記事の要点
・ヤマハ株式会社が、11月よりエジプト国の公立学校「エジプト・日本学校(EJS)」9校にてリコーダーを使った器楽教育を開始。
・同社は2015年より、新興国を中心に楽器に触れる機会に恵まれなかった子どもたちに演奏する楽しさを知ってもらう取り組み「スクールプロジェクト」を実施。
・エジプト国への導入は、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、ブラジル、アラブ首長国連邦に続き7か国目の展開。
編集部コメント
1887年のオルガン製造から始まり、以来130年以上にわたり楽器を中心とするさまざまな製品・サービスを提供し続け、世界中で親しまれるブランド、ヤマハ株式会社。
同社は総合楽器メーカーとしてモノの提供はもちろん、音楽文化の発展と豊かな社会づくりへの貢献活動も行っており、楽器を実際に演奏して学ぶ「器楽教育」のメリットを世界各地の音楽教育現場に広めてきた。
その中のひとつ「スクールプロジェクト」は、楽器に触れる機会に恵まれなかった子どもたちにも演奏する楽しさを知ってもらえるよう支援する取り組みであり、2015年より新興国を中心に展開している。
具体的には、設備や指導者不足、指導カリキュラムなどの問題から、器楽教育が行われるための環境が十分でない国で、リコーダーやピアニカ、キーボードの楽器・教材・指導ノウハウをパッケージにした独自プログラムを小学校に提供。公教育の中で楽器演奏を経験できる環境づくりをサポートしている。
これまでに6か国累計71万人の子ども達に器楽学習の機会を提供している本プロジェクトだが、今回、新たに2021年11月よりエジプト国での導入が決定したことを発表。マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、ブラジル、アラブ首長国連邦に続き7か国目の展開国となる。
エジプトでは、学力偏重の詰め込み型教育により、社会性・協調性および規律性といった非認知能力の発達と、一方通行の授業運営方法が課題とされてきた。現在、このような知識偏重の学校教育から脱却し、豊かな人間性をはぐくむ教育への転換が求められているという。
このようななか、同社は、国際協力機構(JICA)との「中小企業・SDGsビジネス支援事業」における、「初等教育への日本型器楽教育導入案件化調査」(エジプト)の業務委託契約の下、2021年6月より活動を実施。
特別活動(特活)をはじめとする「日本式教育」の特徴を取り入れた公立学校「エジプト・日本学校(EJS)」を設置し、また日本人の校長経験者をスーパーバイザーとするなどしており、非認知能力(社会性、協調性等)を養う日本の教育に非常に高い関心が寄せられている。
このような背景から、今回のスクールプロジェクトも導入に至ったというわけだ。
リコーダーというシンプルな楽器を通じて音楽に触れることは、EJSの児童にとってこれまでにない自己表現の機会であり、豊かな人間性を育む取り組みとして、EJSのみならず国内の教育関係者からも期待されているという。
エジプトでは新しいカリキュラムにおいて、音楽が4年生以上の必修科目とされ、今後高まるニーズにどのように応えていくかが、エジプト全体の大きな教育課題として認識されている。そんななか、本取り組みは非常に時宜を得たものとして歓迎されているようだ。
同社は今後、東京学芸大こども未来研究所(特定非営利活動法人)とともに器楽教育を通した非認知能力の測定手法検討を経て、エジプト・日本学校全48校への展開を目指していく。
また本活動により、器楽教育を通した子どもたちの非認知能力の育成、そしてエジプトの教育事情に寄り添った音楽の普及活動におけるビジネスモデルの策定も進めていくという。
実際にリコーダーを演奏した児童は、「リコーダーの音が美しく、鳥の鳴き声に似ていて面白い」といった声を上げるなどしており、楽しんで授業を受けている様子が伺える。
同じ音を聞いても、文化や宗教などの違いにより受け止め方や感じ方が異なるということは、国や環境、文化によって、人の考え方や受け止め方が違うということに通ずるところもありそうだ。様々な表現方法がある音楽を用いた本プロジェクトが、多様性への理解を深め、互いに認め合い尊重しあえるような土台づくりとなる事に期待したい。