日本初のアトピー見える化アプリ「アトピヨ」。アトピーを持つ方々を対象にした画像共有型アプリとして、アトピーの治療経過を画像で見える化してくれる仕組みだ。Love Tech Mediaでは前後編に渡り、アトピヨ開発者であるRyotaro Ako氏へのインタビューをお届けする。
前編では、アトピヨの機能紹介と、開発に至るまでの経緯を教えていただいた。後編では、アトピヨを通じた思いや今後のビジョンについて、引き続き同氏にお話いただく。
アトピーっこのママパパに特に使って欲しい
--アトピヨって、可愛い響きですよね。
Ryotaro Ako(以下、Ako氏):名前は色々と考えましたね。
僕一人だと、アトピーカメラとかアトピーカフェなど、何の変哲も無い感じになっちゃうので、ママ友に相談して女性目線での名付けを手伝ってもらいました。
何案か候補があった中で、アトピーについて気軽に話せるようなプラットフォームということで、サラっと口ずさめる響きとして「アトピヨ」にしました。
--ロゴも素敵ですね。
Ako氏:最初は真ん中のひよこが十字マークだったのですが、これもママさんへのヒアリングを実施し、その内容をもとに薬剤師である妻と相談の上、デザインを決めていきました。
--女性目線を大切にされていらっしゃいますが、使われる想定のターゲットも、女性がメインなのでしょうか?
Ako氏:そうですね、もちろん男性の方にも使っていただきたいのですが、20〜30代の女性を重要ターゲットと位置付けています。症状もしかりですが、アトピーによる見た目の部分で悩まれる方が多いので、そんな女性でも気軽に投稿できる仕組みにしたいと考えました。
あと、アトピーのお子様がいらっしゃる親御さんにも使っていただきたいです。2016年の厚労省の資料によると、4ヶ月から6歳までの幼少期でのアトピー発症率は12%にものぼります。そこから年齢が進むにつれて発症率が低くなるのですが、逆に先ほど(前編で)お伝えしたアレルギーマーチが進んだり、アトピーがどんどん悪化していく方もいらっしゃいます。
最初の段階で治してしまえばアレルギーマーチにならなかったり、アトピーが重症化しない可能性があるので、アトピーっこのママさんパパさんにも使っていただきたいです。
他の人のアトピー症状も画像で経過チェックできる
--アトピヨのメインの機能として、自身のアトピー症状を時系列で確認できる、というものがあると思います。スマホの写真アプリでも整理できると思うのですが、ユーザーがアトピヨを使う理由は何なのでしょうか?
Ako氏:確かにスマホにデフォルトで入っているアプリでも管理できますが、「自分のアトピー患部写真をずっとスマホに残したく無い」という声がたくさんありました。
例えば旅先で撮った思い出の写真の横に、症状のひどい患部の写真があると、気分が滅入ってしまいます。
また、他の写真を人に見せる時に、間違って自分の患部の写真も見られてしまわないかと、いつも気を遣わなければならないのもストレスです。
アトピヨではアプリ内で写真を撮って、そのまま投稿できるので、スマホに患部の写真が残りません。
--なるほど。アトピー当事者だからこその課題意識ですね。
Ako氏:あと、アトピヨではユーザーの方同士が、投稿画像を通じて交流できるようにもなっています。
具体的には、画像に対して「応援」と「コメント」を入れることができ、プッシュ通知で、リアルタイムでユーザー同士でつながることが出来ます。
--「応援」って面白いですね。
Ako氏:Facebookの「いいね」に相当する機能なのですが、悩ましいアトピー患部に対して「いいね」も違うなってなりまして、代わりに「応援」という概念にし、マークも握りこぶしにしました。
--最新の投稿に対して、過去の投稿が右側に表示される仕様も良いですね。
Ako氏:ここはプログラミングでも頑張ったところです。
同じ部位でも、5日前、1週間前、5週間前など、様々なタイミングの画像を横スクロールでかんたんに遡って、比較することができます。
他ユーザーの最新投稿と過去投稿を比較していくことで、どんな治療をしたらどんな経過で症状が変わっていったかを確認でき、お互いにとって参考になります。
「この薬を塗り始めたら、手の関節部分の症状がこんな感じで和らいでいった」など、他の人の具体的な経過を見れるところは他にないと思います。
画面右上の過去投稿は横スクロールで画像を遡って確認できる
--私自身、事前にインストールして操作してみましたが、画像付きで他の方の症状を検索して確認できるのは、これまでにない情報量でした。一方で、私のように症状が軽微だと、「何でこんな軽微な症状で投稿してるんだ!」とか思われないか心配で、結局投稿できていないんです。そのような方って他にいらっしゃらないのでしょうか?
Ako氏:まさにおっしゃる通り、同じアトピーでも、症状の重さは人それぞれです。
2019年1月(今月)から自分の投稿を非公開にできる機能を追加しました。
Ako氏:このように他の人の目が気になる場合や、顔に症状が出る場合など、自分だけの記録用としてアプリを使いたいという意見を多数いただきました。
そこで、投稿時に、非公開ボタンをタップするだけで、自分だけの記録になるようにしました。
また、マイページの画像左下の鍵マークのタップで、画像ごとにかんたんに公開・非公開を切り替えられるようにもしています。
製薬機関・医療機関・患者のハブになるアトピヨ構想
--アトピヨは先ほど(前編で)ボランティアとおっしゃっていたので、収益化しているわけでは無い、という認識で合っていますか?
Ako氏:そうですね。マネタイズしていません。
アプリ利用に課金をしていなければ、アプリ内で広告を出すようなこともしていません。全て自分の持ち出しです。
--広告は最もやりやすい収益モデルの一つだと思うのですが、なぜやらないのでしょうか?
Ako氏:大きく二つ理由があります。
まず、広告を打つということは、ユーザーの方にとって別の費用発生になりうるということ。日々アトピーで大変な思いをしているユーザーに、変な広告でお金を使って欲しくない、というのが一番大きいです。
また、これは将来的な話になるのですが、アトピヨを、アトピーに関する情報が集まるデータベースプラットフォームにしたいと考えています。現時点ではなるべく多くの写真画像を投稿してもらいたいので、余計な広告を表示させたくないのです。
--将来的にデータが集まることで、どのような展開を想定されているのでしょうか?
Ako氏:将来的な展開としては、主に製薬機関が対象になるかと考えています(図の左サイド)。
一つは新薬の治験サポートですね。病院内での治験なら経過を追えるのですが、日常生活の中だとなかなか難しいです。アトピヨで新薬治験の専用ルームを作って、そこで毎日、画像を通じて経過をチェックできるような提案ができると考えています。
また製薬機関では、どの薬がどんな症状に対して使われているのか、実は詳細な情報が入っていないことが多いです。多くは、薬の卸先である薬局で情報が止まってしまいます。
アトピヨ内に溜まった画像データと薬の使用状況データを提供することで、どんな症状にどんな薬が使われているかの具体的情報を提供できるとも考えています。
--この図ですと、右サイドの医療機関も気になりますね。
Ako氏:医療機関とは、共同研究のような形で、主にアトピヨの画像データを提供できればと思っています。
お医者さんの方では、どうしても来院時の患部状況しか把握できません。アトピヨで患部の症状履歴を見ることで、より的確な診断と、予防のための研究に役立てることができると考えています。
あとは、アプリという点を活かして、オンライン診療にも応用できたらと思っています。アトピーの方は、外見へのコンプレックスや、外出による発汗でかゆくなることを恐れ、外に出たがらない方も多いです。そんな方のためにも、室内で診療できる事例につなげていきたいですね。
--まさに、アトピヨがアトピー界隈のハブになるイメージですね!
Ako氏:そうですね。
ちなみに、画像という特性上、機械学習がしやすいのも特徴です。
将来的にはAIによる機械学習を通じて、アトピー症状別に有効な治療法や薬の分析ができるようにしていきたいとも考えています。
そのためにも、先ほどお伝えした通り、まずはできるだけ多くの画像データが溜まっていってほしいです。
〔アトピヨはその社会性・将来性を評価され、2018年12月の慶應義塾大学医学部主催「第三回健康医療ベンチャー大賞」にて応募総数104チーム中、社会人部門の3位に入賞。協賛企業Plamed賞を獲得するなど、注目度も急速に高まっている。〕
アトピーは一人で悩むのではなく、みんなで治す時代
--現在、アトピヨはどれくらいの方に使われているのでしょうか?
Ako氏:2018年7月下旬にリリースしてから3週間で1,000ダウンロードに到達し、2019年1月現在で3,300ダウンロード、1,900件のアトピーに関する画像の投稿があります。
--すごい反響ですね。
Ako氏:やはりアトピーって社会的課題として認識されているので、多くのメディアに掲載していただけたのが大きいです。
広告よりも、このような記事での訴求を通じて、一人でも多くの方に使っていただきたいですね。
--広告を出されていない中で、すごい期待値だと感じます!それでは、最後にLove Tech Media読者の皆様に一言、お願いします。
Ako氏:アトピーって、人に話しにくいテーマなんですよね。多くの患者にとって、できれば触れて欲しくない領域です。
アトピヨは完全匿名で、同じ悩みを持つ方と交流することができるので、気軽に相談や発信をすることができます。
アトピーは一人で悩むのではなく、これからはみんなで治す時代です。
辛いかゆみで悩まれている方は、ぜひアトピヨを使ってみてください!
取材協力(場所提供)/Pit ねのひ(東京都千代田区丸の内1-6-4 オアゾ1階)
編集後記
筆者自身アトピーの当事者なのですが、当事者だからこそ、他のアトピー患者の方の症状をしっかりと見ることはありませんでした。
今回の取材をきっかけにアトピヨを使うことで、様々な方のアトピー症状を経過とともに確認でき、その中でも自分と近しい症状の方の使っている薬や、つぶやきだけでも大変参考になっています。
「アトピーは一人で悩むのではなく、みんなで治す時代」
Akoさんのこのビジョンがとても素敵で、Loveに満ちています。
多くのアトピー患者の方にとっての当たり前の存在になっていただくよう、引き続き、Love Tech Mediaとしても活動を注視して参りたいと思います!
Tシャツの裏側はアトピヨのアプリへのQRコードになっている
本記事のインタビュイー
Ryotaro Ako
「アトピヨ」開発者
公認会計士。エンジニア。3児のパパ
アトピー(幼少期に完治)、喘息、鼻炎という3つのアレルギー疾患の経験から、患者会でボランティア活動に従事。環境アレルギーアドバイザー試験合格。アトピヨ開発のために、プログラマーの指導をうけ、プログラミングを学ぶ。
TechAcademy Contest 2018 Summer 最優秀賞
慶應義塾大学医学部主催「第3回健康医療ベンチャー大賞」3位入賞&Plamed賞