災害対応力強化にむけて汎用的「竜巻検知AI」開発をスタート。インキュビット × 気象庁気象研究所

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記事の要点

・深層学習を用いた画像認識技術の社会実装を手がける株式会社インキュビットが、気象庁気象研究所が進める「AIを用いた竜巻等突風・局地的大雨の自動予測・情報提供システム」における本年度の研究開発委託先として採択され、2020年6月より「竜巻検知AIモデル」の開発をスタート。

 

・もともと気象研究所では、2018年よりAI技術の開発に着手。竜巻渦パターンデータを活用して、竜巻発生を即時に検知し予測した竜巻の進路上に自動的にアラートを出すことで鉄道などの安全運行をサポートするシステムの開発を進めていた。

 

・今回の研究では、竜巻の時系列データや、竜巻渦パターン以外の様々な気象関連データを用い、より汎用的な「竜巻分類AIモデル」の開発を進めるとしている。

LoveTechポイント

竜巻は発生頻度こそそこまで高くないものの、家屋の倒壊や車両・電車の横転など被害が甚大でないケースが多く、発生時における初動対応が非常に重要と言えるからこそ、課題の本質を見抜いてAIと最適なUXで解決していくインキュビットとの研究開発は非常に期待値の高いプロジェクトだと感じます

編集部コメント

深層学習を用いた画像認識技術の社会実装を手がける株式会社インキュビットが、気象庁気象研究所が進める「AIを用いた竜巻等突風・局地的大雨の自動予測・情報提供システム」における本年度の研究開発委託先として採択され、2020年6月より「竜巻検知AIモデル」の開発をスタートさせた。

 

この事業は、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)(※)の一環として、気象庁気象研究所の「台風・災害気象研究部 第四研究室」が進めているもの。

 

局地的大雨や集中豪雨、竜巻等の突風など、甚大な災害に直結する「顕著現象」を研究対象としており、それらに対する監視・予測技術の高度化によって国民の安心・安全への貢献を目指すことを目的に以下を進めている研究室だ。

(1)観測機器・システムの整備・開発:アンテナの上下方向の首振り機構を省略することにより十秒程度の超高速スキャンが可能なフェーズドアレイレーダーの整備をすすめています。それを用いることで、顕著現象の解明や監視・予測技術が進展するものと期待されます。

 

(2)発生メカニズムの解明

 

(3)検出・直前予測アルゴリズムの開発:特に、深層学習を使った顕著現象の高度な探知技術の研究開発を行っています。それを用いることで、顕著現象の解明や監視・予測技術が進展するものと期待されます。

台風・災害気象研究部 第四研究室ページより

※官民研究開発投資拡大プログラム:「PRISM」とは“Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM”の略。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と二本立ての施策として、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能を強化するために、平成30年度予算にて創設されたもの(100億円)。民間研究開発投資誘発効果の高い領域又は財政支出の効率化に資する領域への各府省庁施策の誘導、およびSIP型マネジメントの各府省庁への展開等の追求を目的に設置されている。(内閣府「官民研究開発投資拡大プログラムについて」より)

 

そもそも、日本では年に平均して20個以上の竜巻が局地的・突発的に発生しており、家屋の倒壊や、時には車両や電車を横転させるほどの甚大な被害をもたらしている。

画像出典:気象庁「竜巻の年別の発生確認数

 

のため気象研究所は、2018年よりAIを活用した技術の開発に着手し、竜巻の発生を即時に検知し、予測した竜巻の進路上に自動的にアラートを出すことで鉄道などの安全運行をサポートするシステムの開発を進めている。

図2 竜巻検知AIの利用イメージ

 

具体的には、ドップラー速度データ(※)を用いて、過去に発生した竜巻から抽出した竜巻渦(風向き)のパターンを深層学習の手法を用いてAIモデルに学習させることで、どこでどんな竜巻が発生しているのかを正確に検出するモデルの開発を進めている。

※全国各地に設置されている気象レーダーで観測したデータ。上空にある雨などの降水粒子からの反射波を用いて、上空の風の移動速度と方向が観測できる

AIを用いた竜巻検知(レーダー画像提供:気象研究所)

 

だが、竜巻渦は季節や地形によってパターンが変化するもの。レーダーで得られた1枚の断面情報だけでは、その特徴をとらえきれずに見逃してしまう場合や、台風や積乱雲の影響による竜巻渦に類似したパターンを誤って竜巻と検知してしまう場合もあった。

 

そこで必要となるのが、竜巻の時系列データや、竜巻渦パターン以外の様々な気象関連データだ。

 

レーダーで得られた1枚ずつの画像ではなく連続した画像をモデルに学習させることで、竜巻が時間的に連続して生じているという性質を反映させ、さらに、広範囲の雨量データや一般風のデータなど、さまざまな種類の情報を学習データに追加していく。

 

また、設置されているレーダー周辺の地形によって誤検知が発生するケースもあることから、レーダー周辺の地形データもあわせて学習させることで、その設置場所や季節に左右されない汎用的なAIモデルの開発を目指すという。

 

本件の委託先であるインキュビットは、「深層学習を用いた画像認識技術」に特化した技術開発と社会実装を進めるテックベンチャーであり、これまで土砂災害の危険性がある地域を抽出する地形判読AIモデル(応用地質・みずほ総研との共同開発)や、甲状腺エコー画像から腫瘍を検知するモデル(伊藤病院との共同研究)などを開発してきた会社だ。

甲状腺エコー画像の例。縦断像(左)、横断像(右)、ともに中央に腫瘍がみられる

 

今回開発を進める「竜巻検出システム」では、中長期的には鉄道等の様々な高速交通の安全性向上や自動運転技術への利用、ドローン等さまざまな分野への応用が期待されているからこそ、インダストリーを問わず社会的意義の高い課題に取り組んできた同社の役割は大きいと言えるだろう

 

以下、リリース内容となります。

LoveTechMedia編集部

「”愛”に寄りテクノロジー」という切り口で、社会課題を中心に、人々をエンパワメントするようなサービスやプロダクトを発信しています。

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