記事の要点
・精神疾患向けに、VRを用いた新たな治療手法を開発している株式会社BiPSEEが、Beyond Next Venturesをリード投資家として、ANRI、Scrum Venturesを引受先とする第三者割当増資により2.5億円の調達を実施。
・同社が研究開発から製造販売までを行う「VRデジタル治療薬」は、VRを用いることで患者の心理に対して働きかける治療アプローチを通じて、これまで治療しきれなかった多くの疾患を治すことができる可能性を持った革新的な治療ツール。
・今回資金した調達により、うつ病患者向けのVRデジタル治療薬の開発および臨床試験を更に進め、VRデジタル治療の実現を目指す。
編集部コメント
精神疾患向けに、VRを用いた新たな治療手法を開発している株式会社BiPSEEが、Beyond Next Venturesをリード投資家として、ANRI、Scrum Venturesを引受先とする第三者割当増資により2.5億円の調達を実施した。
BiPSEEは、2017年に心療内科医によって設立されたMedTechスタートアップ。「VRでひと本来が持っている『力』を引き出し、高める」ことを目指し、VR技術と医学的エビデンスに基づいた精神疾患治療向けの「VRデジタル治療薬」の研究開発から製造販売までを行っている。
VRデジタル治療薬とは、プログラム医療機器(※)の一種で、VRを用い患者の心理に対して働きかける治療アプローチだ。
※プログラム医療機器:スマホアプリやVRなどデジタルツールを用いて疾患を治療する医療機器の総称。プログラム医療機器は海外ではSaMD(Software as a Meidical Device)、DTx(Digital Therapeutics)と呼ばれ、従来は治療が難しかった疾患を治す可能性を秘めた最新治療として、国内外で注目を集めている
従来の治療方法と比べ、患者の能動的な治療への参加を促すことができ、治療側の力量により治療効果や経過の差異が生じるメンタル領域において、世界中いつでも・どこからでも均一に質の高い医療サービスへのアクセスが可能となる。また、医薬品や医療機器と比べて、極めて高い費用対効果を実現できるといったメリットもあるという。
その第一弾として提供を開始したのが、2018年7月から「怖くない、痛くない治療」の実現をサポートする「BiPSEE歯科VRシリーズ」だ。
子どもの歯科受診には、(1)来院すること、(2)待合室で待つこと、(3)治療室に入ること、(4)処置・治療を受けること、という「4つのハードル」がある。
BiPSEE歯科VRシリーズでは、それぞれのハードルをこどもが無理なく乗り越えることができるよう、来院前に歯医者や歯科医院の様子をVRで体験するなど、4種類のVRサービスが含まれている。
このように、既存の医薬品や医療機器と異なり、「こころの領域」へのアプローチを行うVRデジタル治療薬は、これまで治療しきれなかった多くの疾患を治すことが期待される治療ツールだが、とくに精神疾患の分野での活用に熱い視線が寄せられている。
精神疾患の治療では、習慣化した思考や行動などにも焦点を当てた治療が求められており、アメリカでは既にデジタル治療薬は注意欠陥多動性障害(ADHD)などの神経疾患領域で製品開発・実用化が進んでいるという。
一方、うつ病は日本でも患者数が増加傾向にあるものの、抗うつ薬や認知行動療法などの既存の治療法では不十分な点もあり、大きな社会課題となっている領域だ。
そこでBiPSEEは、治療対象としてネガティブな感情や事柄に対して繰り返し考えてしまう「反すう」という症状に着目。反すうは、うつ病をはじめとする疾患横断的な症状であり、増悪の要因ともなっていることが分かっている。
BiPSEEのVRデジタル治療薬では、VR空間での没入やインタラクションにより、反すうを抑制するために必要な自己肯定感の醸成を可能であるとし、現在、高知大学医学部と共同研究を実施、同病院で臨床試験を進めて行く予定だ。
今回調達した資金は、このうつ病患者向けのVRデジタル治療薬の開発、および臨床試験を更に進め、VRデジタル治療の実現を目指すために活用するとのこと。
VRデジタル治療の普及により、高騰する医療費や医療格差問題など医療課題に対するソリューションを生み出すことができ、世界的にも黎明期であるプログラム医療機器分野において、日本が世界をリードすることが期待できる話だ。
精神疾患に対する社会的な理解が少しずつ進む一方、実際の治療法には長らくブレイクスルーが起こっていない。同社のVRデジタル治療薬が、そのきっかけになることを期待する。