全国住み放題の多拠点居住プラットフォーム『ADDress(アドレス)』が、いよいよ本格稼働を開始した。
しかも、JR東日本スタートアップ、ANAホールディングス、IDOM(中古車のガリバー運営企業)等、錚々たる事業会社との提携や実証実験をスタートさせるというではないか。
シェアリングエコノミー文化がさけばれ始めて数年が経過する中、大本命である“住居”シェアリングに“移動の自由”オプションが加わるとなれば、多拠点生活はグッと身近な存在になるに違いない。
筆者自身、アドレスホッパーとしての生活を始めたばかりの身なので、自ずとその期待値も高まってくる。
運営会社である株式会社アドレスは、具体的にどのような戦略とビジョンを描いているのか。本日、2019年10月29日にNagatacho GRiDで開催されたプレスカンファレンスの様子をお伝えする。
年内50箇所めざすアドレス拠点
まずはADDressというサービスについて、改めてご紹介したい。
ADDressとは、登録拠点ならどこでも住み放題になる、サブスクリプション型の多拠点居住シェアサービス。Co-Living(コリビング)サービスとも言われる。2018年12月にサービス構想が発表、今年4月からテスト展開されており、昨今における働き方の多様化や、様々なライフプランに応じた生活拠点の気軽な変更を可能にしてくれるサービスである。
また地方にとっても、都市部に集中していた人口の受け皿として機能し、関係人口増加による地域価値の向上が期待されている。
各拠点では、空き家や別荘をリノベーション活用することで、低コストながらドミトリーではなくしっかりとした“個室”を確保することができ、シェアハウスのようにリビングやキッチン等を共有する形で営まれている。
光熱費、Wi-Fi、共有の家具やアメニティの利用、共有スペースの清掃も含めて月額 4万円からの低価格で利用することができ、会員同士や地域住民との交流を通じて、様々な地域で新たなコミュニティに出会うことが楽しみの一つと言える。
よく、「ADDressって泊まり放題のサービスだよね?」と言われるのだが、これは間違いで、正しくは「住み放題」サービスである。ADDressの全会員は“共同利用者”としてアドレス社の全国の家と賃貸借契約を結んでいるのであり、旅館業法や住宅宿泊事業法が適用される旅館やホテル、民泊、ゲストハウスなどとは異なるのである。
現在、全国に24拠点を展開しており、今年中には50拠点を目指しているということだ。
ブランド・アイデンティティを一新
「本日のサービス本稼働に伴い、まずはBI(ブランド・アイデンティティ)を一新しました。」
このように始めたのは、株式会社アドレス代表の佐別当隆志(さべっとう たかし)氏である。
株式会社アドレス 代表取締役社長 佐別当隆志 氏
これまでのADDressサービスロゴは、紫色をベースにした力強いものであった。それが、今回のBIリニューアルでは、よりスリムでユニセックスな印象となっている。
背景にあるのは会員属性だ。現在200名近くにのぼるADDress会員のうち、3割近くは女性だという。また、利用年齢層も幅広く、最高齢の方では75歳の会員もいらっしゃるとのこと。中には、60代で全国を転々とする生活を楽しむご夫婦も活用されているという。
多拠点生活といえば「働き盛りの男性」というステレオタイプなイメージに留まらず、新たなスタンダードとして、多様性溢れるADDressらしい世界観をユニセックスでニュートラルなデザインへと一新すべく、このようなロゴとなったわけだ。
円弧を組み合わせてできた、家紋をモチーフにしたマークとなっており、人という漢字が組み合わさり、交わることで、輪やサイクルが生まれるイメージをマーク化しているという。
ロゴタイプにも、マークと同様に円弧の形状を取り込み、ADDressサービスにふさわしい、優しさや温かみを表現。
これまでは紫一色のイメージであったが、新たなキービジュアルでは実際の拠点に出向き、ADDressのリアルな体験を撮影。「光」をテーマに、エモーショナルかつ温かみのある表現を意識し、様々な人や場所にマッチするようキーカラーを設定せず、トーンだけを設定しているという。
さらに、今回のBI一新に併せて、公式サイトも全面リニューアルされている。
「ADDressでの暮らしが疑似体験できるよう、公式サイト上でも世界観を忠実に再現しており、本人確認・反社チェック・契約・決済をWEBシステム化し、利用開始工程をスムーズに進めることができるようにしております。」
料金体系も新パッケージ展開されており、個人向けメニューとしては「レギュラープラン」と「専用個室プラン」(いずれも年契約)に「パートナープラン」がオプションとして選択可能になっている。また法人向けメニューとしても、「ベーシックプラン」と「チームシェアプラン」の2種類を選択できる。
ちなみに、筆者の方でも早速新規会員登録を進めていったが、分かりやすいUI/UXとなっており、登録申請完了までに3分とかからなかった。住民票を置ける専用ドミトリー付き、という点も、細かいところながら個人メニューの魅力と感じる。
登録申請前に表示される画面
観光ではなく、帰属による地方活発化を目指す
冒頭でADDressのことを「全国住み放題サービス」とお伝えしたが、佐別当氏の思いとしては、むしろ「脱・全国住み放題サービス」を掲げているという。
どういうことか。
昨今のテクノロジー進化に伴い、複数地域で働き生活する人々が、メガトレンドとなる社会が到来している。テレワーク導入企業数は増加し続けており、シェアリングエコノミー市場は2030年までに11兆円規模へと膨れ上がる試算もある。それに併せて国内MaaS市場も拡大し、2035年にはデジタルノマド人口が、全世界人口の11%である10億人に上ると考えられてもいる。
そんな「来るべき世界」を前提にアドレス社が目指すのは、「多拠点居住を通じて、日本中のコミュニティに新たな関係をつくるライフプラットフォームの提供」だという。
「多拠点居住によって、地方のあり方は変わっていくでしょう。
私たちは、観光ではなく“帰属”社会に着目しています。
観光を増やしただけでは、人はその地を1度訪れただけで終わってしまいます。
でも、帰属を前提とした形となることで、関係人口である人々はその地域に帰属して生産活動をつつ、ベースとなる住まいを中心としてコミュニティの一員となる。
この動きを、地方のみならず、全国同時に創生するプロジェクトへとしていきたいと考えています。」
「#全国創生」をスローガンに掲げ、移住ではなく都心部と地方が人口をシェアリングする多拠点居住のあり方。それが、アドレス社の掲げる「全国創生プラットフォーム構想」である。
都市と地方が協力しながら地方への「帰属」そして生活の「回遊」を促進することで、日本全国にコミュニティを築いていく、全国各地の関係人口を加速させる次世代の地方創生の在り方と言えるだろう。
全国創生プラットフォームパートナー
この「全国創生プラットフォーム構想」の第一弾として、今回、各領域における事業会社との提携強化も発表された。
出資者であるJR東日本スタートアップ、モビリティパートナーのANAおよびNOREL、そして都市パートナーの渋谷区観光協会と提携することで、飛行機・電車・車の移動コストを大幅に下げ、将来的なMaaS社会を見据えた定額制の「住まい+移動社会」実現への第一歩を踏み出したのである。
以下、それぞれのサービスについてご紹介する。
プラス2〜3万円で空路4便 or 2往復の実現を検証 by ANAホールディングス
まず何と言ってもインパクトがあるのが、ANAホールディングス株式会社との実証実験である。
ADDress会員限定の提供として、利用料金に加えて月額2〜3万円にて、全国の指定路線・便に4回(または2往復)できるサービスを、実証実験として2020年1月より開始するというのだ。
平日の日中時間帯の地方便空席は3割近くにのぼることもあり、地域・地方路線における課題の解決をはかりたいANAと、ADDressのプラットフォーム構想の目指す方向性が合致したことによる協働となる。
まずは、多拠点生活者が月に何回、どこに行き、それくらいの運賃を支払っているのか、といったデータを収集し、その後のサービス設計に活かすことを目的とした実証実験とのことだ。
ラストワンマイルである車問題を解決 by NOREL(株式会社IDOM)
NOREL(ノレル)とは、中古車販売のガリバー等で有名な株式会社IDOMが展開する、定額乗り換え放題のカーシェアサービス。
ADDressの指定物件の駐車場に設置して、各物件間およびガリバー販売店で乗り捨て可能なカーシェアサービスを1月より開始するという。
飛行機や電車移動をした後のラストワンマイルとして、地方ではやはり、車の存在が大きなアドバンテージとなる。
地方に行くとカーシェアがないケースが非常に多く、中にはレンタカーすらない場所もあるので、そのような状況を打開し、地方でも車を簡単に借りることができる環境を整備するための協働となる。
JR東日本がもつ資産を有効活用 by JR東日本スタートアップ
これまで29社のスタートアップ企業に出資し、事業共創およびPoCを推進してきたJR東日本スタートアップ株式会社も、ADDressとの連携を進めている。
具体的な内容は今年11月中に発表予定だというが、同社のもつ鉄道インフラや長期滞在型不動産、無人駅などの遊休資産を活かすことを考えているという。
都市から地方へのゲートウェイを目指して by渋谷区観光協会
都市パートナーである一般財団法人渋谷区観光協会は、世界に誇る観光資源を作り、次世代の観光インフラを創り、複合的な観光経済活性化を実施するという、従来型のPR軸で運営される、いわゆる観光協会とは一味違う方針で運営されている。
ADDressとは、2020年オリンピック / パラリンピック開催前を目指し渋谷にオープンする予定のコミュニティサロン(仮称)との連携を予定しており、全国への関係案内所機能を設け、渋谷をゲートウェイとして都心から地方へ、地方から都心と関係人口を増やす取り組みとなる多拠点生活のサポートを実施するとのことだ。
北鎌倉の新拠点と、家守の学校
ここまで見てきたADDressのBIリニューアル&外部企業との連携以外にも、同社は本日をもって2つの新規事業を発表した。
一つは北鎌倉における大型拠点オープンに向けたクラウドファンディングの開始、そしてもう一つは、ADDressの要ともなる「家守」の学校事業である。
北鎌倉の大型拠点プロジェクト、三位一体で携わり方は自由
2020年、ADDressのフラッグシップとして北鎌倉に象徴的な大型拠点をオープンすることが発表された。
またそれに伴い、新たなプロジェクトを不動産に特化した投資型クラウドファンディング「クラウドリアルティ」にて、本日から開始された。
これは株式会社アドレスが、北鎌倉の築65年以上の古民家を取得した上で改装し、新拠点としてオープンするための資金調達を目的としたプロジェクトであり、日本の空き家問題解決と、新たな交流人口の創出を目指しているものだ。
一口あたりの出資金額は5万円で、最低出資口数は三口。出資金額に応じて、各種特典が用意されている。
投資者として活動することも、起案者として社会課題解決の主体にもなれるという、P2P型マーケットプレイスであるクラウドリアルティの特徴を活かし、オーナーにもメンバーにも出資者にもなれるという三位一体のプラットフォームとして、様々な携わり方を提案してくれている。
プロジェクトの説明をされる株式会社クラウドリアルティ 代表取締役 鬼頭武嗣氏
募集総額36,550,000円に対し、本記事を執筆時点(プロジェクト公開から約6時間)ですでに17,000,000円が申し込まれているという注目ぶりであった。
https://www.crowd-realty.com/project/JP-0013/summary/
全国連携型の地方創生をデザインする「家守」の学校
2020年1月から、「家守の学校」が開講される。
家守とは、ADDressにとっての要となる存在。ADDressの提供する地方の家に住み、風の人として移り住んでくる多拠点生活者と地域のブリッジングやコミュニケーションを司る重要な存在だ。
出資者である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスとの協働で開校を進めており、地域を変えていく人材を育成し、マルチハビテーション(※)時代における新たな全国連携型の新たな地方創生を目指していくという。
※マルチハビテーション:「多様な」を意味する複合辞である「マルチ」と、「住居」を意味する名詞「ハビテーション」を組み合わせた造語であり、複数の住まいを行き来しながら自分たちらしい生活を実現するライフスタイルのことを示す
上図の通り、全国で地域に新たな事業作り続けている屈指のコーチたちが講師陣として名を連ねており、eラーニングによるオンライン講習、仲間との連携、実地研修を経て、晴れて家守に認定されるという流れだ。
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下斉氏
講座期間は2020年1月~4月を予定し、受講料は300,000円(税別)だという。ADDressを軸とする地域活性化に興味のある方は、応募を検討してみると良いだろう。
コペンハーゲン市「観光の終焉」宣言から学ぶ
最後はトークセッションとして、以下メンバーが登壇され、地方の課題や、それを解決する主体としてのADDressについてディスカッションされた。
(写真左から)
- 太田直樹氏 氏(株式会社NEW STORIES 代表 / 総務省政策アドバイザー)※モデレーター
- 宇田川裕喜 氏(株式会社バウム 代表取締役)
- 佐別当隆志 氏(株式会社アドレス 代表)
様々なトークテーマの中で、特に印象的だったものが、宇田川氏によるデンマーク・コペンハーゲン市の事例紹介であった。
同地は、「観光の終焉」を宣言した都市なのである。
通常「観光」といえば、その地の有名なモニュメントや史跡といった観光地を巡り、その地で有名な料理を食べ、お土産物屋でご当地グッズを買う、という一連の流れをイメージする方が多いだろう。コペンハーゲン市でいえば、小さい人魚像、シンプルな調理法が多いデンマーク料理、そしてチョコレートやチーズなどのお土産、といった具合だ。
しかし現在、そんな「皆が見たいとされる最大公約数的な観光」を楽しみ、「いわゆる観光客」として扱われたい観光客が激減しているという。
そんな状況に鑑みて、同市で上述の「観光の終焉」を目指した新しい観光促進戦略が立てられたのが、2017年というわけだ。
様々な構想が語られる中でも、「観光客は一時的な市民として接するべき」という点が、ある種我が国の全国創生のヒントにもなりうると感じる。そう、同市では“市民”が最大の観光資源であると公言しているのだ。
311以降、若者が地方に戻るようになってから、都心・地方の両方を知っている人が地方へと積極的に流入するようになった。その方々が、地域のハブとなって、その地を盛り上げるプロジェクトを牽引しているケースも多い印象である。
この流れが、コペンハーゲン式の新たなる観光概念を日本にも適用する土壌と見ることができるのではないだろうか、と、全国各地を巡る筆者の視点では感じた次第だった。
編集後記
筆者自身、アドレスホッパーの端くれとして、ほぼ当事者目線でADDressの新戦略発表を聞いておりました。
帰属による地方活発化の構想、とても素敵ですね。
帰属意識を持つことによる最大の期待値は、その地域が「自分ごと」になるということ。
観光は「部外者としての自分」ですが、帰属するということは「コミュニティの一因としての自分」になるということです。
そして、そんな帰属意識を持っての多拠点生活を、ハードル低く実現できるキーファクターは、今回連携が発表されたANAやJRをはじめとする「移動」プラットフォームに間違いありません。
今後も様々な地域への「移動」にストレスを感じないようなサービス連携を期待したいと思います。