記事の要点
・四天王寺大学教育学部所属の研究グループが、大学生における自閉スペクトラム症(ASD)とオンラインコミュニケーションに関する検証を実施。
・調査の結果、ASD特性が高いほどLINEの友だちの数が少なく、Instagramを利用する時間が短い関係性があることが分かった。
・また、ASD特性が高いほど、LINEのコミュニケーションが苦手であるという関連があり、さらに、LINEのコミュニケーションは、大学生における孤独感に関連していることも明らかになった。
LoveTechポイント
人口の約1%の有病率と言われているASD者にとってのオフラインコミュニケーションの困難さや、それに伴う孤独感が明らかになりました。
SNSの普及や、コロナ禍によってデジタルへの舵取りがトレンドとなりつつある今、コミュニケーションの多様性を維持拡大するアプローチや、LoveTechなあり方の必要性を感じます。
編集部コメント
四天王寺大学教育学部に所属する鈴木浩太講師らの研究グループが、大学生における自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、以下:ASD)とSNS等のオンラインコミュニケーションに関する検証を行った。
ASDとは、これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの色々な名称で呼ばれていた症例群を、2013年のアメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」の発表以降、まとめて表現するようになったもの(e-ヘルスネットより)。多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると約1%(0.4〜1.2%)の有病率と言われている。
このASD、社会的コミュニケーションの困難さやこだわり、興味の限局等が主症状として知られており、ASDではない者も「ASD特性」をもつことが分かっている。
先行研究では、ASD者は例えば「大学」において孤独を感じる傾向があり、その孤独感は精神的健康度の低下につながると報告されている(※)。故に、大学生におけるASD者の孤独感メカニズムを理解することが期待されており、今回のSNSコミュニケーションに関する研究は、それに向けた取り組みの一環ということになる。
※Hedley, Uljarevic, Wilmot, Richdale, & Dissanayake, 2018
四天王寺大学で行われた複数の調査の結果によると、まず、ASD特性が高いほどLINEの友だちの数が少なく、Instagramを利用する時間が短い関係性があることが分かった。また、同様にASD特性が高いほど、LINEのコミュニケーションが苦手であるという関連があり、さらに、LINEのコミュニケーションは、大学生における孤独感に関連していることも明らかになったという。
調査の一環で、ASD特性がどのようにLINEの利用や、孤独感に作用するかどうかも検証をされた(本調査の対象は大学生358名)。
ASDの特性は「切り替えの難しさ」、「コミュニケーションの難しさ」、「低い社会スキル」、「細部へのこだわり」、「想像力の欠如」に分けることができる。これらの特性と、LINE利用の不適切さの構成要素である「低いリテラシー」、「消極的な利用」、「低い応答性」、「配慮のなさ」、「グループの活動への消極性」の関係性が検証されたところ(下図)、切り替えの難しさとコミュニケーションの難しさは、低いリテラシーと関連し、さらに、低いリテラシーは、孤独感と関連していた。また、低い社会スキルは、消極的な利用と関連し、さらに消極的な利用は、孤独感と関連していたことが明らかになった。
SNSの普及により、現在は対面コミュニケーションだけでなく、オンラインコミュニケーションが盛んな時代となっている。オンラインコミュニケーションのRich-get-Richer(豊かな人がより豊かになる)仮説が提唱するように、オフラインでの友人関係が豊かな人は、オンラインもうまく活用し、友人関係をより豊かにすると仮定されている。SNSを通して、共通の趣味やライフスタイルを発見して友人との距離が近くなった経験を持つ方も少なくないだろう。
そのような状況に加えて、今回のコロナ禍により、これまでオフラインで行われていたコミュニケーションもオンラインに置き換わるケースが増えている。
ASD特性が高いほど、オンラインでのやりとりに困難を感じて孤独を深めている人がいることを知り、対面コミュニケーションだけでなく、オンラインコミュニケーションも考慮したASD者への支援が今後必要になっていくだろう。
昨今のDXトレンドを前提に急速に進むデジタイゼーションも、取り残されやすい人がいることを念頭に置き、オンラインとオフラインのバランスを慎重に見極めながら、都度判断をしていくことが重要なのではないだろうか。
以下、リリース内容となります。