一人ひとりの香り体験に寄り添うべく、それぞれの生活シーンに適したオリジナルアロマが自宅に送られてくるECサービス「CODE Meee(コードミー)」を提供する株式会社コードミー。
「マスに最適化した香り」を追求してきたこれまでの香料業界とは異なり、個人ごとに最適化した香りの提供に挑戦している。
前編では同社のサービス内容と会社立ち上げのきっかけについて、株式会社コードミー 代表取締役CEOの太田賢司(おおたけんじ)氏にお話を伺った。
後編も引き続き太田氏に、サービスのより詳細な事例や、事業を通じて目指す”愛の形”について伺った。
自分の香りを持つことに喜びを感じる男性が意外と多い
--一般向けサービスであるCODE Meeeでは、継続的に届く香りが少しずつ個人に最適化される仕組みになっているとおっしゃっていましたが、その仕組みについて教えてください。
太田賢司(以下、太田氏):ユーザーが最初に入力したプロフィールに則して、私たちはその人に適した香りを創香します。でも、最初からカチッと100%イメージに合致した香りを作れるとは思っていません。それに、季節や体調によっても、香りの嗜好は変わってきます。
そのためのチューニングの仕組みとして、ユーザーにお届けした香りをフィードバックしてもらうようにしています。
大きく2軸あるのですが、一つは好みの香りを聞きます。そしてもう一つは、期待したエモーションに沿っていたかを確認します。例えば、集中を期待してちゃんと集中力は高まったか、気分が上がることを期待して実際に気分は上がったか、などです。
また、香りのイメージ色もヒアリングします。これもプロフィール作成時に、朝・昼・夜で自分に合った色を17色の中からそれぞれ選択するのですが、届いた香りを通じてイメージした色が最初に入力した色に合致していたかを確認します。
--印象として、女性が特に喜びそうな仕組みですね。
太田氏:おっしゃる通り、私たちも女性ユーザーが大半を占めると考えていました。でも実際にサービスを開始すると、男性ユーザーも多いんですよ。
20〜30代を中心に年代は幅広く男女比はほぼ半々、といった利用状況です。
--男性は何に惹かれて利用しているんでしょうか?
太田氏:もちろん色々な用途があると思いますが、印象的な2つの感想をいただきました。
まず一人目ですが、仕事のプレゼン前や大事な商談前に自分の香りを嗅ぐと全て上手くいく、というジンクスを持たれている方がいらっしゃいました。自分の香りを持つことに興味を持たれる男性が多く、この方は特に、香りでジンクスを持つことに喜びを持たれていらっしゃいました。
--香りを通じたルーティンが、その方にはできているということですね。
太田氏:二人目は、CODE Meeeを始めてからタバコの量が減った、ということでした。それまではリフレッシュする方法がタバコしか見当たらなかったのですが、それが健康的なアロマにシフトしていったとのことです。
このような方に魅力的なUXを突き詰めれば、新しいメンタルヘルスケアにつながるのではとも感じており、これまでと違ったマーケットとして伸びていける可能性を感じています。
--元喫煙者としてわかる気がします。ちなみに、香りの調合はどこで実施されているのでしょうか?外注ですか?
太田氏:現在は100%内製で、こちらのラボで調合しています。
--え!全部自分たちで作られているのですか?
太田氏:はい。今後注文量が更に増えてスケールした時はOEMで外に出すことも考えていますが、現時点では自分たちでやることにしています。
音楽と香りによって日常に愛ある生活を提供できた瞬間
シンガーソングライター吉澤嘉代子氏(写真左)と太田氏(写真右)
--企業向けにも面白いことをされていらっしゃいますよね。
太田氏:そうですね。色々な空間演出や商品開発をさせていただいております。
--多くのお取り組みの中で、特に印象に残っていることは何でしょうか?
太田氏:なかなか絞れませんが、2017年11月に音楽ライブ×コードミーで最初にコラボさせていただいた、シンガーソングライター吉澤嘉代子(よしざわかよこ)さんのライブツアー「お茶会ツアー2017」演出は、色々な可能性がひらけた取り組みでした。
--どのような内容でコラボされたのですか?
太田氏:弊社が香りプロデュースをさせていただきまして、会場エントランスや、来場者の方へお配りするパンフレット、限定グッズに、2ndシングル「残ってる」をテーマにしたオリジナルアロマを展開しました。
女の子が地元の駅に朝帰りした時の心情を歌ったコンセプチュアルな曲でして、「あなたが残っている からだの奥に残っている」という歌詞と香りを掛け合わせ、「あなたが残ってるアロマ」を作りました。
全国14ヵ所ライブツアーだったのですが、その中で横浜、東京公演におじゃまし、心地よいポジティブな時間を共有させていただきました。
--エンタメと香りって、親和性が高そうですね。
太田氏:ライブ直後からツイッターやインスタグラムで反響があり、音楽と香りによって日常に愛のある生活が提供できた瞬間だったと感じて、嬉しかったです。
他にも、2018年5月20日(日)に東京のイイノホールで開催された、映画「羊と鋼の森」の完成披露試写会用に、弊社がオリジナルアロマの創香を担当させていただきました。
太田氏:映画の原作にも登場する「森の匂い」をテーマにした香りを創香し、このような香りが染み込みやすい、香りの保留効果があるカードをパンフレットに同封し、来場者の皆さまに体感いただきました。
太田氏:ちなみにこの時の香りは、北海道を代表する樹木の1つであるアカエゾマツの精油を活用した、清々しい森林調の香りが特徴的なアロマです。
弊社では日本産のアロマを多く使うのですが、香りの質が非常に高い割にはまだまだ流通できていません。それらのマーケットを広げることで、将来的に地域創生にもつなげていきたいと考えています。
愛は、香りの記憶の表現である
--香りって脳内の記憶やイメージにダイレクトに直結するがゆえに、愛の記憶やイメージとも密接に関わっているような感覚があります。太田さんにとって、愛と香りは何か結びつきますか?
太田氏:まさに、愛は香りの記憶の表現だと思いますよ。
--素敵すぎるフレーズ!どういうことでしょうか?
太田氏:10年前、まだ私が香りの世界に足を踏み入れたばかりの頃、あるドキュメンタリー番組をやっていまして、その中のシーンが今でも鮮明に残っています。
ある小さな男の子がいて、自分の部屋の押入れから大好きだった今は亡き母親の白いセーターを取り出して嬉しそうに話すんです。
「お母さんのセーターにはまだ匂いが残ってるから、眠れない寂しい夜は、この匂いを嗅いで元気を出すんです。」
それを見たとき、香りの力って物凄いな、って思いました。
--確かに、匂いって当時の記憶を呼び覚ましますからね。
太田氏:この男の子が持っている白いセーターの匂いは、ゆくゆくはなくなります。香りも化学物質なので、時間とともに揮発してどうしても消えるんです。
でもそれは非常にもったい無い。
数十年後にその子が同じ匂いを嗅ぎたいと思った時に、嗅げるようにしたい。香りの情報をデジタル情報として残しておけば、それがライフログとなって、記憶を呼び覚ましてあげることができる。
弊社のバリューって、実はそこを目指しているんです。
--まさに、愛に寄り添った事業ですね。特別な香りでなくとも、日常の匂いなども再現できるものでしょうか?
太田氏:香りは、分析技術(専門機器)と官能評価(人の鼻)の組み合わせで再現できるケースが多いです。
弊社の香りのパターンも再現できますからね。
--ちなみに、太田さんの中にある、愛に通ずる香りの記憶って、どんなものがあるのでしょうか?
太田氏:数年前、大切な人の誕生日にメッセージを込めたオリジナルの香水をプレゼントしました。
すごく喜んでくれて、今でもそれを纏ってくれています。
その香りがまさに、愛の香りの記憶ですね。
--超素敵なギフトですね。そういったニーズは世の中にありそうですね!
太田氏:まさに、ギフトとして香りをプレゼントしたいという要望が非常に多かったので、「CODE Meee for Gift」という、CODE Meeeのギフト向け商品も作りました。WEB上でギフトコードを購入することで、プレゼントを贈りたい人に専用コードをお知らせします。ギフトを受け取る方は、ご自身でアロマプロフィールを登録することで、特別なアロマが送られてきます。
香りのトータルコーディネートという世界観を実現したい
--今後の事業展開における中長期的な目標を教えてください。
太田氏:まず一般のtoC向けとしては、「香りのトータルコーディネート」という世界観を実現したいと考えています。
今はエアミストのみの取り扱いですが、今後は入浴剤や香水、ルームディフューザーや柔軟剤など、暮らしのあらゆるシーンの香りをトータルコーディネートしたいと考えています。
--なるほど。企業向けはいかがですか?
太田氏:まだ香りを応用できていない業界に入り込んでいきたいですね。
現在、香りを生かした空間演出をしているのは主にホテル業界とアパレル業界がほとんどです。
でも今後は、エモーショナルな領域と機能性としての領域で、それぞれ香りが応用できると考えています。
エモーショナルな領域としては、先ほどのアーティストライブのようなエンタメ領域でしょう。
また機能性の領域としては、睡眠改善や認知症予防などのヘルスケア領域との親和性が高いと考えています。
あと直近では、企業やコワーキングスペースなどの「働く場」もいいですね。仕事をする場として、例えば集中力を高めることができるようなプロデュースをしたいです。
--色々と可能性が広がりますね!それでは最後に、Love Tech Media読者の皆様に一言、お願いします。
太田氏:テクノロジーが様々な業界の構造を変えている中、香りの世界にも大きなチャンスが到来していると強く感じます。
今後、弊社では香りの専門的知識と経験を持たれる方のみならず、ビジョンに共感していただける方を積極的に採用し、スピードを上げて事業展開していく予定です。
個人の香りの楽しみ方、企業様向けの香りマーケティング支援、ヘルスケアやエンターテインメントの世界をワンランク上のステージへアップデートしてまいります!
編集後記
香りというと、なんとなくアナログな業界のイメージがあったので、コードミーさんの進めている「香りのデジタル再現性」は非常に興奮する内容でした。
記憶やイメージに直結するからこそ、ヘルステック領域への進出も近いのではと感じます。
ちなみに、太田さんの好きな香り素材は「Damascenones ダマセノン」とのこと。
ローズの香りを作るとき等、広く使われる素材らしく、樽の中でずっと熟成させたウィスキーをロックグラスで飲むときに漂ってくるようなニュアンスの香りが、たまらないのだそうです。
なるほどー、専門知識がないと全然わからない、マニアックな領域ですね!
そんなマニアックな領域がグッと身近になる、そんなCODE Meeeの今後を、Love Tech Mediaでは引き続き追って参ります。
本記事のインタビュイー
太田賢司(おおた けんじ)
株式会社コードミー 代表取締役CEO
フレグランスイノベーター。 北海道大学大学院理学研究科を卒業後、国内最大手の香料会社にてフレグランスの開発に10年携わる。フレグランスのマーケティング・官能評価に携わる専門研究職であるエバリュエーターとして、豊富な香りの開発経験を有する。香り&テクノロジーの力で「新しい香り社会を描く」ことをミッションに掲げ、2017年に株式会社コードミーを創業。社会にアロマのエッセンスを加えることで、新しいライフスタイルの創造と地方創生を目差す。 経営学修士(MBA)、理学修士。