ハイブリッド構成の人工知能
--ケアマネジャーさんは、どのようにケアプランアシスタントを使われる想定ですか?
鹿野氏:ケアマネジャーさんが被介護者との面談で収集したその方に関する情報を、ケアプランアシスタントの「アセスメント」という入力画面で情報を入れていくんです。そうすると人工知能がそれを解釈し、ケアプランの仮案を作成します。こういう課題と目標・介護内容がありますよ、みたいな項目がずらずらっと出てきます。
ケアマネジャーさんはそれを見て、任意に修正することができるようにしています。文章を書き換えた上でまた人工知能に分析をさせると、また想定される課題と目標・介護内容が出てくる。これを繰り返して行くことで、精度の高いケアプランを作成いただける、という仕組みにしています。
人工知能と対話することでケアプランを作り上げていくイメージです。
--そうすると、知識のデータの他に言葉の理解が必要という、エンジンとしては非常に難しい分野を研究開発されていますね。
鹿野氏:すごく難しいですが、ちゃんと動いています(笑)
僕たちのケアプランアシスタントは、「経験」と「知識」の2つに分けて、それぞれ別の動かし方をしています。
まず「経験」については、過去のケアプランデータを機械学習させて、統計処理してモデルを作っていくということをやっています。過去のケアマネジャーさんの経験を人工知能が学んでいる、ということです。
でも先ほどお伝えした通り、半分の方々は、自分のケアプランに不安を持っているんですね。要は、データ自体が間違っている可能性があるんです。データとして間違っている可能性があるので、このままではダメですね。使えない人工知能ができてしまう。僕たちは現場を通じた課題感を知っているので、このままでは机上の空論だとわかっています。
そこでもう一つ、正しい「知識」をエンジンの中に入れる、ということも行なっています。データとしては、ガイドラインや教科書などです。
ケアマネジャーさんって、看護師や理学療法士、介護福祉士など、色々なバックボーンの方がいらっしゃるんですね。これらを全部学んでいる人はいなくて、それぞれの所有資格によって知識量に相当のバラツキがあるんです。なので、自分の持っていない知識の部分をサポートする人工知能が必要なんです。
先ほどお話した、ガイドラインや教科書などの知識を横断的に学習させ、骨としての「経験」に肉としての「知識」つける形で、より現実に即したケアプランの作成を実現しています。
他にはない、ハイブリッドな人工知能となっています。
精神性、心の豊かさ、暖かさ、有難み
--介護現場の課題が非常に具体的にわかりました。今後の目標を教えてください。
鹿野氏:とにかく初心は変わっていなくて、介護の構造改革を実現させる、ということですね。このまま放置したら確実に介護保険は崩壊するので、そうなる前に、弊社としてできることに全力で取り組んで行くだけです。
--ありがとうございます。最後に一言お願いします。
鹿野氏:いま、日本の良さってものがどんどん失われていってると思うんです。
介護の現場に行くと、当然高齢の方とよく話すんですが、90歳の方なんかは「世のため人のため」という精神が非常に多く感じられるんですね。それが80歳、70歳と年齢が下がって行くごとに、少しずつそうで無くなって行く。
戦後の資本主義の構造の中で、思いやりだとか感受性、精神性が失われていって、人々は「何を信じたらいいかわからない状態」になってしまっていると思います。
こんな時代だからこそ、改めて当事者意識と愛を持って、社会に良い変革をもたらす取り組みを進めていけたらと考えていますし、そういう方がどんどん増えていってほしいと願っています。
精神性、心の豊かさ、暖かさ、有難み。これらが僕たちの大事にしたい部分です。
編集後記
今回のインタビューでは、介護業界の危機的な状況と、それに向けての一筋の希望をみることができました。
現場を知っているからこそ、必要なものを開発し、必要な人にアプローチして、どんどん巻き込めていけているのだと感じます。
鹿野さんがおっしゃっている「精神性、心の豊かさ、暖かさ、有難み」。これらはまさに、Love Techとしてフォーカスしたい概念です。
今後もLove Tech Mediaとして、ウェルモ社の取り組みを追っていきます。
本記事のインタビュイー
鹿野佑介(かの ゆうすけ)
株式会社ウェルモ 代表取締役CEO
大阪府豊中市出身。立命館アジア太平洋大学卒。ワークスアプリケーションズ、東証一部上場企業人事部にて大企業向け人的資源管理のITコンサルタント。仙台から福岡まで、介護現場のボランティアで感じた問題意識から日本の超高齢化社会を支援すべく2013年に当社を設立。経済産業省 つながるデータで築く未来、総務省 地域ICT利活用普及促進セミナー、データアカデミー等多数講師を務める。