当事者とサービスデザインを進める
--衝撃的な数字ばかりでビックリしました。
タキザワ氏:私たちもリサーチを通じて視覚障害者の現状を知って、非常に驚きました。
現在は、視覚障害者でもある中川さんにスペシャルアドバイザーとして入っていただき、「mimamo by &HAND」サービスのデザインを一緒に進めています。
--中川さん、宜しくお願いします。最初にまず、簡単に自己紹介をお願いいたします。
中川テルヒロ(以下、中川氏):本業ではソフトウェア開発やユニバーサルマナー検定の講師、それからカウンセリングやコーチングの仕事もしています。
タキザワさんとは、インクルーシブデザインのワークショップで知り合いましたね。
視覚障害の当事者として協力してほしいと打診され、そのままPLAYERSに参画しました。
企業様との打ち合わせの場で当事者としての意見をお伝えしたり、新しい企画を考える上での視覚障害者の観点でのフィードバックをお伝えするなどを、主な役割として担っています。
--中川さんの現在の視力はどのような状態なのでしょうか?
中川氏:僕は左目が全盲の状態で、右目は中心だけ見えていて、視力は0.3です。右目の視野はとても狭く、おそらく健常者の1%程度の視野しかないようです。
--先ほどおっしゃっていたソフトウェアの開発などは、右目の限られた視野で進められているということですね。
中川氏:はい。それなりに見ることができますので、右目を通じて諸々の仕事を進めています。
10歳くらいから症状が出始めて、最初は両目ともに見えていたのですが、進行性の症状なので徐々に見えなくなってきて、現在の状態に至ります。
視覚障害者によって様々な見え方がありますので、僕はあくまで一例となります。
周囲の見守りで転落は予防できる
--実際に中川さんは、ホームから転落しそうになったことはありますか?
中川氏:転落自体はないのですが、電車が到着して隙間が空いてるところに片足だけ持って行かれたことはあります。あと、反対車線の電車到着音を勘違いして、電車がいない方面に電車があるものと思い込み、何もないところに足を伸ばして、ホームから落ちかけたことはありました。
--少し視力がある中川さんでもそのような現状なら、全盲の方は相当注意しないといけないですね。
タキザワ氏:先ほどはホームに転落した方のデータでしたが、同時にホームに転落しないで済んた方の理由についても調査結果があります。
1位は「杖などを使って自分で分かった」ですが、2・3位は「周りから声をかけられた」「身体や腕を掴まれたりして止められた」というものでした。
ここからはあくまでPLAYERSの仮説なのですが、声かけ・サポート運動の課題点は大きく2つあると考えています。
一つは、そもそもの認知があまりされていない。
もう一つが、一般のお客様が「自分ごと化」されていない、ということかなと考えています。
今しがたお伝えした通り、周りからの声がけによって転落を防げたというデータがあるので、駅員さんだけではなくて一般の方も積極的に見守りを行うことによって、多くの転落を予防できるのではないか、と考えています。
--具体的な仕組みとしてはどのように考えていらっしゃいますか?
タキザワ氏:具体的な仕組みは、視覚障害者や鉄道事業者とのワークショップを行いながら、検討・開発をしていきます。ワークショップは既に一回目を実施済みで、そこでの意見を参考に大きく3つの機能を検討しています。
まず視覚障害者には、Beaconが内蔵されたキーホルダー型のデバイスを携帯してもらいます。そこに駅員や一般の方などのサポーターが近づと、LINEに「近くに視覚障害者がいます」といった通知が届き、スムーズな見守りや緊急時の手助けを行うことができる「mimamoファインダー」機能。
(mimamoファインダー)
さらに、視覚障害者がサポートを必要とする時にデバイスのボタンを押すと、LINEに「改札に行きたい」「電車に乗りたい」「出口に行きたい」といったサポート依頼リストが届きます。その中から手助けして欲しい内容を選択すると、周囲のサポーターのLINEに通知が届く「mimamoサポートボタン」機能。
(mimamoサポートボタン)
最後は、「トイレ」や「工事中の箇所」などにmimamoスポットを設置し、そこに視覚障害者が近づくと、LINEに有益な情報が届く「mimamoスポット情報」機能です。
(mimamoスポット情報)
今後もワークショップなどを通じて、視覚障害者や鉄道事業者、一般の方の声を取り入れながら、開発をおこなっていきます。
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