9人に1人。全世界で飢餓状態にある人の割合だ。日本にいると実感が持てないと思うが、世界には約8億1500万人もの方が飢えに苦しんでいる(出典元:国連食糧農業機関)。この数字自体は、多くのメディアでも日々報道されているので、聞き慣れた方も多いだろう。
それでは、地球規模のタンパク質危機が目前に迫っていることはご存知だろうか?
畜産や水産における養殖では、エサとして穀物や魚粉などの濃厚飼料が使われている。動物の成長に欠かせないタンパク質を摂取するためだ。
今、グローバル規模における爆発的な人口増加に伴い、一人当たりの肉や魚の消費量も爆増している。それに併せて、今後さらに何倍もの濃厚飼料が必要となってくるのだが、圧倒的な供給不足の事態に陥ることが予測されている。2025年〜2030年にかけて、世界のタンパク質が圧倒的に足りなくなるのだ。
そんな中で、昆虫を「地球を救うテクノロジー」と捉え、実に25年以上前から「イエバエ」(学名:ムスカ・ドメスティカ)の研究と品種改良に取り組む人物がいる。株式会社ムスカ 代表取締役会長の串間充崇氏だ。
ハエが地球を救う。にわかには想像しがたいだろう
本記事では前中後編の3記事に渡り、同社の先進的な取り組みについてお話を伺う。まず前編では、同社の事業内容について確認し、その上でこれまでの経緯について、串間氏にお話を伺うことにする。
畜産ふん尿を有機肥料や飼料に100%リサイクルする循環システム
インタビューに入る前に、まずは事前知識として、ムスカ独自のイエバエ技術について解説する。
ムスカの提供するイエバエ技術を一言で表現するとするならば、「今まで捨てられるだけだった畜産ふん尿などの有機廃棄物を、わずか1週間で肥料と飼料に100%リサイクルする画期的な昆虫技術」である。
どういうことなのだろう。まずは以下の動画をご覧いただきたい。
具体的な工程について説明する。
まずリサイクルしたい畜産ふん尿などの有機廃棄物を専用トレイに乗せ、その上にさらにイエバエの卵を振りかける。
この状態で、ハエが最も活動しやすい25℃に保たれた幼虫飼育室に格納する。
卵を植えて1日目で早速、卵から幼虫が孵化(ふか)し、有機廃棄物の中に潜って有機物の分解を始める。食欲旺盛な幼虫たちにより、畜産ふん尿はイエバエの体液である消化酵素で、酵素分解されていく。
7日目ともなると幼虫たちはほとんどの有機物を食べつくし、サナギ化するために本能に従ってトレイから出ようとする。
これにより、幼虫と幼虫排泄物に自然と分けることができる。
幼虫たちはこの段階で回収するので、サナギを経てハエに羽化することなく、養殖・畜産向けの飼料として加工される。高付加価値な動物性タンパク源として大いに期待されている。
また、幼虫たちの排泄物として残った肥料は、1年以上発酵させた完熟堆肥以上の性能を持ち、こちらは主に農家向けの有機肥料として出荷される。
写真でも見ての通り、湿り気のある有機廃棄物が、わずか7日間でサラサラの肥料に変わっている。
これが、畜産ふん尿や食品残渣等を有機肥料や飼料に100%リサイクルする循環システムである。
この事業知識を前提に、株式会社ムスカ代表取締役会長の串間氏インタビューに進みたい。
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