かゆみとそれに伴う皮膚の病変で、人を大いに悩ませるアトピー性皮膚炎(以下、アトピー)。
かゆみが時々発生し軽い紅斑(こうはん)が出てくる程度の方もいれば、絶え間なくかゆみが続き皮膚のいたるところに重度の湿疹や糜爛(びらん)が現れている方もいる。アトピーと言っても、症状や病変部分は様々だ。
アトピーの原因としては、遺伝的要因、ストレスなどの心理的要因、空気や生活習慣などの環境要因、食べるものなどの摂取要因など、様々な仮説が立てられているものの、現時点で未だ抜本的な解明には至っていない。
生命に直接影響のある症状ではないものの、24時間寝ている間もかゆみが続くケースが多く、皮膚を掻き壊すことで症状がひどくなり人目にも触れてしまうことから、当事者のメンタルに大きく影響し、人によっては重度の精神疾患にかかってしまうケースもある。
NPO法人日本アトピー協会通信紙「あとぴぃなう」によると、日本には実に600万人ものアトピー患者がいるとの推計が出されている(H12~14年度厚生労働科学研究によるアトピー性皮膚炎疫学調査より推計されたとのこと)。我々日本人の約20人に1人が該当していることになり、まさに国民病である。
筆者自身も軽度のアトピー患者であることから、2018年10月15日から2日間に渡り新宿の京王プラザホテルで開催された「みんなのアレルギーEXPO2018」に参加して情報収集していたところ、面白いサービスに出会った。
日本初のアトピー見える化アプリ「アトピヨ」である。
アトピーを持つ方々を対象にした画像共有型アプリで、アトピーの治療経過を画像で見える化してくれるという。
EXPO会場のセミナーコーナーで アプリ開発者の方がプレゼンをされるということで、まずはそちらをチェックした。
アトピー画像を投稿・比較・検索できるアプリ
セミナーのタイトルは「元アトピーの公認会計士がiPhoneアトピーアプリ『アトピヨ』を自分で作ったワケ」。アプリ開発者であるRyotaro Ako氏により、アトピヨの具体的機能が紹介された。
アトピヨでは、自身のアトピー疾患部位の写真画像を投稿し、”匿名で”共有することができる。これまでアトピーに関する文字投稿サイトはあったものの、画像投稿という機能は新しいアプローチだ。確かに、アトピーの症状は文字だけでは表現が難しく、画像だと一目瞭然である。
このように、自身の治療経過を一目でチェックすることができる。どのタイミングでどんな肌の状態だったかを履歴で確認できるので、自身の生活習慣との相関関係など、なかなか気づかない要因を見つけやすいかもしれない。
また、ホーム画面では、他のユーザーの最新投稿を過去と自動比較し、応援やコメントをすることができる。
そして、「症状」もしくは「部位・カテゴリー」に応じて柔軟に画像検索ができる。症状はキーワード検索ができ、部位やカテゴリーはそれぞれアイコン化したボタンをタップして検索することができる。
操作性が非常に良さそうである。
Ako氏自身がアトピー(幼少期に完治)・喘息・鼻炎という3つのアレルギー疾患を持っており、その辛さを知っていることから、いかに幼少期の頃のアレルギーマーチ(※)を食い止めるかを考えた結果、自身でアプリ開発をするに至ったという。
※アレルギーマーチ:アトピー素因のある人が、年齢と共にアレルギー疾患が変化していく現象のこと。
ちなみに、アプリ開発には奥様もお手伝いをされたとのことで、主に女性目線でのアドバイスをされたという。
セミナー会場では詳細を伺うのには時間的制限があるので、後日Ako氏にお時間をいただき、アトピヨ事業について、またAko氏自身について改めてお話を伺った。
取材日当日、街中のカフェでの取材にも関わらず、イベントと同様にアトピヨTシャツを着用して登場された。
監査法人からのプログラミング
--先日はイベントにて有難うございました!アトピヨのTシャツが素敵ですね!
Ryotaro Ako(以下、Ako氏):有難うございます。これは先ほど、近くのお手洗いで着替えてきました(笑)
--さすがにご自宅からではないんですね!このアトピヨは、現在どのような形で運用されていらっしゃるのでしょうか?
Ako氏:平日は会社員として働いていますので、土日にボランティアとしてアトピヨの運営をしています。
--アトピヨはあくまでボランティアなんですね!Akoさんの現在のお仕事と、これまでのご経歴を教えてください。
Ako氏:今は一般企業で内部監査などをやっています。
経歴としては、もともと大学院までは機械をマネジメントする管理工学を専攻し、サプライチェーンマネジメントの研究をしていました。管理工学は経営工学とも呼ばれ、この時から会社経営のケーススタディに触れていました。
大学院を卒業してからは、会計士の勉強を始め、3年後に公認会計士試験に合格し、27歳で監査法人に就職しました。
そこで8年ほど勤めたのちに35歳で現在の会社に転職しまして、今に至ります。
--医療関係のお仕事かと思ったら、全然違うんですね!アトピヨはご自身でプログラミングされたということですが、いつから開発を始められたのですか?
Ako氏:昨年、38歳の時に3人目の子供が生まれたのを機に、1年3ヶ月間の育児休暇を取得しました。その期間、家事と育児の合間で何か自分がやりたいことをやろうと思い、自宅で学べるプログラミングスクールであるTech Academyを受講しました。プログラミング自体は、大学の頃にC++を、大学院の頃にVBAを使っていたのですが、iPhoneアプリを開発するため、Swiftという最新の言語を一から勉強し直しました。
もともと僕の中で、アレルギー分野の活動をやりたいとずっと考えていたので、Tech Academyでもそのテーマでアプリを作ろうとなりました。
〔受講したTech Academyの2018年8月のコンテストにおいて、アトピヨはプログラミング部門で最優秀賞を受賞している。操作性が良いのも納得である。〕
幼少期におけるアレルギーマーチの進行を食い止めたい
--先日のイベントで、Akoさんご自身もアトピーと喘息と鼻炎を持たれていると伺いました。やはりご自身の原体験からの課題感だったのですか?
Ako氏:はい、アトピーと喘息はもう治っているのですが、鼻炎などのアレルギー反応は大人になっても治らず、3年前には救急車で運ばれました。
その日、熱海の旅館に泊まったのですが、絨毯やカーテンなどが非常に埃っぽく、また子ども達がはしゃぐので部屋に埃が舞い、ハウスダストアレルギーに反応して一気に体調が悪化しました。顔含めた上半身は腫れ、呼吸もおかしくなりました。
結局は救急車で近くの病院に運ばれ、ステロイドを打って落ち着きました。
こういった経験を何度もしている中で、アレルギーへの問題意識が自然と高まっていきました。
--アレルギーにも色々あると思うのですが、なぜアトピー領域だったのでしょうか?
Ako氏:僕自身が幼少期にアトピーだったことから、他のアレルギーと比べて症状が特に辛いことを知っていました。24時間ずっと体がかゆいので、睡眠や集中力に影響が出てしまいますし、見た目に症状がでるのでメンタルもやられてしまいます。
あと、幼少期におけるアレルギーマーチの進行がアトピーや肌荒れから始まることが多いのも、理由の一つです。2016年の厚労省の資料によると、今、日本人の2人に1人が何かしらのアレルギー疾患を持っているとされています。もし最初の段階でアトピーを減らすことができれば、そのままアレルギーで困る人自体が減るのではないか、という仮説のもとに、この領域で活動することにしました。
--そこからは、どのようにして今のアトピヨの形になっていったのですか?
Ako氏:ある飲み会で、ブログで8年もの間、自身のアトピー記録を発信している方とお話しました。写真画像とともに肌経過をWEBにあげていて、結構な反響だったんです。
確かに、人がどういう肌の状態からどういう治療を経てどう推移していったのか、見たい人は多いはずなのに、世の中にそういったサービスがないんですよね。
症状の経過を共有して、お互いの治療の役に立つ。そんなアプリを作れたらいいな、と思ったことが、アトピヨ開発を思いついた直接のきっかけです。
取材協力(場所提供)/Pit ねのひ(東京都千代田区丸の内1-6-4 オアゾ1階)
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