「イエバエ」を使って、畜産糞尿や食品残渣等を有機肥料や飼料に100%リサイクルする循環システムを構築する株式会社ムスカ。
宮崎県都農町にある同社宮崎ラボまで伺い、前編では施設見学の様子と、イエバエプロセスから生成される肥料や飼料の、畜産や養殖・農業への効果についてお伝えした。また中編では、ムスカ設立に至るまでの経緯や背景について、旧ソ連時代の取り組みから現在に至るまでを詳細にお話いただいた。
最後後編では、同社のこれからの取り組みと未来への展望について、前編・中編に引き続き代表取締役会長の串間充崇(くしまみつたか)氏にお話を伺った。
2019年最初のミッションはパイロット幼虫プラントの着工
株式会社ムスカ 代表取締役会長 串間充崇氏
--御社のイエバエを使った技術力は良くわかりました。次に具体的なビジネスモデルについて教えてください。
串間充崇(以下、串間氏):直近ではまず、先ほどご覧いただいた幼虫の工程を完全に自動化した「幼虫プラント」(以下、プラント)を建設します。
そして、このプラントを中心とする流通をパッケージ化して、ファイナンスリース提供する予定です。
串間氏:具体的には、オーナーさんの注文を受けてプラントを建設し、有機廃棄物処理依頼者から畜産糞尿や食品残渣などの有機廃棄物の処理依頼を受けます。届いた有機廃棄物が、プラント内のMUSCAシステムを通じて飼料と肥料に生成され、それぞれ飼料商社と肥料商社に出荷されます。
この一連の流れをトータルパッケージとして提供します。
--プラントのイメージを教えていただきたいのですが、どれくらいのサイズ感で、プラント内はどのような仕組みなのでしょうか?
串間氏:日量100トンで500坪を標準サイズとして予定しています。
プラント内は、基本的には先ほど(前編で)ご覧いただいた仕組みを、「ありふれた廉価な工業機械」を使って自動化します。例えば、有機廃棄物を入れた容器を運ぶ「ベルトコンベア」や、容器をひっくり返して肥料を回収するための「ロボットアーム」、肥料をペレット化する「ペレタイザ」、幼虫を飼料として適した状態に加工する「乾燥粉砕機」、飼料と肥料を袋詰めするための「充填機」などです。
それらのFA(ファクトリーオートメーション)機器によって幼虫は飼料として自動加工されます。
もちろん、幼虫によって生成されたサラサラの肥料も、自動回収されて加工されます。
自動化といっても、実は単純な処理ばかりですので、難しいことは何もありません。
--意外とわかりやすい仕組みですね。プラント第1号であるパイロットプラントは、いつ頃完成する予定ですか?
串間氏:完成時期は調整中ですが、2019年春頃には着工のお知らせを届けることができるよう、準備を進めています。
出来上がった製品に対する全量買い上げ保障制度
--プラントのオーナーさんには、どのような方がなるイメージでしょうか?
串間氏:様々な立場の方がオーナーになると想定しています。例えば、そもそも有機廃棄物に困っている自治体、組合、畜産事業者などの助けにはなりたいですね。また、フードロス問題に取り組む食品加工業界、飲食店業界、宿泊業界の方々からの引き合いも多くなってきました。
--オーナーさんは、具体的に何をされるのですか?
串間氏:弊社が管理運営を行うので、基本的には何もしていただく必要がありません。
--飼料や肥料といった製品が売れない場合はどうすれば良いのでしょうか?
串間氏:出来上がった製品は、基本的には弊社側で全量買い上げ保障をしますので、オーナー様は何も心配する必要がありません。
--御社が全て買い取るのですね!例えば飼料の市場は価格の乱高下が激しいと伺ったのですが、ビジネス的に大丈夫なのでしょうか?
串間氏:飼料も肥料も、色々な形で販売が可能だと考えています。全量買い上げ保障ができるだけのシナリオを具体的に用意できているので、ご安心いただければと思います。
--あと、流通についてはいかがでしょうか。畜産糞尿などの調達のためには、物流サイドもおさえなければならないのではと感じました。
串間氏:今現在、生ゴミや畜産糞尿はどこかで大量に発生していて、またそれらは既存の糞尿処理施設等で、微生物による発酵堆肥化など、何らかの処理をされているはずですよね。
新たに構築するというよりかは、堆肥センターをMUSCAシステムに置き換えるという手法を取ることで、既存の流通をそのまま活かせると考えています。
既存の動いているシステムの中に組み込めることが、一つのポイントです。
盗難・災害・遺伝子操作による競争優位リスクについて
--何点か事業リスクについて質問させてください。御社の競争力の根源は、サラブレッドなイエバエかと存じます。こちらの施設を拝見する限り、そこまで厳重なセキュリティには見えないのですが、盗難のリスクはないのでしょうか?
串間氏:確かに、施設は施錠をしているものの、例えばドアや壁を壊して侵入されて、幼虫や卵を盗まれないかと言われれば、ゼロではありませんね。
でもうちのハエを盗んだところで、何もできないでしょう。いくらサラブレッドなハエでも、通常の交配をすると、処理性能が確実に劣化することは確認済みです。
私たちはハエの能力を高い次元に維持するノウハウを持っていてブラックボックス化しています。私たち以外の方々がそれを維持しようと思った時に、天文学的な組み合わせをしない限りは達成できません。
そういう意味では、最悪盗まれても、どうにもできないだろうと考えています。
--なるほど。次に、この施設が家事や土砂災害などで倒壊してしまった場合の対策は、何かされているのでしょうか?
串間氏:イエバエは全国各地の施設にバックアップしております。ですので最悪この施設が全壊してしまったとしても、イエバエの種は守れるようになっています。
--バックアップ体制が整っているのですね。自然災害だけはいつ起こるかわからないので、安心しました。最後に、そもそも遺伝子操作で御社のイエバエ と同等の性能があるハエを生み出されるリスクはないのでしょうか?
串間氏:私たちのイエバエは、ただ単にストレスに強いだけではありません。卵をたくさん産んで、産んだ卵の孵化率が高くて、幼虫は早く太って早く出てきます。つまり、色々な項目がハイスペックになっています。
一つの遺伝子だけではこのような複合的なハイスペックを達成できません。複数の遺伝子操作で実現しようとすると、ものすごく大変ですし、お金も時間も膨大にかかります。ですのであまり現実的ではなく、現時点では大きなリスクとも捉えていません。これは、DNA専門の学者に伺った中で出した結論です。
私たちは0.5次産業を作ろうとしている
--事業に対する海外からの反応はいかがでしょうか?
串間氏:非常に良いですよ。
--でも実際にはまだ資金調達されていないのは何故なのでしょう?
串間氏:この事業をどうしてもメイド・イン・ジャパンにしたいからです。
海外からの出資を受けていたとしたら、すでに数十億円集まって、とっくにプラントも出来上がり、事業を加速させることができたかもしれません。
私は、自分たちの子ども世代には、日本人としてのアイデンティティを大切にしてもらい、世界に誇れる日本人として海外に出ていきたいと考えています。
そのためにも、この食の安全と世界のタンパク質危機を救う事業は、必ず日本発で行わなければならない、と考えています。つまり、私のわがままでもあります。
--素敵な御意志だと感じます。では、国内での展開が順調に進んでいった際の海外進出は、どんなイメージなのでしょうか?
串間氏:MUSCAプラント、畜産・養殖場、オーガニック農場の3つをトライアングルでつなげ、周辺の技術も含めた全てをパッケージ化した上で輸出したいと考えています。
例えば魚の養殖場で言えば、生簀の中の状況を可視化できるIoTセンサーも、トータルのシステムの中の一部分として、包含して輸出するイメージです。
単にプラントだけ持っていく、というだけではなく、様々な組み合わせや、選択肢があります。
--すごく壮大なビジョンで大変興奮します。最後に、2019年以降のビジョンについて一言、お願いします。
串間氏:私たちムスカは、産業を作ろうとしています。
世の中には一次産業・二次産業・三次産業とありますが、その前に飼料や肥料という、大前提となる市場が存在します。
私はこれを勝手に「0.5次産業」と命名しています。
このすべての産業の基礎となるベース産業を作るべく、ムスカは世界で最初の昆虫メジャーになろうとしています。イエバエシステムは、そのための最初の事業にすぎません。
すでに大手商社との提携や、大型パイロットプラント着工に向けて大手ゼネコンとの話が進んでいます。
暫定CEOの流郷含め、頼もしいチームメンバーにも恵まれています。
まずは今年の第1号プラント着工に向けて、一歩一歩着実に進んでまいります!
編集後記
今年の7月にLove Tech Mediaで初めてムスカさんを取材させていただいた際に、「今年中に必ず宮崎のラボに行きたい!」と感じました。その願いが叶い、2018年末に、念願の現地訪問取材が実現しました。
2018年後半にはTechCrunch Tokyo 2018 Startup Battle最優秀賞受賞やSLUSH 2018でのHELSINKI AWARD受賞など華やかな実績が続かれましたが、その裏で、20年以上の地道な努力と仮説・検証の繰り返しがありました。
世界の食の未来を照らすハエ・テクノロジー。それを支えるチームムスカの皆様。成長が爆発する会社は、代表含めてチームが最高だと、改めてよく分かりました。
2019年も大活躍を期待しております!
TechCrunch Tokyo 2018 Startup Battleで最優秀賞に選出された際の串間氏とチームムスカ
本記事のインタビュイー
串間充崇(くしま みつたか)
株式会社ムスカ 代表取締役会長
1976年宮崎市生まれ。国立都城工業高等専門学校電気情報課卒業後、中部電力に就職。 その後、恩師である小林一年と出会い、株式会社フィールドに就職。ロシアの特殊な宇宙、軍事派生技術など特殊技術案件や多方面商品開発に従事。様々な分野の知識を吸収し、経験を積み、自らアビオス株式会社を設立。フィールドの案件やルートを継承し追加の研究開発を継続し開発を完了し、事業拡大のために株式会社ムスカを設立。 世界規模での食糧安全保障問題の解決に取り組み、後世の為に、完全有機循環型街作りや、無薬食循環による付加価値の創造の実現を目指している。夢と野心多き中年。
株式会社ムスカの別インタビュー記事も、併せてご覧ください。
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