記事の要点
・微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を活用するバイオテクノロジー企業・株式会社ユーグレナが、ユーグレナを原料とした有機液肥を用いた農作物(イチゴ)の栽培実証を実施し、従来の化学液肥と同等の農作物の収穫量が得られることを発表。
・従来の植物性原料から製造した有機液肥、および化学肥料の液肥と比較する研究を実施した結果、ユーグレナ有機液肥は、農作物生育に及ぼす有機酸の被害がみられず、従来の植物性原料から製造した液肥と比較し、農作物の生育に対して有望であることが示唆された。また、化学液肥と比較しても、収量、品質に差がないことも確認された。
・今回のユーグレナ有機液肥は、同社が掲げる「バイオマスの5F」戦略のうちのFertilizer(肥料)にあたり、新たな用途でのユーグレナの活用が期待できる結果となった。
LoveTechポイント
バイオマス資源の活用による循環型社会の形成に向けて、長年の研究開発から次々と新しい取り組みを発表するユーグレナ社は、我が国におけるリアルテック産業の鏡だと感じます。
今回のニュースについては、捨てるという選択肢が取られがちな残渣物を有効活用する点がLoveTechですね。
編集部コメント
微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を活用するバイオテクノロジー企業・株式会社ユーグレナが、ユーグレナを原料とした有機液肥を用いた農作物(いちご)の栽培実証を実施し、従来の化学液肥と同等の農作物の収穫量が得られることを発表した。
有機液肥とは、有機物を原料として、「水熱分解処理」(高温・高圧の密閉タンクの中へ投入し分解する処理技術)から得られる栄養成分を含む液体のことを指す。
どういうことか。
そもそもユーグレナ社と聞けば、飲料をはじめ様々な食品にユーグレナを活用する食料品加工企業をイメージする方も多いと思うが、同社の事業ドメインは「バイオマス」にある。
※バイオマス:生物由来資源の意
これは、ユーグレナ社が策定する「バイオマスの5F」基本戦略に基づいて進められているもの。バイオマスの5Fとは、バイオマスには、重量単価が高い順にFood(食料)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)の5つの用途があり、重量単価の高いものから低いものに順次事業を展開することで、バイオマスの生産コスト低減と利用可能性の拡大を推進する、という事業戦略である。
一例として同社では、バイオマスの5Fの中で最も重量単価の低い「次世代バイオディーゼル燃料」の研究開発と生産を進めるべく、日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント(以下「バイオ燃料製造実証プラント」)を2018年10月末に竣工。並行して、いすゞ自動車、横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、ANAホールディングス、ひろしま自動車産学官連携推進会議をサポーターとして、「日本をバイオ燃料先進国にする」ことを目指す「GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)」を宣言し、バイオ燃料製造実証プラントの本格稼働とバイオジェット・ディーゼル燃料の供給を目指している。
今年4月にはいすゞ自動車と共に、石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成したことを発表。まずは同社の藤沢工場敷地内で、この次世代バイオディーゼル燃料を使ったシャトルバスの運行がスタートしている。
このバイオ燃料の生成には、ユーグレナから原料となる脂質を抽出する工程があるのだが、ここで抽出後の残渣(以下、「ユーグレナ脂質抽出残渣」)が副産物として発生する。
これを“資源”として有効利用することができれば、バイオ燃料の生産工程全体でのコスト低減に繋がる。そのような考えのもとで利用検討が勧められたのが、先述の「有機液肥」というわけだ。
今回、実証フィールドとなったのは明治大学黒川農場。
同農場では、牧草や野菜くずなどを原料とする有機液肥を用いて試験を実施していたが、栽培する農作物によっては牧草や野菜くずなどに含まれる“有機酸”の影響により、生育障害が発生することが課題となっていた。一方でユーグレナ脂質抽出残渣は、脂質を抽出する過程で含有する有機酸が減少するので、これまで課題となっていた有機酸による農作物の生育障害の発生を抑制することが期待される。
このことから、牧草や野菜くずの代わりにユーグレナ脂質抽出残渣を使用した有機液肥の可能性についての実証実験が行われたという流れだ。
具体的には、ユーグレナ脂質抽出残渣を原料とした有機液肥(以下「ユーグレナ有機液肥」)を製造し、これを、イチゴの栽培において、従来の植物性原料から製造した有機液肥、および化学肥料の液肥と比較する研究を実施。
結果として、ユーグレナ有機液肥は、農作物生育に及ぼす有機酸の被害がみられず、従来の植物性原料から製造した液肥と比較し、農作物の生育に対して有望であることが示唆された。また、化学液肥と比較しても、収量、品質に差がないことも確認された。
1株当たりのイチゴ収穫量
実験でのイチゴ果実糖度の推移
今回のユーグレナ有機液肥は、バイオマスの5Fの内、Fertilizer(肥料)にあたり、新たな用途でのユーグレナの活用が期待できる結果となった。
様々な産業での応用が期待できるユーグレナは、サステナブルな社会の実現に向けた重要なピースなのかもしれない。
以下、リリース内容となります。