マトリックスって本当ですよ
田方氏:じゃあこの「見えていると認識している」世界はどのように構築されているか、ということなのですが、結論としては、僕たちは「世界を脳内で再構築している」と考えます。
つまり、僕たちの意識が直接感じ取っているのは、脳が作り上げた仮想世界だということです。
--だんだん映画「マトリックス」みたいな話になってきましたね。
田方氏:まさにそうです。
マトリックスって、毎日普通に生活していると思われていたのは現実の世界でなく、コンピュータによって見せられていた仮想現実の夢だった、という話じゃないですか。実はそれが僕たちの世界でも行われています。
僕たちは、眼や耳を通して現実の世界を感じていると思っていますが、実は、僕たちの意識が直接感じ取っているのは、脳が無意識に作り上げた仮想世界だってことなんです。
僕はこれを「意識の仮想世界仮説」と呼んでいます。
もちろん、仮想現実の中身はマトリックスみたいにカプセルの中で延々と培養されている、ということではなく、現実を忠実に模倣したものだということなんですけどね。でも、現実世界でないことには違いはありません。今も、僕たちが見ている世界は仮想世界なのです。
--すごく斬新で挑戦的な仮説ですね!
田方氏:そうなんですよ。これ、ブログにも書いていて、個人的にはすごい仮説を世の中に出したと思っているんですが、あんまし反応がないんですよね(笑)
この仮説を使えば、いわゆる人工知能に関わる未解決問題、シンボルグラウンディング問題(記号接地問題)だとか、意識のハードプロブレムだとかが解決できると考えています。というか、解決しました、というブログをすでに書いています(笑)。
それと、「フレーム問題は解決済み」というブログは一番読まれていますね。
ちなみに、これもこれからブログに書こうと思っているのですが、脳科学の分野で「人間には自由意志があるのかないのか」という難問があるのですが、それについても、この意識の仮想世界仮説を使うことで説明することができると考えています。
ロボマイ語という独自の言語を作りました
--実際に意識って、どのようにプログラミングされるのですか?
田方氏:先ほどお話しした意識と無意識の考え方を元に、意識をプログラムで再現します。
さっき、意識と無意識の第一の違いは、入力と出力が直結しているのが無意識で、入力された情報を基に頭の中に仮想世界を創り、それを操作するのが意識だ、ということをお話しました。
もう一つの違いは、無意識は変更不可能で、意識は変更可能だということです。
僕の体験なのですが、小さい頃にタクシーに乗ってひどい乗り物酔いになったことがありました。それ以来、タクシーのあの独特の匂いを嗅ぐと、たとえタクシーに乗っていなくても乗り物酔いになってしまいます。無意識のところで反応してるんですね。無意識は、体が勝手に反応するタイプの処理なので、変更することができないんです。
一方、例えば正月にしか会わないおじさんの例を考えます。小さい頃にたまにしか会わないおじさんはいつもムスっとしていたから、怖い人だという認識がありました。でもある時、宿題で困っている僕を親身になって手伝ってくれたことで、実は優しい人なんだという認識になりました。つまり、意識は、頭の中で考えるタイプの処理、言い換えれば、頭の中の仮想世界を操作する処理なので、変更することができるんです。
ものすごくざっくり言うと、コンピュータで無意識を作るにはセンサーからの入力に反応して手足を自動で動かせばよく、逆に意識プログラムは、頭の中の仮想世界を操作するコントローラと言う位置付けで実装するべき、と考えています。
現在のほとんどの人工知能技術は圧倒的に前者が強く、後者は実現できていません。
ロボマインド・プロジェクトは、後者を実現するものです。
ちなみに、頭の中の仮想世界を操作する言語として、「ロボマイ語」という専用のプログラム言語を開発して実装しています。
--どんどん複雑な話になってきましたが、つまりは、入力された言葉(自然言語)をロボマイ語に変換して、仮想世界を操作することが、言葉の意味を理解するということですかね。
田方氏:そうです。まさに、その通りです。
今考えているのは、人と会話できるチャット・ボットです。
現在世の中にあるチャット・ボットって、結局は人間があらかじめシナリオを書いてそれに従って動くだけのものなのですが、僕が作ろうとしているシステムは、人間と同じ心を持ち、相手の言いたいことや文脈を理解することができます。ですので、自然な会話が続き、心が通ったコミュニケーションがとれます。
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