一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」をはじめ、親のための自分史作成サービス「親の雑誌™」、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発など、相手とのコミュニケーションを軸に事業展開する株式会社こころみ。
まさにLove Techな事業ばかりである同社について、前編・中編では同社代表取締役社長 神山晃男(かみやまあきお)氏に、事業展開の経緯やその思いについてお話を伺った。
後編では、同社取締役の早川次郎(はやかわじろう)氏と、実際に同社のコミュニケーターとして活躍されている中川葉子(なかがわようこ)氏に、それぞれお話を伺った。
未経験者こそコミュニケーターとして積極採用
株式会社こころみ 取締役/創業の雑誌編集長 早川次郎氏
--まずは現在のお仕事内容について教えてください。
早川次郎(以下、早川氏):コンシューマ事業を担当する取締役として、つながりプラス・親の雑誌・創業の雑誌の事業責任者をしております。
サービスの集客から、自社のコミュニケーター育成まで、オペレーション部分を担っています。
--代表の神山さんよりお話を伺い、コミュニケーターという貴社独自の役職が非常に面白いと感じました。コミュニケーターはどのように採用・育成されているのでしょうか?
早川氏:書類選考を通過した方には、まず座学でコミュニケーターとしての姿勢やテクニックを学んでいただいたのちに、2日間の集合研修を通じてひたすら実践形式のロールプレイングをしていただきます。
それを経て実施する試験に合格すると、晴れてコミュニケーターとして採用され、その後はOJTで現場デビューしていただきます。
親の雑誌の場合はインタビュアーとして実際の取材現場であるお宅に行ってもらい、つながりプラスの場合は電話口のオペレーターとして担当のご家庭を受け持ってもらいます。
どちらのサービスも、”傾聴”など使っている技術は一緒なので、両サービスを担当するコミュニケーターも多いです。
--コミュニケーターの方は、現在何名くらいいらっしゃるのでしょうか?
早川氏:登録ベースだと50人くらいで、その中で現在アクティブに活動されている方は30人程です。
--結構多いですね!皆様、インタビューやライティングなど、もともとそういったスキルを持っていらっしゃる方々なのでしょうか?
早川氏:いえ、ほとんどの方はそういった経験はないですね。
むしろ、プロとして取材経験のない方を、積極的には採用するようにしています。
--それはなぜなのでしょうか?
早川氏:普通のメディア取材ですと、その媒体の使命や方向性なるものがあって、取材者の方はその方向性に即した話にインタビューをリードすることが多いと思います。
でも親の雑誌の場合、取材対象者ご本人が話したいことを最優先しているので、こちらは必要以上のことを話しませんし、コントロールもしません。
以前、親の雑誌のインタビュー現場を取材された時も、「こんなに質問しないんですね」と記者さんに言われたほどです。
当社の取材は ”傾聴” をベースにした手法となっており、いわゆる一般的な取材とは異なります。
ですので、取材経験のない方のほうがむしろ、弊社の業務にフィットしやすいと考えています。
一番大事なことは「相手に興味を持つこと」
--傾聴をベースにした取材って、具体的にはどんな流れで進んでいくのでしょうか?
早川氏:わかりやすいテクニックでお伝えすると、一例として”おうむ返し”があります。
例えばご本人が「昔はやんちゃだったんだよ」と仰ったら、こちらは「やんちゃだったんですね?」と返します。
一般的な取材者だと「どう、やんちゃだったんですか?」とすぐに具体的な内容を聞きたがると思いますが、できるだけ相手に委ねるようにします。
そうすることで、結果としてご本人からどんどん話が引き出されていきます。
--なるほど。取材の切り出しで何か工夫されていることはありますか?
早川氏:最初に必ず、生年月日と生まれた場所を伺うようにしています。
この2つは、どなたでも悩むことなくお話いただける項目です。
知っていることからお話をスタートしてもらうと、相手がだんだんノッてきます。
介護の現場などで使われる回想法でも、昔から今の流れで話してもらう流れとなっているので、それと一緒です。
多くの方は最初、「私なんて、話すことなんて何もないから」とおっしゃるのですが、インタビューを進めていくと、嘘のようにお話いただけますね。
--色々なテクニックがあるんですね。
早川氏:そうですね。
ただ、テクニックももちろん大事ですが、一番大事なことは「お相手に興味を持つ」ということです。
つながりプラス、親の雑誌、創業の雑誌のいずれも、相手に興味を持つことが、結果としてお話を引き出すことになります。
--ご本人とコミュニケーターの相性って、どうされているのでしょうか?
早川氏:基本的に、”傾聴”はこちら側のパーソナリティは関係ないので、相性を考慮したアサインをすることはほとんどありません。
とはいえ、例えば経営者の方にインタビューする場合は、経営周りのことを少しは理解しているコミュニケーターをアサインする、というくらいの調整はします。
相手のことを、より大切に思えるようになった
次に、実際に2015年からコミュニケーターとして活躍される中川葉子氏にお話を伺った。
--まずは現在のお仕事内容について教えてください。
中川葉子(以下、中川氏):こころみのコミュニケーターとして、親の雑誌のインタビューや、つながりプラスのお電話を担当しております。
--どのようなきっかけでコミュニケーターになられたのでしょうか?
中川氏:もともとは私の友人がコミュニケーターをやっていまして、紹介してもらったのがきっかけです。
ぼんやりとですが、本や雑誌を作る仕事に携わってみたいと考えていたので、「これはやるっきゃない!」と思って応募しました。
--もともと、傾聴のような、話を聞くのが好きなタイプだったのでしょうか?
中川氏:いえ、むしろ逆でして、もともとは自分が話しちゃう人でした。
友人からも「もっとちゃんと人の話を聞いた方が良いよ」と言われるくらいだったのですが、こころみのコミュニケーター研修を通じて、話を聞ける自分になっていきました!
--親の雑誌やつながりプラスを通じて、印象に残っているエピソードはありますか?
中川氏:色々とあるのですが、親の雑誌のインタビューで戦争の話をされる方が多く、そのどれもが心に残っています。
涙ながらに話される方も多くて、自分も思わず泣いてしまいます。
戦争の恐ろしさを改めて感じるのですが、平和な現代だからこそ、貴重なお話だと思います。
あとは、仕事も趣味も全力でやっていらっしゃるご老人がいらっしゃって、とにかく楽しそうにお話しされたんです。
そんな姿を見ながら「私もこんな風に生きよう!」と元気を頂いた、なんてこともありました。
--素敵ですね。これまで何名くらいの方をご担当されたのですか?
中川氏:親の雑誌のインタビューは数十件担当し、つながりプラスは数名担当しています。
つながりプラスについては、長い方だと1年以上担当させていただいており、毎週の電話を待ってもらっている、というちょっとだけ大切な存在になれていることは、とても貴重で嬉しい体験です。
--コミュニケーターのお仕事を通じて、ご自身に何か変化を感じることはありますか?
中川氏:(少し考えて)
相手のことを、より大切に思えるようになったと思います。
インタビューをすると、相手のお話をじっくり聞くので、終わりの頃には相手のことを大切に感じるようになるんですよね。
それが家族含め、自分自身の周りに対する態度にも現れていると思います。
やめろと言われるまで続けたい!
--中川さんはもともと「聞くよりも話す」タイプだったとのことですが、早川さんから見られて、いかがでしたでしょうか?
早川氏:「私、人の話聞くの得意です」という人の方が、実際にロープレを実施すると、結構ダメだったりするものです。
中川さんはその逆のタイプでしたし、基本的に素直なので、こちらからお伝えしたことを素直に学んで吸収してくれ、それを次に生かしてくれるタイプでした。
今思うと、ダイヤの原石みたいな印象です(笑)
--べた褒めですね!Love Tech Media定番の質問で恐縮ですが、お二人にとって”愛”とはなんでしょうか?
中川氏:(即答で)”感謝”することだと思います。
感謝がないと愛はないです。これは日々感じていることです。
早川氏:”相手”がいてくれることだと思います。
一人じゃないから愛が生まれ、コミュニケーションが生まれる。
こう思っています。
--ありがとうございます。最後に、お二人の今後の目標やビジョンについて、それぞれ教えてください。
中川氏:この仕事は大好きでして、本当に人に喜んでもらえることがとても嬉しく有り難いです。
やめろ、と言われるまで続けたいです!
早川氏:私自身、もともと「コミュニケーションを題材にしたサービス設計」に魅力を感じ、こころみにジョインした背景があります。
弊社の事業は、家族とのコミュニケーションを支援するサービスです。一度使っていただくと、その良さ、サービスとして利用することの価値にお気づきいただけると考えており、出来るだけ多くの人に使ってもらいたいと考えています。
この「聞く技術」を使ったサービスはもっと色々な展開できると思います。今後も様々な仕掛けをしていけたらと考えています!
編集後記
高齢者に限らず、社会的な接点を絶たれることが、人間にとっての最大の苦痛かもしれません。テクノロジーが発達して、わざわざ人と話さずとも生活することのできる地盤が整ってきたからこそ、この「社会的な孤立」がますます増えていると感じており、社会における構造的な課題だと日々感じています。
こころみさんの事業は、まさに「相手の優しさ」を引き出す貴重なサービスです。サービスの受け手だけでなく、提供者側やその周りのご家族も、みんなが”優しくなる”仕組みです。
特に「親の雑誌」は、最高の親孝行サービスですね。
「最近、親孝行できていないなー」と思われている方は、ぜひプレゼントを検討されてみてはいかがでしょうか。
今後も「高齢者」「聞く技術」をベースに面白いことを企画されていらっしゃるようなので、引き続き、Love Tech Mediaとして注視して参りたいと思います!
本記事のインタビュイー
[写真右]早川次郎(はやかわじろう)
株式会社こころみ 取締役 創業の雑誌編集長
1978年生まれ 東京都町田市出身
慶応義塾大学文学部史学科卒業。
2002年から2012年まで富士急行株式会社にて観光施設(富士急ハイランド等)の企画、広報・宣伝業務に従事
2012年から2013年まで日本経済新聞社にて電子版関連事業の企画・営業、「ソーシャルビジネス」関連アワード等を担当
2013年12月、株式会社こころみに参画。取締役に就任。コンシューマ事業本部長、親の雑誌編集長を歴任。
2018年8月、創業の雑誌編集長就任
[写真左]中川葉子(なかがわようこ)
株式会社こころみ コミュニケーター
1972年生まれ 千葉県船橋市出身
東京成徳短期大学国文科卒業。
1992年から1997年まで株式会社オリエントコーポレーションにて営業事務、営業担当
1997年結婚、現在15歳と18歳の子育て中
2015年株式会社こころみ コミュニケーター
シフォンケーキ研究家
ローフードマイスター
自宅で料理教室やシフォンケーキ教室を開催