令和元年11月11日(月)、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムにて開催されたシェアリングエコノミーの祭典『SHARE SUMMIT 2019』。
前編記事では、イベント冒頭に設置されたキーセッション「Co-Economy〜共創と共助で創るこれからの日本〜」について、官民それぞれの立場から考えるCo-Economyについてお伝えした。
後編記事では、「シェアという思想〜令和時代を切り拓くスピリット〜」というテーマで設置されたセッションの内容をお伝えする。
令和時代を迎え、当たり前とされてきた社会の前提を失いつつある今、本当の豊かさとは何か、幸せとは何か、生き方や社会そのものの捉え方を再定義する時がきている。
シェアが広がった世界の文化、思想、生き方について、この分野に一過言のある登壇者4名による“ざっくばらん”な議論が繰り広げられた。
非常に面白く、様々な方向へと議論が拡張していったセッションだったので、本記事では、ほぼノーカットでその様子をお伝えする。
<登壇者> ※写真左から順番に
- 石山アンジュ(いしやま あんじゅ)氏
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長 - 高木新平(たかぎ しんぺい)氏
ビジョンアーキテクト VISIONING COMPANY「NEWPEACE」代表 - 佐々木俊尚(ささき としなお)氏
ジャーナリスト・評論家 - 津田佳明(つだ よしあき)氏
ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター
平成は、昭和の感覚が捨てられなかった時代
ジャーナリスト・評論家 佐々木俊尚(ささき としなお)氏
石山氏:令和時代を考える前に、まず「平成」ってどんな時代でしたか?
佐々木氏:「昭和の感覚が捨てられなかった時代」と捉えています。
例えば「物価が上がる」という文脈で考えたときに、宅急便が値上げしたと昭和脳の人が聞いたら、彼らは「庶民の家計を直撃しますね」と言います。
これは、インフレを抑えねばならなかった時代においては正解だったわけですが、デフレの時代を経た2010年代以降だと、今度はインフレを誘導しなければならない時代になってくるので、宅急便の価格が上がることはむしろ良いことなんですよ。
こういう、古い神話みたいなものを早く捨てて、今のテクノロジー、今の時代のシステムに適合した新たなコモンセンスを作らなければならない。
これが、令和の役割ではないかと考えています。
高木氏:同じく、平成は「昭和を引きずった時代」ですね。
価値観としては“1億総中流”という、均一的な教育システムと終身雇用、そして国民皆保険に守られて、ある種そういう生き方のレールから外れることができなかった時代とも言えます。
それが、流石にやってらんないよね、ってなったのが平成の最後の「働き方改革」。でも、システム的にはまだ追いついていなくて、成功体験的には抜け出せていないのも事実。
日本は少子高齢化なので、こういった過去の成功体験をした人の方が多いというゲームをしているのが、辛いところです。
この前ラグビーが大いに盛り上がりましたが、それって「弱小国日本が大国に勝っていく」というプロセスが、高度経済成長期と同じ快楽を生み出している、という考察もあるくらいですからね。
そういう“快楽”から抜け出せない時代であり、限界だなと思いながら見ていました。
ビジョンアーキテクト VISIONING COMPANY「NEWPEACE」代表 高木新平(たかぎ しんぺい)氏
佐々木氏:少子高齢化なんて言ったって、そんなの20世紀だけなんですよ。日本でいうと明治維新以降。江戸時代や中世なんて、ほとんどの地域で人口なんて増えてなかったわけです。
人口ボーナス期というものが、産業革命後に偶然、ヨーロッパ・アメリカからスタートして、それが日本、中国、東南アジアへとドミノ倒し的に起きているだけで、それを我々は“普通”だと思っている。
でもその“普通”は、わずか200年くらいしか続いてないよ、ってことなんです。
以前、駒澤大学の井上智洋教授と「AI時代の経済学はどうあるべきか」というテーマで対談をしたことがあるのですが、今までは機械化することで雇用が生まれ、それによって経済成長が起きると言うモデルだったわけです。
それが今は「純粋機械化経済」、つまり雇用を生まない技術革新が起きる可能性があると。
そうなった時にどうやって経済が成立するのかわからない。
ケインズ以降の経済学そのものが20世紀的であり、19世紀以降の「成長」をベースにした理論だということになります。
旧来の経済成長モデルが成り立たない時代で、我々はどうするか
ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター 津田佳明(つだ よしあき)氏
佐々木氏:シェアって、GDPに換算されないじゃないですか。むしろ、シェアされればされるほど、GDPは減っていって経済成長しない。
でも一方で、人々は少しずつ豊かになっていく
この矛盾した状況の中で、どうやって経済の仕組みや経済学を考えるか。
津田氏:企業にいると、GDPは結構大きな指標になっちゃっていると感じます。
例えば自分のいる航空業界だと、GDPが2%伸びれば、航空業界は4%伸びるという言い方をされてきました。今は1.7%程度なので、少し減速していますが。
そこを見ているので、どうしてもGDPありきの発想になっちゃいますね。
高木氏:アフリカまでのフロンティアと資源の有効活用が、テクノロジーで作られる限りは、シェアもビジネスになる。
でも問題はその後ですよね。
佐々木氏:車を例に挙げると、車が売れ続けるのは車メーカーにとって嬉しいんだけど、実際に売れた車の大半は駐車場に眠っていて、稼働時間は実のところ3割〜4割。地方だと数パーセントしか稼働していないというデータもある。
そこにUBERのようなシェアリングエコノミーが入ってくると、空いてる車がどんどん有効活用されるようになる。
そうすると車が今まで以上に稼働するようになるが、一方で自動車の販売高は減っていく。つまり、今後生産高が減っていくことは明らかなんです。
それをどう判断するのかが求められるんじゃないの?と思うわけです。
高木氏:その辺は最近でいう「サステナビリティ」という切り口でも語られてますよね。
例えばアパレル企業でも、今は生産の方が需要よりも多くなっちゃってて、要は“捨てまくって”いる。
これが世界的に大問題になっていて、事業づくりも環境的なところからやんなきゃいけない、という動きになってきています。
作り続けるゲームから、いかにチェンジしていくか。そこに対する解がないのと同じ問題な気がします。
津田氏:トヨタさんのサブスクモデル。あれは結構びっくりしました。
あそこって、これまですごい宣伝費をかけて「車を買い替えるモデル」を追求してきたのに、それを全否定するようなビジネスモデルを急に出してきて、すごく衝撃的でした。
佐々木氏:いずれにせよ、否が応でも、サブスクが中心になって所有することが減ると、消費が減っていき、かつての「定常化状態」に経済は回帰していくのは、ある種仕方ないと思います。
ただし、経済成長を前提に国家予算は組まれ、それによって社会福祉も維持されてきた現状があるので、そこから逆回転し始めるとどうなるのか。
旧来の経済成長モデルが成り立たない時代に、我々はどうやって新しい経済モデルやライフスタイルを確立するか。
これを考えねばならない時が来ていますよ。
大きく考えることをやめて、小さく考えていくしかない
会場で配布された『SHARE SUMMIT 2019 パンフレット』巻末
佐々木氏:『WIRED』日本版編集長 松島さんがこのSHARE SUMMITに寄せた言葉の中に「Future Literacy(以下、フューチャー・リテラシー)」という言葉がありますよね。
要は「未来について、どうイメージするかのリテラシー」です。
1970年代「大阪万博」で語られたような、未来は素晴らしいもので、科学が進歩することで我々がどんどんと豊かになって成長していくというイメージ、それ自体が、もはや古い20世紀的なものなんです。
そうではない「新しいフューチャー」とは何なのか?
石山氏:今まで未来への期待値をずっと引き伸ばして、維持し続けてきたのが、とうとう難しくなってきた、という現状ですよね。
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長 石山アンジュ(いしやま あんじゅ)氏
佐々木氏:楽しい未来の反対はディストピアになっちゃうけど、そういう形ではない、より地に足のついた未来イメージみたいなもので、進歩的でも革新的でもないものを確立していかねばならない。
ひょっとしたら、未来じゃなくて「中世への回帰」とか、そういう話になるかもしれないです。
石山氏:私たちってここ60年程のスパンでの視野でしか世界を見れていない。江戸時代などに原点回帰した時に、今をどう見るかが大切ですね。
佐々木氏:「いま無いもの」は、なかなか想像できないですよ。
未来をイメージするのがいかに難しいかって話として、例えば1982年に公開された映画『ブレードランナー』。あれの舞台は2019年11月、つまり今月なんです。
ロサンゼルスの未来世界をイメージしたものとして、車が空を飛んでいたり、人間そっくりのアンドロイドができたりなど、明らかに今より進んでいるものがあったりする一方で、主人公が誰かに連絡する時に、ブラウン管テレビで公衆電話しているシーン(※)もあったりするわけです。
SNSとかいうイメージが、そもそも無いんです。
今現時点で全く存在しないものをイメージするのは、すごく難しいんです。
※画面付きの公衆電話で、捜査官のデッカードがコインを入れて通話するシーン
高木氏:そもそも今の社会制度や価値観は戦後に作られてきたわけで、そこの域から出られないわけだから、難しいですよね。
大きく考えることをやめて、小さく考えていくしかないかなと。
シェアとかも、本当はもっと手触り感があったものだったのが、次第に「資源の有効活用」ができるものが何でもシェアになっていって、結果として今の某コワーキングみたいな大きなプラットフォームになっていった。
一方で、面白いのがサブスクリプション。
これまでの物売りビジネスって、既存顧客から得た利益を、新規顧客刈り取りのために広告費として使って、とにかく「増やすモデル」でした。
新しい相手しか考えないビジネスだったので、広告も大量消費型。
でもサブスクって、既存顧客のために積み上げていって、それが口コミとかを通じて、広がりになっていく。
それって実は、大量生産・大量消費とは違うベクトルだなって考えていて、僕は「小さいコミュニティ × サブスク」みたいなビジネスが、今後たくさん生まれると思っています。
僕も実際に小さな会員制カレー屋を恵比寿と渋谷でやっているんですが、完全紹介制にしていて、情報だけはオープンだけどコミュニティ自体はクローズドで、だからこそ心理的安全性がある。
すると結果的に、自分の得意なものを披露したり、食べ物をシェアするなど、小さなシェアが生まれる。
そういうのを作っていくのが大事かなーと思っています。