カイコ × 医薬品製造、九大発ベンチャーのKAICOが2.6億円を調達。新型コロナのワクチン候補も開発

医療/福祉

記事の要点

・昆虫の“カイコ”を使って、バイオ医薬品・ワクチンを早く大量生産する技術を擁する大学発バイオベンチャー・KAICO株式会社が、この度2億6千万円の第三者割当増資によりシリーズAラウンドの資金調達実施を発表。

 

・調達資金は、今後の事業展開に必要な「GMPルール」に則った生産設備の施工と機器の設置、また研究開発・生産を担う人材増員のために使用する予定。また、日本独自のオリジナル技術として、グローバル展開も計画。

 

・新型コロナウイルスに関しては、技術導出元である九州大学農学研究院日下部研究室が、組換えウイルス抗原と組換え抗ウイルス抗体の共同開発を主導。同社は、開発できたワクチン候補の量産体制確立と製薬会社への共同研究アプローチをはじめ、また抗体検査キットの開発および商品化もパートナー企業とスタート。

LoveTechポイント

カイコという自然の力を応用したバイオテクノロジーを活用して、昨今の医療課題を解決しようとしている点が、LoveTechだと感じます。

まず直近だと、新型コロナウイルスのワクチン候補量産体制の構築が期待されます。

編集部コメント

昆虫の“カイコ”を使って、バイオ医薬品・ワクチンを早く大量生産する技術を擁する大学発バイオベンチャー・KAICO株式会社が、この度2億6千万円の第三者割当増資によりシリーズAラウンドの資金調達実施を発表した。

 

同社が擁するカイコは、言うなれば「サラブレッド・カイコ」。

 

技術の起源となった九州大学では、機能性タンパク質を生産する“宿主”として、世界に先駆けてカイコの系統整備と体系的な選抜育種を実施。約100年もの間、約450系統にも上る近交系保存品種をベースに継代飼育してきており、その中から特にウイルス感受性の高いカイコを使用している。

2019年11月14日・15日と2日間に渡って開催された「TechCrunch Tokyo 2019」Startup Battleでの投影資料

 

そもそもだがKAICO株式会社によると、カイコはあらゆる動物の中でもっとも“家畜化”されたものであり、生理活性物質生産系の宿主として捉えた場合、以下のメリットがあるという。

  • 大量飼育が可能な唯一の昆虫種であり、一頭一頭が小さな昆虫工場になる。これは、大量生産に向けたスケールアップが煩雑な条件検討なしに実施でき、高度なバイオリアクター設計が不必要となる。
  • 昆虫を利用した組換えタンパク質の生産は、哺乳類に近い修飾を受けたタンパク質を得られる上に発現量が高い。
  • 昆虫個体を用いる生産系は、昆虫細胞を用いる場合より、微生物汚染が少なく、生産条件の制御が容易。

-KAICO株式会社ホームページより

 

同社ではこのオリジナル・サラブレッドカイコをベースに、「カイコ・バキュロウイルス発現法」(※)という“組換えタンパク質生産系”を用いて、再生医療用研究試薬やワクチン、診断薬など、「潜在需要がありつつ低コスト生産が実現できていない難発現性タンパク質」を大量生産できるプラットフォームを商業的に構築している。

※カイコ・バキュロウイルス発現法:目的タンパク質DNAをバキュロウイルスに挿入し、このバキュロウイルスをカイコ体内に注入することにより、 ウイルスの増殖に従い目的タンパク質が発現される。発現された目的タンパク質を体内から回収し、精製する。KAICOでは、大量発現に適したバキュロウイルスと、挿入するDNAコンストラクト作成にノウハウを保持している

 

近年の創薬市場はバイオ医薬品と呼ばれるタンパク質製剤がメジャーとなり、治療薬がなかった疾病にも効果をもたらしているが、それでも求められるタンパク質全てが生産できるわけではない。一方、カイコは個々がバイオリアクターの機能を果たすため、開発したタンパク質は頭数を増やすだけで、医薬品・ワクチンの量産が可能になる。

 

何か新たな感染症が発生した場合、同社のプラットフォームは少量多品種の生産に対応可能であるため、複数薬の同時並行開発、および即座のスケールアップ大量生産が可能になる。先に示した画像にある通り、カイコの交配記録(血統書:系図)は1911年より管理されており、近交系として確立しているので、宿主としての均一性や安定性は担保されていることから、将来にわたって安定的な供給が保証されていることになる。

 

今回のシリーズAラウンドの調達資金は、株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズ、九州広域復興支援投資事業有限責任組合、東京センチュリー株式会社他を引受先としたもの。調達資金は、今後の事業展開に必要な「GMPルール」(※)に則った生産設備の施工と機器の設置、また研究開発・生産を担う人材増員のために使用する予定だという。また、日本独自のオリジナル技術として、グローバルでの展開も計画しているとのことだ。

※GMP(Good Manufacturing Practice):医薬品の製造業者および製造販売業者に求められる「適正製造規範」(製造管理・品質管理基準)のこと。品質管理とは、医薬品等の原材料の入荷、検品から製造、製品の包装、出荷管理、製品保管、回収処理などに係る業務である

 

なお、ここ最近で最も大きなインパクトを社会にもたらした感染症・新型コロナウイルスに関しては、技術導出元である九州大学農学研究院日下部研究室が、組換えウイルス抗原と組換え抗ウイルス抗体の共同開発を主導。抗原に関しては新型コロナウイルスのSプロテイン三量体の開発に成功し、複数の抗体との結合を確認した。

 

要するに、新型コロナウイルスのワクチン候補が開発できたというわけだ。

 

今後同社は、抗原Sプロテインをワクチン候補として量産体制を確立し、製薬企業へ共同開発のアプローチを行っていくと共に、抗体検査キットの開発および商品化もパートナー企業と進めていくという。

 

 

昨年のTechCrunch Tokyoで同社のことを紹介した際、同メディアでは「昨今、国内外を問わず移動効率が劇的に下がっているからこそ、感染症や未知の疫病のパンデミックリスクも増大していると言える」と記載し、それに対する打ち手として、同社の技術をご紹介した。

 

まさに今、KAICOの技術が求められているフェースだと言えるだろう。

 

カイコという、自然の力を応用したLoveTechな技術として、資金調達後の展開に注目したい。

 

以下、リリース内容となります。

LoveTechMedia編集部

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