しずつ慣れていきましたね。
--すごいですね!さらに、アマゾン退職後に、もう一度ベンチャー企業に入社されていますが、それはなぜなのでしょうか?
大越氏:当初は5年頑張った段階で退職してそのまま起業しようと思っていたのですが、5年経った後に自分を振り返って、ベンチャーで事業をゴリゴリと進めることへの感覚が鈍っていることに気づきました。
これはもう一度、急成長中のベンチャーで武者修行するべきだと判断し、ランサーズの創業社長に直談判し、1年限定で働かせていただきました。
入社後すぐに役員につき、フィリピンでの子会社設立と取締役就任を経て、約束通り1年後に退職し、TAASを創業しました。
大学生の頃から決まっていた社名TAAS
--TAASという御社名は、どういうきっかけでつけられたのでしょうか?
大越氏:この社名、大学生の時にすでに決まっていたんですよ。
サラリーマンとして一生を終えるのではなく、自分で会社をやるんだろうなってのは、高校生の時から漠然と思っていまして、大学生になるとそれがさらに具体的になっていきました。
色々と妄想する中で、自宅の部屋のメモ帳に、将来会社を立ち上げるとしたらの会社名を書いていたんですよ(笑)
それがTAASだったわけです。「Talent Anything Answer Success」という由来も、この時に考えていたものです。
TAAS社ホームページより
大越氏:ちなみに裏のストーリーとしては、私の名前からもきています。小さい頃はおばあちゃんっ子だったのですが、その時に「ターくん」と呼ばれていました。親戚からも「ター」などと呼ばれたりしていて、それで「誰からも親しまれるように」という意味を込めて、ターを複数にしたネーミングにした、という背景もあります。
--面白いエピソードですね!なぜそこまで起業という手段にこだわられたのでしょうか?
大越氏:本気で世の中を変えてみたいという強い思いがあったんですよね。
私自身、幼少期に施設で育っている人間なのですが、「施設で育った人間」という事実から、色々と不当なレッテルを貼られた経験がありました。
世の中には、いろいろなバックグラウンドの人が存在します。
バックグラウンドの違いだけでチャンスを掴めない、機会を失うということをなくしたいと考え、自分でそれを体現したいと考えていたのが大きかったですね。
--なるほど。それで貴社名の最初の「T」は、多彩な才能のTalentということなのですね。
大越氏:弊社のビジョンにも、「すべての人に気づきを、そしてきっかけを。」と掲げています。チャンスは身近なところにある!ということを、誰よりも熱量高く発信していく企業でありたいと、日々考えています。
きっかけは出張族時代の自宅の郵便ポスト
e-Pod for Business時代のサービスページ
--現在のe-Pod事業を考えついたきっかけは何だったのでしょうか?
大越氏:ランサーズで日本とフィリピンの往復をしていた時、自宅は留守になりがちだったので、帰宅するといつもポストが郵便物でパンパンになっていたんですよね。しかもほとんどが不要なDMばかり。
ほとんどがゴミ箱行きになるこれらの資源って、超勿体無いよなと思いまして、この「捨てる」というオペレーションをどうにかできないか、と思ったのが最初のきっかけです。
個人の自宅でさえこんな状況なのであれば、企業ではもっと資源が無駄遣いされているし、処理の工数も大変なはず。
そればe-Pod for Businessのきっかけですね。
最初の事業では、企業への月額課金モデルで日々の業務で生じる古紙を回収し、それらを適切に処理して資源に変え、業務で活用する資源(ノベルティ)へと昇華させて還元する、というモデルでした。
--この六角形の箱が非常に印象的です。なぜ六角形なのでしょうか?
大越氏:紙をスムーズに入れるための工夫です。箱の側面を「く」の字型にすることで、紙の向きがきちんとそろった状態で収納されるんです。
あと、「ただのダンボールじゃない」という印象を持ってもらいたいことも、この印象的な形状にした理由ですね。
--今後事業としては、この六角形の箱を使ったe-Pod for Businessから、e-Pod Digitalへと移行していくイメージでしょうか?
大越氏:はい、完全移行させます。2019年1月から順次移行を開始していきます。
残念ですが、この箱はもう使わなくなりますね(笑)
--貴社のビジネスモデルは主にtoB向けかと思いますが、大越さんの原体験となる個人向けには事業展開されないのでしょうか?
大越氏:当面はやらない方針にしました。
機密文書の処理って、それこそどの国にも存在する業界でして、それぞれの国でしっかりとカルチャーとして根付いています。
タダでできないのは当たり前、お金は払うよね、という商慣習があるからこそ、これが「無料」になったとしたら一気にスケールできると考えまして、今は弊社のリソースを全てtoB向けのe-Pod Digitalに注ぐことにしています。
平安時代から存在する業態へのイノベーション
--御社の業界は、一言で何になるのでしょうか?
大越氏:広告プラットフォームになるという観点では広告業界ですが、プラットフォームの対象としては「古紙回収業界」にあたります。
--ニッチな業界ですね。
大越氏:形や名称は違えど、平安時代から存在する業態です。
全体で4,200億円程度の市場規模があると言われているのですが、非常に旧態依然としています。
業界を先導する役割の企業が不在で、その割にプレイヤーは1,100社以上いる。さらにはIT化もほとんどされていない。
最新のスキームとテクノロジーを組み合わせ、今求められていることと今後求められるであろうことを愚直に実現していけば、確実に成長する業界であると確信しました。
まさに、初期のアマゾンが相手にした小売業界を見ているようでした。
--やはりアマゾンジャパンでのキャリアの影響が強いですね。
大越氏:アマゾン創業者のジェフ・ベゾスに非常に強く影響を受けています。
アマゾン以前は、モノを買うという行為自体、お店に行って買うしか選択肢はありませんでした。それをネット上で決済し、モノが自宅にリアルにデリバリーされる。これが当時130兆円とも言われた小売業界に対する、ジェフのイノベーションへの挑戦だったのです。
ジェフは自宅のガレージの一室で事業をスタートさせたわけですが、私たちのこのオフィスも、それに重ねています(笑)
--お話を伺うほどに、事業が大きくなるようにしか思えませんね!最後に、短期および中長期での目標やビジョンを教えてください。
大越氏:直近として、まずはe-Pod Digitalの導入企業数を増やし、2019年秋までに1,000社の設置を目指しています。
また中長期的には、上場したいですね。しかも日本だけではなく、ヨーロッパ・アメリカ、それぞれ2大陸においてもです。
先ほど(前編で)もお伝えした通り、ヨーロッパは日本に比べて環境意識が高く、ESG投資比率も非常に高いです。日本での展開の後は、ヨーロッパに。そしてその後にアメリカという流れでの展開を想定しています。
機密書類処理という業界から、本当のイノベーションを起こしていこうと思っています。
編集後記
古紙回収という旧態依然とした業界であるからこそ、イノベーションの波及効果も非常に高く、確実にマーケットフィットする。
事業を営む者として、勉強になることばかりのインタビューでした。
また、大越さんの根本の思想にある、すべての人にはタレントがあり、かつバックグラウンドによらないチャンスがあるべき、という考えそのものが、非常に愛に溢れておりました。
TAASの成功物語こそが、多くの不遇な環境にいる方々のエンパワーに繋がるだろうと、強く感じました。
なお筆者個人的には、紙運用の代表格であるお役所にもこのe-Pod Digitalのスキームを適用できたら、相当な業務効率につながるだろうと、素人目線ながら感じました。
これからの同社の急成長に期待大です!!
本記事のインタビュイー
大越隆行(おおごし たかゆき)
TAAS株式会社 代表取締役兼CEO
株式会社grooves、アマゾンジャパン合同会社、ランサーズ株式会社を経て、2016年10月にTAAS合同会社を設立、同社代表に就任。2017年9月、TAAS株式会社へ株式会社化。同社、代表取締役兼CEO。アマゾンジャパン社在籍時には世界最年少事業責任者に就任(26歳)。ランサーズ社在籍時には「Lancers Philippines, Inc.」を設立、同社取締役を経験。