記事の要点
・シンガポール食品庁とISE Foods Holdings Pte Ltdが、IFHがシンガポールで採卵農場、孵化場、種鶏成鶏農場、種鶏若雌農場を開発するためのMOU(了解覚書)を2021年9月10日に締結。
・ IFHは、1億シンガポールドル(約80億円)以上を投資して、鶏の健康状態の遠隔監視、高度な気候制御、臭気や廃棄物の管理などの分野で、最先端の技術と環境に配慮した手法を採用した施設を建設する。2022年から順次着工し、2024年から2026年にかけて段階的に操業を開始する予定。
・シンガポールは鶏卵の70%以上を他国からの輸入に頼っているが、今回のIFH施設を利用することで、卵農場の生産能力が現在の約28%から約50%へとリフトアップ。シンガポールの卵需要の約半分を満たせるようになる予定。
編集部コメント
シンガポール食品庁(SFA)とISE Foods Holdings Pte Ltd(イセ・フーズ・ホールディングス、以下IFH)が、IFHがシンガポールで採卵農場、孵化場、種鶏成鶏農場、種鶏若雌農場を開発するためのMOU(了解覚書)を2021年9月10日に締結したことを発表した。
IFHは、卵の生産と販売において100年以上の経験を持つ、イセ食品株式会社が設立したシンガポール現地法人。イセ食品は日本の鶏卵業界の大手であり、世界でも上位6位に入る企業。同社の商品は全国で販売されており、「森のたまご」や「伊勢の卵」などがある。
今回、そのIFHが、1億シンガポールドル(約80億円)以上を投資し、鶏の健康状態の遠隔監視、高度な気候制御、臭気や廃棄物の管理などの分野で、最先端の技術と環境に配慮した手法を採用した施設を建設することを発表したのだ。
設立の背景には、シンガポールの食料自給率が低いという現状がある。
シンガポールは国内に農業基盤がないため自給が難しく、食料の約90%を輸入に頼っており(※)、手頃な価格のタンパク源としてよく消費されている鶏卵も、その70%以上をマレーシア、ポーランド、タイ、ウクライナなどから輸入。他国への依存度が高くなっている。
(※)参考:農林水産省資料(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_enkatu/pdf/sing0.pdf)
このような現状から、シンガポール食品庁は2019年12月に「30 by 30」という、2030年までに持続可能な方法による食料自給率を30%にまで高める目標をたて、それに向けた農業食品産業の能力とキャパシティの向上を進めている。
以上のような背景から、IFAは今回の地元卵生産を強化するための施設開発に関するMOUの締結に至ったというわけだ。
同施設は、採卵農場、孵化場、種鶏成鶏農場、そして種鶏若雌農場(卵を産む親鳥の農場)から成り、シンガポールで4番目の鶏卵農場となる。2022年から順次着工し、2024年から2026年にかけて段階的に操業を開始する予定だ。
施設には、独自技術を組み合わせた統合システムが導入され、それぞれの工程から出る副産物を肥料やコンクリート補助材にアップサイクルするなど、環境に配慮したアプローチが採用されているという。
施設の概要は以下の通り。
・施設:採卵農場、孵化場、種鶏成鶏農場、種鶏若雌農場
・場所:リム・チュー・カン、スンゲイ・テンガ、トゥアス※
・想定プロットサイズ(ha):10.0 0.6 1.5 1.0(計約13ha)
・リース期間:30年
・完成予定日:2024年~2026年
同施設が本格的に稼働すると、年間3億6000万個の卵と500万羽の日齢鶏(ひよこ)を生産する能力をもつことになり、卵農場の生産能力も現在の約28%から約50%へとリフトアップ。シンガポールの卵需要の約半分を満たすことができるようになるという。
また、生産活動をサポートするための人材も現地で確保していく予定で、農場管理者や研究所の専門家、技術者、ビジネスマネージャーだけでなく、AIやIoTの専門家など、幅広く募集をかけている。
なおイセ食品は、遺伝子育種、飼料の種類、鶏糞リサイクルなどの分野でR&Dのための提携先を探していき、今後、同社によるモデルをシンガポールで再現することで、安全で栄養価の高い卵を提供と、IFHをASEANの地域本部とすることを目指すとしている。