記事の要点
・細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーが、スキンケア化粧品の原料「CELLAMENT®」を開発し、化粧品会社との原料販売の商談を開始。
・「CELLAMENT®」は培養肉研究の過程で、培養肉の副産物である細胞培養上清液に、肌に対して有用な成分が多数含まれていることを発見したことから、約2年の研究を行い、「細胞を活かす」ことに着目して開発した化粧品原料。
・インテグリカルチャー株式会社は、今後、たんぱく質不足などの食料課題解決だけではなく、化粧品原料開発においても、細胞農業のアプローチにより動物細胞資源を有効活用し、多様で豊かな未来の実現を目指していくという。
LoveTechポイント
化粧品でよく見るプラセンタやスクアレン(スクワラン)などは動物由来の機能性物質ですが、製品化するまでに環境へ大きな負荷がかかることから、持続可能性やアニマルウェルフェアなどの観点から食品と同様に社会問題となっています。
細胞農業の技術は、そのような課題への大きな一手として期待できるでしょう。
編集部コメント
細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社が、スキンケア化粧品原料「CELLAMENT®(以下、セラメント)」を開発し、量産体制が整ったため、化粧品会社との原料販売の商談を開始した。
インテグリカルチャーといえば、これまでも当メディアで報じてきた通り、「細胞農業」アプローチを通じて、培養肉づくりの研究開発を進めているバイオベンチャーだ。
細胞農業とは、生物を構成している細胞を体外で培養することにより、従来のような動物飼育をすることなく、肉や乳製品などの農産物とまったく同じものを作り出すことができるという、新しい資源生産の考え方。伝統的な農業活動に比べ、環境負荷が小さく、持続可能な生産方式として期待されている。
この細胞農業アプローチを使った研究開発は同社だけで進められているのではなく、産官学様々なパートナーと共に推進されている。
例えば2019年7月には日本ハムと細胞培養肉製造に向けた基盤技術の共同開発が始まり、同年10月には信州大学とニワトリを殺さずに細胞を安定的に回収・培養する共同研究を開始している。また、2020年7月にはシンガポールの細胞農業企業・Shiok Meatsと共同で「エビ細胞培養肉」の共同研究を開始することも発表され、細胞培養における国内外ネットワーク拡張を続けている。
そんな同社事業の中心となるのは、独自の汎用大規模細胞培養技術「CulNet System(以下、カルネットシステム)」。動物体内を模した環境を構築することで、細胞培養の高コスト原因であった成長因子の外部添加を不要にし、コスメに使用可能なエキス成分から食肉に用いる細胞成分まで、様々な利用範囲をもつ成分を安価で大量に生産できる技術である。
このカルネットシステムの共培養(2種以上の細胞種や組織を一緒に培養すること)を構成している細胞が、肌に有用な成分を作り出していることを発見し、化粧品分野への応用を約2年間進めてきたという。
そして今回、「卵」の胎盤様組織にある3種類の細胞(3mix細胞 ※)の培養上清液を新規化粧品原料「セラメント」として開発することに成功し、商品化するに至ったというわけだ。
※3mix細胞:鶏卵の胚膜(胎盤に相当する部分)にある3つの細胞を指す。羊膜(ようまく)・卵黄嚢(らんおうのう)・漿尿膜(しょうにょうまく、漿膜と尿膜をまとめたもの)
セラメントには、成長因子(グロースファクター)、アミノ酸、ビタミン等、肌に有用な生理活性物質が豊富に含まれ、線維芽細胞増殖促進/抗酸化/保湿/皮脂合成抑制等のエビデンスが確認できているという。
原料素材には、ワクチン製造にも使われる安全性の高い国産の卵を使用しており、すでに米国パーソナルケア製品評議会(PCPC)にて新規化粧品原料として登録済となっている。
セラメントの概要は下記の通り
・化粧品表示名称:ニワトリ胚体外膜細胞順化培養液
・INCI名:Chicken Extraembryonic Membrane Cell Conditioned Media
・特許出願番号:2018-210910
・製造国:日本
・8つの安全性試験クリア済:ヒト皮膚パッチ試験/3次元皮膚1次刺激代替試験/3次元眼刺激代替試験/皮膚感作性代替試験 (KeratinoSens、h-CLAT)/RIPT試験(アレルギーテスト/累積刺激)/アレルゲン分析/ウイルス検査/染色体異常
・WEBサイト:https://www.cellament.jp/
化粧品でよく見るプラセンタやスクアレン(スクワラン)などは、動物由来の機能性物質だが、製品化するまでに環境へ大きな負荷がかかることから、持続可能性やアニマルウェルフェアなどの観点から、食品と同様に社会問題となっている。
インテグリカルチャーの細胞農業技術を応用することで、食培養肉の副産物から作られる「CELLAMENT®」のように、食料以外にもさまざまな製品が生み出され、多くの分野で持続可能な生産方式が広がる事が期待されるだろう。