江ノ島から世界へ!ねこの、ねこによる、ねこのためのIoTトイレ「toletta」《後編》

インタビュー

 愛猫家から絶大な期待を寄せられる、ねこ専用IoTトイレ「toletta」(トレッタ)。尿量や体重などの情報をスマホでいつでも確認できるので、病気の予防含め、ねこの健康管理改善が大いに期待できる。

 2018年8月8日の一般販売後、同年9月6日の時点で受注台数が早くも1,000台を突破している。

 前編では、tolettaを開発する株式会社ハチたま 代表取締役 堀宏治(ほり こうじ)氏に、起業の経緯とtolettaの仕組みについて伺った。

 後編でも引き続き同氏に、tolettaの機能や今後のお取組について教えていただいた。

》前編記事はこちら

 

獣医学にも間違いなく貢献できる

――tolettaのデータは医学的な見地でも面白いものではと感じました。その辺りはいかがでしょうか?

堀宏治(以下、堀氏):おっしゃる通り、獣医学にも間違いなく貢献できると考えています。医療業界ですと普通は、新しいサービスや機械が紹介されると、一定の割合で嫌がられるものでした。でもこのtolettaは、今までお話した獣医師の先生全員に受け入れられています。今までこんなに良い反応をしていただけたことはありませんでした。

この製品自体、獣医師監修のもとで開発されているので、きちんと獣医学にもとづいた設計になっているからだと自負しています。

獣医学に基づくアドバイスやtolettaのテストにご協力いただいたキャット・フレンドリー・クリニック ゴールド認定の「ACプラザ苅谷動物病院 葛西橋動物病院」院長 榎本先生(左)と堀氏(右)

 

――獣医師の先生と一緒に開発されたんですね!それぞれの機能に対して説得力が増しますね。

堀氏:また、tolettaで取れるデータについても、貴重なものと認識いただけています。

もともと獣医学会では、何か発表する際の症例数が少なく、中でもねこは特に症例数が少ない動物です。

飼いねこであったとしても、常に飼い主とともに家の中で過ごしているわけではなく、日常のほとんどを外で過ごしているようなケースもあります。

ですのでほかのペットに比べると、飼いねこを動物病院へ診察につれてくる飼い主は相対的に少なく、診療データが圧倒的に少ないのです。

 

――なるほど。症例数が少ない理由は、ねこのペットとしての特性が背景にあったのですね。

堀氏:それに加えて、ねこは体調不良の症状をなかなか出さない動物なので、実際の診察時に決定的な症状を表すことが少ないんです。

それ故に、診察時の飼い主の記憶と主観で症状が伝えられることが多く、どうしても客観性に欠けてしまっていました。

ですがtolettaを使用することで、診察の正確性を相当高めることができます。

毎日のトイレのたびに尿と体重を計測したデータがスマホアプリと自動連携するので、動物病院で診察する際に、飼い主から獣医師へスマホから情報提供するだけで、獣医師はねこの体の状態を正確に把握できます。

tolettaを活用することで、獣医学会での症例数が増えることはもちろん、ねこの寿命にも大きな影響を与えることができると考えております。

 

繊細なねこに配慮したトイレ設計

――忙しい現代人に代わってねこの体調を自動管理し、診察精度に貢献できるというのは素晴らしいですね。

堀氏:はい。さらに、従来のトイレの形を踏襲していることも、ねこに優しい設計です。

ねこは見かけによらずとてもストレスを感じやすい動物なので、データを取るために以前と異なるトイレ環境になると、かえってストレスを感じる原因になる恐れがあります。

 

――結構繊細なんですね。

堀氏:そうなんです。その点tolettaは、トイレの高さや大きさなどのサイズ感が一般製品と同じでして、且つ市販のシステムトイレ用の砂を使用できます。

また、世界初の「ねこ顔認識カメラ」機能もストレスフリーに一役買っています。

トイレの内部にカメラを設置し、ねこの個体識別を行う機能です。

tolettaの内部に設置されたカメラ

 

堀氏:多頭飼育されているご家庭の場合、ねこを識別してそれぞれのトイレの状況を管理する必要があります。ねこを識別するために、IDタグ付き首輪等を装着することが多いようです。しかしこの首輪の存在が、ねこにとってストレスの原因になるケースもあり、現にスタッフが飼っているねこにも首輪が苦手なねこが多いです。

そういった事情もあり、ねこに負担を掛けたくないという思いから、tolettaは画像認識による個体識別機能を搭載しました。カメラによる画像判別が可能なので、首輪などの、ねこにとっての”異物”を付けずに済みます。

tolettaによる個体識別のイメージ

 

――これは、ねこがトイレに入ってきた時点で写真を撮って、それを機械学習させているということでしょうか?

堀氏:その通りです。

飼育しているねこの顔画像をtolettaに学習させることで、ねこの顔をそれぞれ判別させることに成功しました。

 

ねこと暮らせるオフィスを求めて江ノ島に

オフィスから望める浜辺景色

――tolettaはねこフレンドリーを追求した設計なのですね。

堀氏:弊社最大のお客様であり、ユーザーとなるのはねこです。ねこを幸せにするための努力は惜しみません。

実は弊社には社員の一員として、ねこ社員、役職としてはCTO(Chief “Toilet” Officer)も在籍しています。二匹とも元保護ねこです。

CTOという役職の通り、業務内容は宣伝・広告塔・テスト協力ですね。CTOたちにはとてもお世話になっています。

ちなみに彼らの健康状態チェックは、弊社が契約している獣医師先生に担当いただいています。

CTOのうーちゃん(手前)とちゃま(後方)

 

――CTOって、Chief Technical Officerが一般的かと思いますが、Tが”Toilet”というのがユニークですね!CTOはいつも、どちらにお住いなのでしょうか?

堀氏:オフィスです!日中は一緒に働いてくれて、夜は静かに寝てくれています。

ねこ社員が快適に暮らせるオフィスを探し求めて、ついに今年の9月に江ノ島に移しました。

江ノ島は”ねこの島”としても有名ですからね。

 

――CTOのためにオフィスを移されたのですね。内装もねこフレンドリーにこだわっていらっしゃるのでしょうか?

堀氏:はい、ワンフロアのオフィス内にねこが遊べる遊具をたくさんつくりました。

ねこのために工夫を凝らしたオフィスです!

天井の渡り橋やキャットタワー、爪とぎ柱はスタッフ自ら柱にロープを巻いて、CTOのための環境作りをしましたね。

 

――社員の方はねこが大好きな人たちばかりなのですね!toletta一般発売前に、「tolettaニャンバサダー」さん(※)を募集されていましたね。どういった経緯で募集されたのですか?

※tolettaニャンバサダー:ねこの健康大使として、toletaを使って愛猫の健康管理をする様子を積極的に発信したり、ハチたまスタッフと協力してねこを幸せにするためのさまざまな活動を行う。

堀氏:ニャンバサダーの方々には、ユーザー視点でtolettaを使っていただき、フィードバックをもらってサービスの向上を図るなど、私たちと一緒になってtolettaを育てていただきたいと考えています。tolettaがニャンバサダーさんに満足いただければ、おすすめできる製品だということでSNSの発信力を生かして多くのねこ飼いさんにtolettaを広めてくれるでしょう。

tolettaのコアユーザー層は30〜40代の女性の方ですが、ねこ愛が強いが故に商品や購入に対して慎重な姿勢でいらっしゃいます。

僕たち提供者が薦めるとどうしても宣伝臭が強くなってしまいますが、ユーザーと同じ目線でねこ好きのニャンバサダーが純粋にtolettaの魅力を発信していただくことで、より多くのねこ好きの方にtolettaが届くと考えています。

募集に際して一切の宣伝活動はしませんでしたが、実に443名の方にご応募いただけました!

 

――宣伝広告ゼロで400を超える応募数はすごいですね!どういった選考をされたのでしょうか?

堀氏:応募にあたって条件フリーの志望動機を書いていただきました。すべて目を通させていただいて、あまりのねこ愛に涙が止まりませんでした。

応募者全員をニャンバサダーに任命させていただきたかったのですが、そういうわけにもいかないので、志望動機の他にSNSなども拝見して、発信力という観点から最終的には9名に絞らせていただきました。

ニャンバサダーさんたちの活躍もあり、今年の8月8日(世界ねこの日)にめでたくtolettaの発売日を迎えることができました。

実は当日、システムトラブルが発生しまして、0時からの注文ページリリースに間に合わせることができませんでした。ようやくトラブルが解消し、オープンできたのが朝の4時だったのですが、その時間のオープンのも関わらず、ぽつぽつと注文が入りはじめ、初日だけで約100台の受注を受けることができました。

tolettaの発売をずっと待ってくれている方がいらっしゃったことを、本当に嬉しく思いました。

 

メイド・イン・ジャパンで世界中のねこを幸せに

――tolettaはどのように作られているのでしょうか?

堀氏:3Dプリンターで試作機を作り、形が固まってからは国内で量産体制に移行しています。試作機は現在までで、実に5世代作ってきました。

tolettaほどの大きなものを印刷できる3Dプリンターは、日本でも数が限られているので大変でした。

 

――量産は海外ではなく、国内なのですね。

堀氏:できる限りメイドインジャパンにこだわりたく、金型の作成のみ中国で行っていますが、それ以外は日本で行う体制を敷いています。

これまでは多くのものやサービスが海外から輸入され日本で広まる構図でしたが、日本発信の面白いものを海外に向けて広めていきたいという気持ちがありますね。

 

――すでに海外展開にも踏み出されていますが、今後のお取り組みについても教えてください。

堀氏:すでに今アメリカのピッツバーグに一拠点あります。今後は中国にも拠点を持つ予定です。

どちらも日本と同等以上のペット大国ですから、十分に需要があるはずです。

健康に悩みを抱えているねこは日本だけではなく、世界中にいます。大切なねこを失った悲しみの経験も世界共通です。

なので、世界中のねこを幸せにしていきたいですね。

 

――最後に、Love Tech Mediaの読者に向けてメッセージをお願いします。

堀氏:人間と同じで、ねこも病気になる前に予防することがとても大切です。

もしねこを飼われているならば、ぜひtolettaを使用してください。

世界中のtolettaで集まったデータが、必ずあなたのねこの助けになるはずです。

tolettaでねこを幸せにして、幸せなねこライフを送りましょう!

 

編集後記

東京都心から約1時間半かけて伺ったハチたまさんの江ノ島本社オフィスは、まさにねこにとって、そして人間にとっても素敵な環境でした。

 

従業員の皆様がねこの幸せを願って仕事をされており、tolettaにはその思いが機能としてたくさん詰まっていました。

 

ねこ社員であるCTOの2匹は、残念ながら顔を見せてはくれませんでしたが、きっと新しく移転したオフィスでは、日々のびのびと過ごしているのでしょう。

 

tolettaの量産と購入者への発送はこれからが山場を迎えられるとのことで、引き続き、Love Tech Mediaではその後の経過を追って参りたいと思います。

 

『toletta』詳細についてはこちらをご覧ください

 

本記事のインタビュイー

堀宏治(ほり こうじ)

株式会社ハチたま 代表取締役

病院システム開発や病院経営コンサルティングの経験を生かし、ペットのヘルスケアを実現するべく2015年に株式会社ハチたまの前進となる会社を創業。現在はねこ愛溢れるメンバーやねこ社員2頭に囲まれて、tolettaの開発に取り組んでいる。

LoveTechMedia編集部

「”愛”に寄りテクノロジー」という切り口で、社会課題を中心に、人々をエンパワメントするようなサービスやプロダクトを発信しています。

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