2019年、ハエ・テクノロジー企業のムスカがいよいよ孵化する《前編》

インタビュー

ムスカという卵が大きくなった2018年

 2018年、かつてないほどに”ハエ”がビジネス界隈を沸かせた。

 「イエバエの幼虫を使って、畜産糞尿や食品残渣等を、高品質な有機肥料と飼料に100%リサイクルする循環システム」という、かつてなくユニークでサステイナブルな事業が、世間から一挙に注目されたのである。

 その名も株式会社ムスカ。イエバエの学名、ムスカ・ドメスティカから命名された昆虫テクノロジースタートアップ企業である。

 2018年6月開催AG/SUMでのみずほ賞受賞を皮切りに、第5回アグリテックグランプリの川崎重工業賞、TechCrunch Tokyo 2018 Startup Battle最優秀賞&PRTIMES賞、Open Innovation ContestのSDGs賞と、国内各コンテストでの受賞が続いた。また国外でもヘルシンキで開催されたSLUSH 2018にてHELSINKI AWARDを受賞し、国内外での認知が爆発的に広がっていった。

TechCrunch Tokyo 2018 Startup Battleでのチームムスカの皆様

 会社の起源は2016年と若いが、同社の肝となるイエバエは実に45年もの歴史がある。もともとは旧ソ連における米国との宇宙開発競争の一環で、宇宙での排泄物処理と食料への転換を目指した技術として採用されたのが、このイエバエだった。船内で完結するバイオマス・リサイクルに最適だったことから採用されたのだ。それがソ連崩壊と共に、日本の技術商社がイエバエの種を買い付け、今日に至るまで1,100世代に渡って選別交配を重ねてきた。唯一無二のサラブレッド・イエバエというわけだ。

 45年間の研究フェーズが完了し、いよいよ「地球を救うテクノロジー」として社会実装すべく、設立されたのがムスカというわけだ。

 そして、ロシアの技術者から種を買い付けてきた先代の意志を受け継ぎ、20年以上かけて粛々とイエバエの優性な遺伝子を守り続けてきたのが、同社代表取締役会長の串間充崇(くしまみつたか)氏である。

 ムスカにとって飛躍の年となった2018年。Love Tech Mediaはムスカのルーツを探るべく、年末に宮崎県都農町にある同社宮崎ラボまで伺った。施設見学と併せて、同社の現在・過去、そして未来について3記事に渡ってお伝えする。

 なお、本記事でムスカを初めて知る方は、以下の動画を最初にご覧いただくと、同社の事業モデルがよくわかるだろう。

 

1,100世代のサラブレッドハエが生活する赤いラボ

 ムスカの宮崎ラボは、JR都農駅から車で約10分。荒崎山のふもとを通る広域農道から小道へ入っていくと、1軒の赤い建物が見えてくる。

 ナビではここを指しているが、この場所で本当に合っているのだろうか。確信が持てずウロウロしていると、奥からムスカ会長の串間氏が迎えてくれた。

ようこそ!はるばるお越しくださいました。

ムスカTシャツを着用し笑顔で迎えてくださった串間氏(写真右)

 この建物であっていたようだ!ここに、地球規模の食糧危機を解決するであろう画期的なバイオテクノロジーが潜んでいるとは、関係者でない限り知り得ないだろう。

 一安心したと同時に疑問が湧く。1,100世代に渡って選別交配した貴重なハエの卵が保管されているラボなので、筆者の勝手なイメージではあるが、もっと厳重なセキュリティで施錠管理された施設を思い浮かべていたのである。

 様々なメディアを賑わせ、海外からも注目されている今、貴重な卵やハエを盗もうとする者は現れたりしないのだろうか。

 後ほどしっかりと伺おうと思う。

早速、まずは弊社の幼虫ちゃんたちをご覧いただきたいと思います。

人手が不要な、自然界の完全自動システム

 幼虫飼育室に入ると、想像以上に臭くない空間に少し驚いた。畜糞を糧にしているということは、アンモニア特有の刺激臭がひどいと思っていたからだ。

この幼虫飼育室では、約30kgの畜糞が入ったトレイに、このイエバエの卵を振り掛けていきます。1日目で早速、卵から幼虫ちゃんが孵化(ふか)し、畜糞の中に潜って有機物の分解を始めます。

イエバエの卵

この状態が2日目なのですが、ここで見えている白いものは卵の抜け殻でして、この時点で既に幼虫たちは下に潜って消化酵素を出しています。この時点ではまだ生糞の臭いがしますね。

3日目になると、幼虫たちの動きが活発になり、消化酵素をバンバン出して畜糞の有機物を分解しています。耳をすますとパチパチという音が聞こえますが、これが幼虫たちの分解している音です。

スコップで畜糞をめくると酵素分解中の幼虫たちが顔を覗かせる

4日目ともなると、消化酵素を出し切った幼虫たちがサナギになるべく、外に這い出してきます。出てきた幼虫が、トレイの坂を這い上がり、下の容器に落ちて集まる、という仕組みです。

ハエの幼虫は土の中ではサナギになることができないので、土から這い出すという特性を生かした仕組みにしています。セミが土から出てくるのと同じイメージで考えてください。

5日目〜6日目の間で、ほぼ全ての幼虫がトレイの下に落ちます。またその間に、酵素分解された元糞尿の水分も乾燥していきます。

下の容器に大量に幼虫たちが溜まっている

そして7日目には、臭いのない肥料が出来上がります。幼虫たちが全部、きれいに酵素分解して食べてしまうので、見ての通り、ぬちゃぬちゃだった畜糞はサラサラの肥料になっています。

これを見てわかっていただきたいのが、人がいっさい手をつけなくとも、すべての工程が自動で進んでいくということです。つまり人件費がかからないので、お金もかかりません。

また、一般的な糞尿処理施設にいくと大量の糞尿が発酵しているので、強烈なアンモニア臭によって、ゴーグルがないと目が開けられない状況です。でもこの施設では最小限の発酵にとどまるので、臭いも最小限におさえられます。

自然の力を利用した100%リサイクルシステム

 ここで同社MUSCAシステムの仕組みについて、改めて紹介したい。

 幼虫飼育室で見せてもらった仕組みを通じて、畜産糞尿などの有機廃棄物は幼虫排泄物である肥料と、幼虫そのものを乾燥させた飼料に100%還元することができる。

肥料

 施設では畜糞を処理していたが、これは食品残渣などの他有機廃棄物でも同じように処理できるという。

 こちらは、ビール粕とオカラを、それぞれ幼虫が酵素分解したものである。

 またこちらは、左側が生ゴミと豚糞肥料を混ぜたものを、右側は鶏糞と焼酎粕を混ぜたものを、それぞれ幼虫が酵素分解したものである。

 いずれも飼育室で見た7日目のトレイと同様、サラサラとした肥料に昇華されていることがわかる。

 そして同社が実施した宮崎大学との共同研究の結果、この生成された肥料には病原菌抑制効果、農作物の成長促進効果、農作物の収穫量増加という3つの効果があることが立証されている。以下のキュウリの根の違いを見れば一目瞭然だろう。

飼料(乾燥幼虫)

 トレイ下の容器に落ちた幼虫群は、乾燥させることで、そのままであれば家畜用に、粉末状にすることで魚の養殖用に、それぞれ飼料として利用できる。

 こちらも、同社が文部科学省のJST(A-STEP)認可による国の研究プロジェクトとして実施した、愛媛大学との共同研究の結果、この乾燥幼虫飼料には耐病性付与効果、誘引効果、優位な増体効果という3つの効果があることが立証されている。増体効果としては、以下のような魚の養殖における個体のサイズ感の違いとなって現れている。

サナギ殻

 こちらはイエバエのサナギの抜け殻である。高級化粧品や衣料品などに利用できるキトサンや、成長促進剤となる窒素など、商業利用可能な様々な栄養素が詰まっている。

幼虫ボイル液

 こちらは簡単にいうと、イエバエ幼虫のだし汁である。幼虫の酵素や様々な肥料成分が入っており、植物のための液肥になるという。この幼虫ボイル液を与えた植物は非常によく育つという。

MUSCAシステム

このMUSCAシステムをすべて回していくと、ゴミが一切出ません。すべてが有価物にかわるという、まさに自然の力を利用した100%リサイクルできる仕組みなんです

 確かに、無駄なものがいっさいないことがお分かりいただけるだろう。まるでモンゴル民族が羊の肉・脂肪分・骨・皮など、あらゆるものを生活に活用する文化を見ているようだ。

 

 ここまでは施設内を見学させていただき、具体的なMUSCAシステムの仕組みをご説明いただいた。中編では、ムスカ設立に至るまでの経緯や背景について、旧ソ連時代の取り組みから現在に至るまでを詳細にお話いただいた。

 

》中編記事へつづく

LoveTechMedia編集部

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