記事の要点
・水環境の移送技術開発等を手がけるイノカが、サンゴを人工的に産卵させる実験「東京サンゴ礁化計画」の24時間ライブ配信をスタート。今回の実験に成功すれば、40余りの生物種からなるサンゴ生態系を含む、観賞用途を兼ねた小型水槽内での産卵実験としては世界で初となる。
・東京・虎ノ門のオフィスビル内にある会議フロア一角に水槽を配置し、IoTによって水温を沖縄県 久米島沖の海洋環境と同期。サンゴの他に40種類以上の水生生物を生息させ、自然界における「循環する生態系」が構築されている。
・水産庁の報告資料によると、世界のサンゴ礁の58%が潜在的に人間の活動(沿岸開発、生物資源の乱獲、海洋汚染、森林伐採や農地開発に起因する表土の流出など)によって脅かされており、また温暖化等による大規模な“白化現象”や、台風によるサンゴ礁の破壊、食害動物による被害など、サンゴを死滅させる要因は多岐にわたっている。
LoveTechポイント
このような形で実験の様子を公開することで、サンゴへの興味はもとより、サンゴが直面している危機の周知にも繋がるでしょうから、とても良い取り組みだと感じます。
地球における水環境を「のこし」「ひろめて」「つかう」という循環を創出している点が、LoveTechだと感じます。
編集部コメント
水環境の移送技術開発等を手がける株式会社イノカが、サンゴを人工的に産卵させる実験「東京サンゴ礁化計画」の24時間ライブ配信をスタートした。
ライブ配信中
サンゴ礁といえば、南国の海に広がる美しい生態系。一度は目にしたことのある方も多いのではないだろうか。
世界のサンゴ礁の総面積は60万km2となっており、地球表面のわずか0.1%に過ぎないが、そこには実に9万種もの多様な生物が生息し、人間に漁業資源や観光資源を提供している。また、サンゴ礁は天然の防波堤にもなり、沿岸に住む人々を高波から守ってくれる機能ももっている。ちなみに、ツバルやモルディブといった国は、国土のすべてがサンゴ礁でできていることで有名だ。
このように、私たち人間を含めたあらゆる生物に多大な恩恵を与えてくれるサンゴ礁だが、いま、消滅の危機に瀕していることをご存知だろうか。
水産庁の報告資料によると、世界のサンゴ礁の58%が潜在的に、私たち人間の活動(沿岸開発、生物資源の乱獲、海洋汚染、森林伐採や農地開発に起因する表土の流出など)によって脅かされており、また温暖化等による大規模な“白化現象”(※)や、台風によるサンゴ礁の破壊、食害動物による被害など、サンゴを死滅させる要因は多岐にわたっている。
※白化現象:礁サンゴに共生している褐虫藻が失われることで、サンゴの白い骨格が透けて見える現象のこと。白化した状態が続くと、サンゴは共生藻からの光合成生産物を受け取ることができず、壊滅してしまう。この原因は温暖化等による海水温の上昇と考えられており、1980年代以降急激に増加。特に1997年から1998年にかけての世界的な海水温の上昇によって、それまでに例をみない大規模な白化現象が起こって世界中のサンゴ礁が大きな打撃を受けた(水産庁HPより)
例えば白化現象について。豪ジェームズクック大学のテリー・ヒューズ[Terry Hughes]教授が2020年3月に実施した調査によると、過去5年の間に全長2300kmに及ぶサンゴ礁の約3分の1が、白化現象に見舞われたことが明らかになったという。
また、2040年までに9割近くのサンゴ礁が死滅するとの予測研究もあり、経済的観点からも潜在的損失は甚大と見られている。
そんなサンゴの危機に着目し、AI / IoTの知見を組み合わせた「環境移送技術」の研究開発を進め、地球の生態系ドクターを目指しているのが、今回のライブ配信を企画しているイノカだ。
環境移送とは「実際の海を切り取り、それを生態系ごと陸上に移動させる」行為のこと。つまりは「水環境のハイクオリティな陸上再現」であり、同社ではこのことを総じて「イノカの箱舟」と命名している。同社事業詳細については、以前取材したこちらの記事でもご紹介している。
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/foriio20191207/#i-4″]
今回、イノカではこの「環境移送技術」を用いて、完全閉鎖系の人工環境下でのサンゴ産卵実験を行なっている。
具体的には、東京・虎ノ門のオフィスビル内にある会議フロア一角に水槽を配置し、IoTによって水温を沖縄県 久米島沖の海洋環境と同期。サンゴの他に40種類以上の水生生物を生息させ、それぞれの生体同士は「食べ・食べられ」、「住み・住まれ」、そして対立し合うという、自然界における「循環する生態系」が構築されている(同社ではこの擬似自然環境を「人口生態系」と呼んでいる)。
実はこれまで世界で3回、英ホーニマンミュージアム、米カリフォルニア科学アカデミー、米フロリダ水族館にて、サンゴの人工産卵実験は行われている。だがいずれのケースも、暗室等の特殊な実験設備や、研究対象となるサンゴに生物種を限定するなど、産卵に特化した研究実験環境を前提としていたものだった。
もし今回の実験に成功すれば、40余りの生物種からなるサンゴ生態系を含む、観賞用途を兼ねた小型水槽内での産卵実験としては世界で初となり、ビルなどの一般的な都市空間において場所を選ばずに人工産卵が可能となるため、サンゴ研究が飛躍的に促進する見通しになるという。
サンゴの産卵は、満月の夜から前後 2週間程度の間、いつ行われてもおかしくはない。時間帯としては、毎日19:00から24:00まで。ライブ配信ではひたすら、水槽内のサンゴの様子が24時間映されている。
産卵が始まる約1時間前には、突起の先の触手の部分にピンク色の卵が浮き上がる「セッティング」という状態になるとのことで、ライブ動画でその状態を発見した人は、「#サンゴ産卵の予感」というハッシュタグでツイートすると、運営メンバーも見逃さないので助かる、とのことだ。
種を保存する企業による、参加型の保全実験企画。
現時点で、サンゴ産卵の瞬間をリアルタイムで見れる機会は非常にレアなので、貴重なチャンスを目にしたい方は、該当の時間帯に映像を流し続けると良いだろう。
水槽内の水流音を聴くだけでも、癒し効果があるに違いない。
以下、リリース内容となります。