成人向けクリエイターが自分の会員制サイトを構築できるMyMember.siteは2026年7月21日、新たな決済手段として「TantumPay」を追加した。TantumPayとは、リヒテンシュタインの電子マネー機関であり、同国の金融市場庁(FMA)の監督を受けるTantum AGが提供する決済サービスである。
ユーザーは専用アプリ「TantumWallet」を通じ、Visa、Mastercard、Apple Pay、Google Pay、SEPAを含む銀行振込で支払えると案内されており、対象となるのは、欧州連合(EU)の全27加盟国と、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを合わせた欧州経済領域(EEA)30カ国だ。
成人向けコンテンツを扱うクリエイターにとって、Apple PayやGoogle Payを購入時の選択肢として示せる意味は小さくない。知らないサイトへカード番号を入力することに抵抗があるユーザーでも、普段使っている端末から支払えるという形で選択肢が広がるからだ。
ただし、AppleとGoogleの公開規約は、ポルノや性的に露骨なコンテンツの取引を禁止対象に挙げている。TantumWalletを介した取引が両社から個別に承認されているのかは明らかになっておらず、発表された30カ国とMyMember.siteのヘルプに掲載されたブロック対象国との間にも不整合がある。以下、TantumPayの仕組みと、成人向け市場で継続的な決済手段となるための課題を見ていく。
成人向け産業における「決済差別」へのリスクヘッジとして

今回、TantumPayが追加されたMyMember.siteでは、購読や動画・写真の販売、ライブ配信、メッセージ、物販、紹介報酬などを組み込んだ独立サイトを構築できる。今回の決済方法追加は、成人向けクリエイターへの出金方法ではなく、ファンがサイト上で代金を支払うための選択肢になる。
なぜ、成人向けクリエイターにとって決済手段の拡張が重要なのかというと、大きく2点の理由がある。
まず、先述した通り、ファンの決済に向けた心理的ハードルを下げるためだ。ファンが作品を購入しようとしても、使ったことのない決済代行会社へ移動すれば、本当にカード情報を登録して良いのか不安になり、支払いを終える前に画面を閉じるという行動パターンが増えることが推察される。
支払いの中断は、単に1回の売上を失うだけではない。購読の継続や、ライブ配信中のチップ、個別作品の購入といった、ファンがクリエイターを金銭面から支える関係にも影響する。その点、Apple PayやGoogle Payが使えれば、端末に登録済みのカードと生体認証を利用できるため、コンバージョン(決済完了)率の向上が期待できるというわけだ。
また、以下の記事でも言及した通り、決済ネットワークによる規制のリスクも大きい。

成人向けコンテンツは各国の法令に沿って制作・販売されていても、カード会社、決済代行会社、銀行の判断によって取り扱えなくなる場合がある。日本では2024年、DLsiteでVisa、Mastercard、American Expressの決済が相次いで停止し、FANZA同人でもVisaが一時停止した。DLsiteはコンビニ払いやPayPay、銀行口座を使う決済などを追加し、特定のカードブランドに依存しない方法を広げてきた。
欧米でも2025年、SteamとItch.ioにおける成人向けゲームへの抗議が決済事業者へ向けられた。Itch.ioは公式説明で、決済基盤を維持するために成人向け作品を検索・閲覧ページから外し、決済事業者の方針に沿ってコンテンツを再確認すると発表している。
決済代行会社のStripeも、成人向けコンテンツを扱えない理由として、自社に適用される要件、金融パートナーからの要求、リスク負担を挙げる。Stripeの公開FAQでは、性的満足を目的とするポルノや性的に露骨な素材、成人向けライブチャットなどを対象に含めている。
決済事業者が作品を直接削除しなくても、代金を受け取れなければ販売を続けるのは難しい。法令だけでなく、決済網の規約や審査が流通できる性的表現の範囲を左右している。成人向け産業で「決済差別」と呼ばれる問題の中心には、合法であっても支払手段を確保できるとは限らない現実があるのだ。
初回の本人確認後は、専用機能を使って本人確認結果を提示するだけ

TantumPay利用において、ユーザーは初回にTantumWalletで本人確認を行い、その後は本人確認機能「Tantum Ident」を使って年齢や本人確認の結果を提示する。Tantum AGによれば、加盟店ごとに身分証明書を撮影し直すのではなく、必要な情報だけを示せる設計だという。
成人向け動画を購入するたびに、見慣れないアダルトサイトへと身分証明書の画像を送るのは抵抗があるものだ。こういう仕組みがあれば、個人情報を渡す相手と回数を減らせる上に、多くの人にとっての精神的な負荷も軽減されるだろう。TantumWalletの公式説明では、加盟店へカード情報や銀行情報を渡さず、年齢確認時にも加盟店側で身分証明書をスキャンしない仕組みを掲げている。
そもそも、Tantum AGとはリヒテンシュタインの電子マネー法と決済サービス法に基づいて事業を行う電子マネー機関である。同社の規制情報にはFMA登録番号「300345」が掲載されており、FMAの資料でも2023年5月に電子マネー機関として免許を付与されたことを確認できる。いわゆる、ちゃんとした組織だ。ただし、金融当局による監督は、Apple PayやGoogle Payの規約適合性、決済成功率、アプリの操作性まで保証するものではない点には注意が必要だ。
また、Apple PayとGoogle Payは、既存の決済代行会社であるCCBillやSegpayから提供されるものではなく、また購入画面に表示されるかどうかは、それぞれのサイトでTantumPayが有効になっているかによって変わるという。
“Apple Pay and Google Pay […] are offered only on sites that have TantumPay enabled.”
「Apple PayとGoogle Payは、(中略)TantumPayが有効になっているサイトでのみ提供される」(編集部訳)
AppleとGoogleの公開規約に残る不整合
一方、TantumPayが掲げるApple Pay/Google Pay対応については、購入時の選択肢として表示されることと、成人向け取引で継続的に利用できることを分けて考える必要がある。
Apple Pay on the Webの利用ガイドラインは、ポルノを扱う取引や、性的な商品・サービスを主に販売するウェブサイトへのApple Pay導入を禁止している。さらに、別の決済を完了させるために第2の取引を行う「staged digital wallet」も禁止対象だ。Appleは、必要と判断した場合にはウェブサイト上のApple Pay取引を停止できるとしている。
Google Payの事業者向けポリシーも、ポルノや性的に露骨な素材へのGoogle Pay利用を認めていない。決済対象商品の一部にだけ禁止対象の素材が含まれる場合にも、制限が適用されるとの記載がある。
加えて、現時点の公開資料からは、TantumPayによる取引でどの事業者等が加盟店として表示されるのかを確認できない。MyMember.site、各クリエイター、Tantum AGのうち、どこが販売主体として扱われるのかも不明だ。AppleとGoogleから成人向け取引について個別承認を得ているのかや、カード会社や加盟店管理会社とどのような条件を結んでいるかも示されていない。
そのため、今回の発表だけでは、大手モバイル決済への安定した経路が確立したとまでは言えないだろう。成人向けサイトで利用できるとする仕組みが両社の公開規約とどう整合するのか、MyMember.siteまたはTantum AGによる具体的な説明が求められる。
EEA30カ国の発表と、ブロック対象国一覧の矛盾

地理的な提供条件にも確認すべき点が残る。MyMember.siteは提供地域としてEEA30カ国を挙げ、Tantum AGもリヒテンシュタインの免許をEEA域内へ展開する「パスポート制度」を利用していると説明している。日本、米国、カナダなどのユーザーは今回の対象に含まれない。
また、域外のクリエイターがEEA居住のファンに限ってTantumPayを提供できるのかも明らかではない。利用可否をクリエイターの所在地、法人の設立地、ユーザーの居住地のどれによって判断するのかが公表されていないためだ。同じMyMember.siteを使っていても、域内外で利用できる決済手段に差が生じる可能性がある。
さらに、TantumPayのヘルプ記事は「EU全27カ国」を対象と記載する一方、その後に掲載されたブロック対象国一覧には、EU加盟国のブルガリアとクロアチアが含まれている。記載ミスなのか、未更新なだけなのか、それともユーザーの居住地や国籍など別の条件による制限なのかは説明されていない。実際の提供範囲については、ヘルプ文書の修正または企業からの説明を待つ必要がある。
MyMember.siteはApple PayとGoogle Payが購入完了率の改善に役立つと説明しているものの、導入後の完了率や離脱率を示すデータは公開しておらず、第三者による決済テストも確認できていない。
今回のTantumPay追加はユーザーにとっての新たな選択肢になる一方で、その持続性はAppleとGoogleの規約やカード等決済ネットワークによる審査に左右されるのが現実だと言える。30カ国という発表とブロック対象国一覧の矛盾も解消されておらず、決済完了率や返金、チャージバック、出金、障害時の対応も検証されていない。
数カ月にわたって決済と出金が安定し、規約変更があってもクリエイターの収入を止めずに済むのか。成人向け市場における持続的な選択肢となるかどうかは、今後の説明と稼働実績によって判断されるだろう。


