江ノ島から世界へ!ねこの、ねこによる、ねこのためのIoTトイレ「toletta」《前編》

インタビュー

 ペットとして高い人気を誇る「ねこ」。

 一般社団法人ペットフード協会が2017年に実施した全国犬猫飼育実態調査によると、全国の犬の飼育頭数は約8,920千頭なのに対し、ねこの飼育頭数は約9,526千頭と推計され、猫の飼育数が犬の飼育数を上回っている。

犬(左)とねこ(右)の飼育頭数の変遷(一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」より)

 ねこは、そのゆったりとした振る舞いとは裏腹に、非常に我慢強い生き物といわれる。その為、体調不良の兆候が他の動物に比べて分かりにくい傾向があり、周囲が病気に気がついた段階ではすでに手遅れになることも多い。

 そんな飼い主とペットの悲しみを減らすために開発されたトイレがある。尿量や体重などの情報をスマホでデータ管理できる、ねこ専用IoTトイレ「toletta」(トレッタ)だ。2018年8月8日に一般販売開始されたtolettaは瞬く間に世のねこ好きに広まり、1ヶ月も経たない9月6日には受注台数が早くも1,000台を突破した。また飼い主のみならず、獣医学会でも注目を集め、海外まで講演で呼ばれるほどだ。

 開発に成功したのは「ねこが幸せになれば、人はもっと幸せになれる。」を企業理念に掲げる株式会社ハチたまだ。toletta開発までの道のりと創業の思い、そして今後の道のりを追うべく、Love Tech Mediaでは代表の堀宏治(ほり こうじ)氏にインタビューを行った。

 まず前編では株式会社ハチたま創業に至る経緯と、tolettaの仕組みについてお話を伺った。

 

昔から”データ”を意識して仕事をしていた

――まずは堀さんのご経歴と、「株式会社ハチたま」創業までの経緯をお聞かせください。

堀宏治(以下、堀氏):僕は今のペット業界に関わるまでは、医療業界で働いていました。

父方の親戚のほとんどが医者という環境でして、命や健康に関わる分野に携わりたいという気持ちが自然と育まれていったんだと思います。

医療業界といっても、人をみる側ではなく、システムをみる側でした。最初に就職した会社がNTTデータ、いわゆるシステム・インテグレーション企業でして、配属されたのが電子カルテ等を扱う病院の情報システム部門でした。医者の道に進まなかったのに、結果として医者を支援する仕組みに携わるとは、運命を感じましたね。

10年ほどNTTデータに勤めた後、今度はJohnson&Johnsonに転職し、病院経営コンサルティングに3年間携わりました。

その後、2003年に1社の立ち上げメンバーとして取締役副社長をつとめた後に、2006年に病院のデータ分析を行う会社を起業して独立しました。

 

――この時点で既に起業2社目なんですね!

堀氏:現在の会社含めて、起業は4社目になりますね。

2社目を立ち上げた頃、日本の医療制度が大きく変わるタイミングでして、病院側はコストの見直しを迫られている時期でした。

前職のコンサルティング業と並行して、1,000ほどの病院から集めた膨大なデータを比較し、病院の経営に役立つデータ提供&分析サービスを展開しました。

この頃の経験が、現在の「データ収集」と「ビックデータ活用」というビジネスモデルの基礎を築いたと思います。

 

3.11で被災したペットをみて「何かしなくては」と思った

――なるほど。ビックデータを扱う中で人の医療から、どのようにして「ペット」へ行き着かれたのでしょうか?

堀氏:ペットに注目し始めたのは、2011年3月11日の東日本大震災がきっかけです。

同じ年の1月に、先ほどの会社を売却しまして、当時はいわゆる無職でした。

充電期間のつもりが、毎日のように被災地の報道がなされ、置き去りにされたペットを多く目にしました。また、避難所でペットを受け入れることの難しさや、保健所で殺処分されるという厳しい現実も見て、ペットを社会問題として認識するようになりました。

 

――報道ではどうしても人にフォーカスされがちでしたが、被災したペットたちの問題も大きかったですよね。

堀氏:そうなんです。僕自身も犬を飼っているので、胸が痛かったですね。

そこから次第に動物愛護に貢献できる仕事をしたいと思うようになっていき、動物愛護セミナーへの参加やボランティア団体の手伝いなどを通じて、ペット関連の取り組みを始めました。

その中で動物愛護を支援するウェブサイトを立ち上げるべくクラウドファンディングを実施しまして、そのことをきっかけに2012年には、ペットサロン事業を展開するために自己資本で株式会社ぺっとぼーどを創業しました。

 

――それが現在の株式会社ハチたまですか?

堀氏:いえ、こちらの会社は、ペットのトリミングをするサロン店舗を運営する会社でして、ハチたまとは別物です。

このサロンでお客様とお話する中で、ペットの健康相談が増えていったので、オンラインでペットの健康サポートを行うべく、今度は2015年に株式会社ペットボードヘルスケアを設立しました。それが現在の弊社です。

その頃から「IoT×ヘルスケア」をテーマにして、獣医師の先生へTV電話相談できる仕組みや、月額500円でレンタル可能なカメラ付き自動給餌器などを提供していました。

データがうまく集まる仕組みを作りたかったのですが、TV電話相談事業は無料から有料へ価格プラン移行すると相談がこなくなり、自動給餌器は飼い主が旅行などでペットのお世話をできない非日常に使用されることがほとんどだったので、どちらもデータ収集の目的が果たせませんでした。

結果いずれも事業としては失敗で、一時期は社員が私だけになったことすらありました。

このままではマズイ、ということで大幅に方向転換した結果、現在の「toletta」開発に舵を切りました。またそれに併せて、2017年11月22日(ペットに感謝する日)に、社名を「株式会社ハチたま」へ変更して今に至ります。

 

トイレの掃除機能よりも、ねこの健康を重視するという方向転換

――ドラマのような紆余曲折ですね。なぜ会社名を「ハチたま」にされたのでしょうか?

堀氏:犬といえば「ハチ」で、ねこといえば「たま」ですよね。

今は犬関連事業は行なっていませんが、犬とねこをサポートしたいという当初の思いがあって、この名前にしました。

 

――なるほど。その中で、事業が「トイレ」と「ねこ」に行き着いたのはどのような経緯があったのですか?

堀氏:新たに新規事業をゼロベースで考えようと、社内メンバー全員でアイデアソンをやりました。テーマは「ペット」×「IT」。広いテーマなので、色々な企画が出まして、その中に「ねこ用トイレ」の企画がありました。

ねこを飼育しているメンバーが多く、最も事業化の人気が高いアイデアだったので、そのままこれを新規事業として進めることになりました。

 

――ここで「ねこ×トイレ」の構想が出てこられたんですね。

堀氏:そうです。でも当初は今と異なり、自動清掃装置付きのトイレに取り組んでいました。その名の通り、トイレ内の排泄物を自動清掃してくれる機能で、すでにアメリカでヒットしていたので、市場性としても見込めたんです。

でも実際にアメリカ製品を取り寄せて検証と研究を繰り返すと、徐々に日本の住環境には適応しないものであることがわかってきました。

というのも、自動清掃とは言え完全にきれいな状態に清掃はできないんですよね。しかも海外に比べて住居面積が狭い日本の住環境では、トイレの臭いが充満しやすいんです。

 

――言われてみると、容易に想像がつきますね。

堀氏:清掃は本当に必要な機能なのかをメンバー含め十分に話し合い、その結果として、掃除よりも”ねこの健康”に重きを置いた製品にしよう!という方向性にシフトしました。

そうして出来上がっていったのが「toletta」です。

tolettaは、ねこの尿の回数や量、体重、トイレに入った時間を自動で計測し、飼い主のスマホアプリでチェック・管理することができる、ねこ専用のIoTトイレです。

(スマホアプリの画面イメージ)

 

データが集まることが最優先事項

――なぜ尿の回数や量を計測する必要があるのでしょうか?

堀氏:ねこの体調管理には、「尿のデータ」が非常に重要であるという前提があります。

もともとねこは、乾燥と暑さの厳しい北アフリカの砂漠出身の生き物です。水が少ない環境で生きるために少量の水分を最大限利用する必要があり、結果として尿が濃くなるという体の構造をしています。そのため、泌尿器系の疾患にかかりやすいという特性があります。

最も症状が表れる尿の量や体重の様子を毎日記録して観察することで、腎不全 、尿結石、膀胱炎など、ねこがかかりやすい病気の兆候を見つけやすくし、病気の予防や診断に欠かせない情報にすることができると考えました。

 

――なるほど。でも、ねこが便をしてしまうと、その分の重さが尿の重さとして誤って計上されてしまいませんか?

堀氏:日本製トイレだからこそ、そのポイントを解決できました。海外製と日本製とでは、トイレの内部構造がそもそも異なるのです。

海外製トイレが尿と便を分けない一層型であるのに対し、日本製トイレは二層型です(※注)

便を受ける上部と尿を受ける下部がレイヤーを隔てて分かれているので、トイレの臭いを抑えることができるように工夫されています。

この構造をそのまま活かして、尿の重量を計測する仕組みにし、さらに体重も併せて計測できるようにセンサーを実装しました。このセンサーによって、ねこがトイレをするたびに、尿量・尿回数と体重を記録することが可能となりました。

そして飼い主は、それらの情報をスマホアプリで、いつでも確認することができます。

 

――これなら、ねこがいつも通りの生活をするだけで、膨大なトイレデータが集まりますね。

堀氏:はい。集まった「ねこのビッグデータ」を活用して、病気の予防含め、様々なことに役立てていきたいと思っています。

まずはデータが集まることが最優先事項なので、初期費用0円・月額サービス使用料500円という価格設定でtolettaをご提供しています。

(※注)
ここで言う「二層型」とは、一般的に「システムトイレ」と表現されるもので、日本では広く普及しています。日本のすべての家庭でこの二層型トイレを使用しているわけではなく、一層型のトイレも使用されています。

 

》後編記事へつづく

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