子どもの笑顔につながる保育コミュニケーションをデザインする「キッズリー」《前編》

インタビュー

 保育士不足、待機児童問題、入園児童数の増加に伴う管理の煩雑化とコミュニケーションの希薄化、それに伴う保護者との関係構築の難しさ。

 「保育」は今、最も改革が望まれる業界ではないだろうか。

 離職率は全体で10.3%。そのうち私営、つまり私立保育園などの民間経営の保育園の保育士に限っては12%、と公立保育園で働く保育士よりも離職率が高くなっている。(出典:2015年「保育士等における現状」保育士等確保対策検討会より)

 2016年、そんな保育業界に真っ向から課題解決を試みるチャレンジャーが現れた。株式会社リクルートマーケティングパートナーズの展開する「キッズリー」だ。

 キッズリーは「保護者と保育園をつなぐコニュニケーションサービス」として、子育てをより豊かにすることを目指している。

 Love Tech Mediaでは前編・後編に渡って、同社キッズリー事業責任者である森脇潤一(もりわき じゅんいち)氏にインタビューを行った。

 前編ではまず、事業着想のきっかけやサービス設計の流れと思いを伺った。

 

キッズリーサービスの紹介

インタビューに入る前に、まずは事前知識として、「キッズリー」サービス群についてご説明する。

 

キッズリーアプリ

保育園と保護者間のコミュニケーションを深めるアプリ。園児の登園・遅刻・欠席状況を、保護者と保育園それぞれがアプリを介してわかりやすく簡単に管理することができる。また、日々保育士が書き込む連絡帳をアプリで表現する事で、スマホなどで撮影した写真も含めて入力することができ、簡単に保護者と共有することが可能。アプリさえインストール・設定すれば、保護者だけでなく遠く離れた親戚や祖父母もチェックすることができ、誰もが「いいね」ボタン等を通じてリアクションをとることができる。その他にも緊急連絡や園からのお知らせ、年間イベントカレンダーも共有されているため、保護者は保育に関する情報をアプリを通じて一括で確認することができる。

キッズリーアプリは、保護者・保育園ともに全て無料で利用できる。

 

キッズリー登降園管理

打刻専用のタブレットシステム。園に設置することで、保護者のキッズリーアプリと連携して、毎日の登降園時刻を簡単にかつ正確に管理できる。また、入力された打刻情報は簡単に集計できるので、行政への申請や監査に必要な書類を簡単に出力することができる。

 

キッズリー保育者ケア

保育園・幼稚園で働く保育者への定期的なコンディション診断システム。保育者ひとりひとりの「大切にしている仕事の価値観」や「仕事上の不安要素」を明らかにし、周囲と一緒に働きやすい環境をつくっていくための保育園内コミュニケーションを促進するサービス。適切なフォローを保育園内で行うことで離職防止に役立っている。

 

キッズリー帳票管理

日誌・指導計画・児童票(園児台帳)など様々な書類作成を簡単に行えるシステム。連絡帳・クラスフォト・登降園管理等の他機能で記録された情報を自動引用し、スマホからいつでもどこでも書けるので、園長先生、保育士、保護者の記入時間を大幅に短縮することができる。

 

上記理解を前提にインタビューを進めさせていただいた。

 

友人の死から学んだ、子どもに対する母親の深い愛情

--まずはキッズリー立ち上げに至るまでの経緯について教えてください。

森脇潤一(以下、森脇氏):もともと僕は、広告会社で営業の仕事をしていました。忙しいながらも楽しくやっていたのですが、クライアントの事業をサポートしていくなかで、本当に自信を持って世の中に提供するサービスを自分自身で作りたいと考えるようになりました。

そんな中、リクルートに「New RING(ニューリング)」という、従業員が新規事業を創造して自社事業として展開できるコンテストがある事を知り、このコンテストにチャレンジしたくて、リクルートへ転職しました。

 

--もともとは「保育」というよりは「新規事業創出」ありきの転職だったんですね?

森脇氏:そうなんです。転職をした数ヶ月後のことなのですが、僕の同世代の友人が亡くなりまして、それが今の事業に至る最初のきっかけでした。

3歳のお子さんのママで、家族ぐるみでお付き合いをしていた方です。脳腫瘍で2年以上の闘病生活をされていたのですが、同世代の友人がどんどん衰弱して行くのをそばで見ていて、正直ショックでした。でも同時に、人生を精一杯全うしようとする彼女の姿勢を、客観的に学ぼうともしていました。そこで「家族の絆の大切さ」を改めて感じたんです。

 

--なぜそう感じられたのですか?

森脇氏:亡くなった後に見つかったのですが、奥様が子どもについて書いた日記がありました。脳腫瘍で手もほとんど動かない状況なのですが、読めるか読めないかくらいの字で、毎日亡くなる直前まで丁寧に書かれていたんです。その事実を目の当たりにして、子どもに対する母親の深い愛情を感じましたね。

例えば文字だけでなく、子どもがそのへんの公園で拾ってきた落ち葉とか草木とか、もらったら「ありがとー」と言ってすぐに捨ててしまうようなものも、ノートにきれいにセロハンテープで貼っていたんです。男性の僕には、なかなかできないことだなって感じました。

 

--素敵なお話ですね。

森脇氏:でも、旦那さんは仕事で忙しくされていて、そのことを知らなかったんです。奥様が亡くなったあとにその日記が出てきて、とても悔いていました。こんな風に子どもにかける愛情が我が家にもあったんだと。そしてそれを自分が把握していれば、家族への接し方ももっと変わっただろうと。

でも、これはどこのご家庭にも同じようなことが言えるだろうと思いました。今回はたまたま闘病と死の事実があったから浮き彫りになっただけのことで、僕にも同じことが言えるだろうなって。

そんな流れから、夫婦は子どもに関する情報や想いを毎日タイムリーに共有するべきであり、それを支えるような仕組みを作りたい、と考えるようになりました。

 

全国250以上の保育園へのヒアリング

--夫婦間で子ども情報をタイムリーに共有することが大事なのはよくわかりますが、なかなか現実的には難しいですよね。

森脇氏:おっしゃる通りです。

家族SNSみたいなのを作って、毎日投稿し合うという方法もありますけど、お互い忙しい中でなかなか続かないですよね。

何もしなくても子どもの情報がどこかから届くようなインフラってないかなと思っていたところ、保育園に「連絡ノート」というものがあることを知りました。

子どもの保育園での記録が保育士さんによって毎日書かれていて、お母さんもそれに対してコメントすることで、お互いやり取りしている。

これをクラウド化して誰でも見ることができるようになれば、夫婦間でも情報を簡単に共有できるし、遠く離れたおじいちゃんおばあちゃんも孫の様子が把握できる。さらにはそれを見て、お父さんの育児への積極的な参加意欲も創出できる可能性がある。

これが実現したら本当にすばらしい、って当時思いました。

 

--まさに今のキッズリーの仕組みですね。

森脇氏:キッズリーに関しては、2014年のアイデア着想時からほとんどブレないで、ここまでこれています。

複数の友人夫婦にヒアリングしていくと、やはり子どもの情報を知らないお父さんが圧倒的に多かったですね。でも皆さん、知る術があるならちゃんと知りたいともおっしゃるので、「このサービスは絶対にうまく行く」という感覚がつかめました。

保護者だけでは成立しない仕組みなので、保育園サイドにも話を聞きに行きました。

最終的には、全国250以上の保育園へとヒアリングすることになりました。

 

--全国250園以上って、すごいですね!

森脇氏:最初、保育園サイドへのヒアリングは、サービスを使うことで保育士の皆さんの業務負担を減らせます、という説明で進めていきました。保育業界では、保育士がすべて手書きする文化が根強くあったので、それをクラウド化してスマホやタブレットなどのデジタルデバイスで管理していくことで、保育士の業務を減らすという狙いだったんです。

でも実際の現場へ行くと、反応は全然良くなかったんです。手書きではなくなることへの不安や、逆に手間が増えるかもしれない不安。想定外でした。

もっと”本質的なこと”を理解してシステムに落とし込まないと、サービスは導入してもらえないってことに気がついたんです。

 

保育士と保護者の関係性が保育園運営の肝だ、という発見

--本質的なこと、ですか。

森脇氏:「保育士の業務軽減」は、すごく表層的なアプローチでした。

もっと深い部分で大切なことを探るべく、保育園へのヒアリングを続けていったところ、ある時に、保育士と保護者の関係性が保育園運営の肝だという仮説に行きつく体験をしました。

 

--どんな内容でしょうか?

森脇氏:訪問先である埼玉県の保育園にて、園長先生がユニークなことを実施されていました。

「保護者に1日保育士体験をしてもらう。うちの保育園に入るからには一年のどこかで絶対にやってもらう。この仕事がいかに大変か、どんなところまで気持ちを込めて具体的に細かくやっているのか、保護者では絶対に見えないところまで体験し、感じてもらうことを大切にしている。それをやると園運営がうまく行く」という内容でした。

そこでは、「保育園の見える化」をされていたんです。

 

--普段は絶対に見えないところまで体験させる、ってすごいですね。

森脇氏:僕にとって大きな気づきでしたね。

保護者にとって、「先生ちゃんとやってくれてるのかな」っていう不安な思いを抱きながら日常生活を送るのって、すごいストレスですよね。保育士にとっても、そう思われながら仕事をするのは同じくストレスです。

保護者が保育園の仕事内容を理解して、その上で「あの先生に預けているから、子どもが毎日幸せで、保育園を楽しんでくれてる」と思えると、保護者が園に預けていることに対して前向きになれますよね。

「保育士と保護者の関係の維持向上」という観点を特に突き詰めて考え、サービス開発していきました。

 

--それと情報のデータ化・クラウド化が結びついたということですね?

森脇氏:そうです。

保育士からの発信がノートへの手書きだけだと、情報量に限界がありますよね。それをスマホを使って写真付きで送ることができれば、保護者は保育園での活動をより具体的に把握することができ、すごく安心します。

「こういう活動ちゃんとしてくれるんだ」「ここをケアしてくれるんだ」と、見えることで不安が安心に変わり、それが保育士への感謝やリスペクトに繋がります。

保育士の皆さまにとっても仕事に対する肯定感が増して、より良い保育をする。それが子どもに伝わって保護者に返ってくる。

このサイクルをうまく回すことができれば、みんなハッピーだと思いました。

「保育士の業務軽減」ではなく、「保育士と保護者の関係の維持向上」のためのツールだと言って、説明して周るようになりました。

そうすると途端に、共感してくれる保育園が増えていきまして、サービスリリースしたらぜひ導入したい、という声を多数頂戴するに至りました。

 

》後編記事につづく

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