ゲームできないスマホ「SUNBLAZE PHONE」を人が欲しがる理由 〜アメグミがめざす最低限幸福社会《前編》

インタビュー

「最大多数最大幸福」ではなく「全員最低限幸福」

この世界は無限に地獄である

 スマホ向けOSを開発する株式会社アメグミによる、こんなタイトルのブログ記事を見たのは、もう1年ほど前だっただろうか。

 “最大多数最大幸福”を基本原理とする今の社会システムでは、多数決に勝てない少数派の人々、いわゆる社会的弱者がどうしても発生してしまい、この人たちが構造的に貧困層へと落ちていく。この中からテロリストや犯罪者が一定数生まれ、多数派を攻撃することで、その被害者がまた社会的弱者へと落ちていき、そうして貧困は巡りめぐっていく。そんな、多くの人が目を背けてきた「地獄が生まれるエコシステム」を説いた内容であった(該当記事はこちら)。

 闇を感じる切り口に結構な衝撃を受けたものだが、それから1年も経たないうちに、かの映画『ジョーカー』ブームが到来する。

映画『ジョーカー』公式ホームページ

 貧困、格差、雇用環境の悪化、未熟な社会保障制度、助けのない介護、障害への無理解、虐待、ネグレクト、差別etc…。行き過ぎたデジタル産業主義が世界の分断を助長し、また多様な国民ニーズに対応しきれなくなった行政府の行き詰まりが、結果として一人の心優しい男性に“負の現象”として集中していき、ジョーカーへと昇華されていく。そんな現代社会を的確に描いた作品として、世界中の人々から共感され、大いに注目された。R指定作品としては初の、世界興行収入10億ドルを突破しているというから驚きだ。

 どうやら我が国もご多分に洩れず、「地獄の存在」に気づき始めたらしい。いや、以前から気がついてはいたのだが、いよいよ無視できない存在へと肥大し可視化され、本格的に認知されてきたようだ。そういえば、ちょうど10年前に公開された映画『ハゲタカ』作中でも、主役の一人である玉山鉄二氏が「この世は生ぬるい地獄」だなんて台詞を言ってたっけ。

「きっと多くの人はとても当たり前な幸せを求めています。例えば親子で楽しい夕ご飯、友達との休日の遊びなどです。僕はシンプルにそれをスマホからできるようにするだけです。」

 話を戻すが、冒頭の記事はこのように締めくくられている。他の記事も読み進めると、アメグミではこれを解決するべく「全員最低限幸福」をミッションに掲げているという。

 まとめると、アメグミは「地球市民全員を最低限幸福にするためのスマホ開発スタートアップ」というわけだ。面白い。全く予想ができない。

 LoveTech Mediaでは、2020年1発目の愛に寄り添うテクノロジー記事として、アメグミの起こそうとする「“最低限”幸福革命」について、前中後編に渡ってお伝えする。

 前編では現在の事業内容について、中編ではそこに至るまでの経緯や原体験について、そして後編では未来に向けた展望について、それぞれ代表取締役CEOの常盤瑛祐氏(以下、トキワ氏)にお話を伺った。

今、企業に最適なスマートフォンやモバイルが存在しない

株式会社アメグミ 代表取締役CEO 常盤瑛祐氏

 アメグミが開発しているのは、独自のスマホ用OS「SUNBLAZE OS(サンブレイズ オーエス)(※)を搭載したモバイル端末「SUNBLAZE PHONE」。「最低3年間はサクサクと動作し、検索やSNSなどの一部アプリのみ使うことを想定したグローバル基準の企業向けスマホ」だ。

 現在、インド、ブラジル、ミャンマー、ルワンダにて、最低限必要なアプリがプリインストールされたSUNBLAZE PHONEの導入実証が現在進行形で進められており、来年度には日本での展開も準備中だという。

※OS:Operating System(オペレーティング システム)の略で、システム筐体を動かすための基盤ソフトウェアのこと。WindowsやmacOS、Unix、Linuxといった主にコンピューター筐体向けのものから、iOSやAndroidといったスマホ筐体向けのものまで幅広く存在する

 なぜそこに着目されたのかという話だが、まずは、世界のモバイル端末市場を俯瞰して理解する必要がある。

 我が国ではフィーチャーフォン、いわゆるガラケー利用は縮小の一途をたどり、大手キャリアによる宣伝広告の甲斐もあって順次スマホへの切り替わりが進んでいる。一方で例えばインドでは、スマホユーザー数はこの4年間でのびたとはいえ、まだ100人中26.2人に止まっている状況だ。

出典:Digital India(McKinsey Report)p9

 インドはインディア・スタックをはじめ、デジタライゼーションが加速している国。国民の多くがスマホに切り替わっても良いものだが、トキワ氏曰く、そこには大きな2つの阻害要因があるという。

「一つは、彼らがずっと働かねばならない環境にいるからです。例えばガラケーユーザーの代表例が農家なのですが、彼らは家族のために十数時間とか働かねばなりません。長い間働くから、効率的に稼ぐ方法を知る時間もなく、スマホを仕事のために使う方法も知り得ない、ということです。それに、スマートフォンを買う余裕もありません。

もう一つは、十分なスマホリテラシーがないこと。スマホ=ゲームといったイメージが先行し、それ以外に広がる無限の可能性を、彼らは知り得ないのです。

 農業を例に考えると、上述のような農家がいる一方で、各農家を管理する企業サイドにとっては、マイクロファイナンスやeラーニングの受講等を実現し、かつ農業関連データの収集と業務効率を実現するスマホの普及が、最も望ましい。

 だが、既存のスマホを見ると、例えばiPhoneはどんどんと高額になっていくし、一方でAndroidはセキュリティが甘く動作も不安定ときている。そもそも、低価格のスマホは動作がすぐに重たくなってしまう。

 実際にトキワ氏がインドで現地調査をした際には、約300人へのヒアリングの結果、5人に1人ほどの割合で動作の重さに不満を持っている人がいたという。

「今、企業サイドに最適なモバイル端末がない、という状況です。だからこそ僕は、この問題を解決するローエンドモデルを開発しています。

短期買い替えモデルではない「SUNBLAZE PHONE」

 そもそも、なぜAndroidは動作が不安定になるかというと、大きくは2つあるという。

「一つは、GooglePlayの審査基準が結構甘いからです。だから良質でないアプリもたくさん入ってきてしまいます。

もう一つは、OSアップデートのメーカー依存です。基本的にOSはメーカー管理で行われており、それは彼らのビジネスモデルに直結しています。つまり、メーカーからしたら、何回も買い換えて欲しいんです。

出典:アメグミ提供資料

 スマホの値段内訳を簡略的に例示すると上図の通り(数値はサンプル)。メーカー利益(Manufacturer Profit)を増やすには、コストや流通マージンを下げるか、売価そのものを上げるか、それとも数を売るかのいずれかとなる。安いAndroid端末では前者2つの戦略は取りづらく、結果として短期買い替えモデルを採用しているというわけだ。メーカーにとっては当たり前の話である。

 そこに対して、アメグミが提供するのが「SUNBLAZE PHONE」。同社の開発するOSとハード(筐体)がセットになったスマホであり、35米ドル(2019.12.30の為替計算で約3,800円)という価格で提供されるにも関わらず、3年間はOSの動作保証をしてくれるという。

出典:アメグミ提供資料

「まず僕たちは、SUNBLAZE独自のアプリストアを構築します。そこでの審査はGoogle Playよりも厳しく、セキュリティ的に問題がないことを前提に、安い端末でも処理できる容量の軽い仕事用アプリを提供していきます。初期段階では“仕事特化のアプリストア”、と考えていただいて結構です。

次にOSですが、僕たちはセキュリティアップデート(※)だけ実施します。また、SUNBLAZE OSはAndroidベースで開発されているので、Androidアプリがきちんと動作するという点で、心配はありません。

そして、スタートアップにとって最大の試練であるハード開発ですが、僕たちは中国・深センにある受託生産会社にてOEM生産しているので、自分たちで一から開発する必要がありません。

※セキュリティアップデート:システムの脆弱性に対処するセキュリティパッチ適用のための更新処理

「アプリのプリインストール」が幸せへの第一歩

 先述の通り、SUNBLAZE PHONEのターゲットは企業向けであり、企業からの発注を受けてからOEM生産という流れなので、ハードメーカー特有の“在庫リスク”がなくなる。

 また各企業への導入が、結果としてその従業員等にSUNBLAZE PHONEが配布されることに繋がるので、アメグミとしてはエンドユーザーへのアクセスも容易になるというわけだ。

「SUNBLAZE PHONEの売価35米ドルはほぼ原価です。なので、僕たちはそこで利益をあげません。

 ではどこで利益を上げるかというと、大きく2つあるという。

 まず一つはアプリストア。ここは例えばApp StoreやGoogle Playと同様、ストア手数料を回収するモデルであるが、その料率を圧倒的に低くするという。一般的なストア料率が30%近くであるのに対し、SUNBLAZEストアでは10%程度のみ課す予定だと、トキワ氏は述べている。

 もう一つはレンタルモデル。これは主に日本をはじめとする先進国での展開を想定したものであり、1台あたり月額数百円程度で企業に貸し出し、タクシーの決済端末やレストランのオーダー端末等に使ってもらうという。例えば月額費用を500円と設定した場合、約9ヶ月で原価回収することができるので、10ヶ月目以降はまるまる利益となる算段だ。

 企業からしたら、月額500円の端末で管理から教育までをワンストップで賄えるのであれば、安いものである。これは結構破壊力のある話で、日本のみならず、世界中における既存デジタル端末市場をリプレイスする可能性すら秘めていると言えるだろう。ちなみに、新興国においては直近で、農家が使う想定だという。

「僕たちの事業、最大のポイントは『アプリのプリインストール』にあります。安いという理由で提供されたスマホに、気づいたらマイクロファイナンスやeラーニングといったアプリが入っている。これによって、例えスマホで調べるリテラシーがない人であっても、生活を劇的に向上できる可能性があります。

かつての僕も、スマホを買ってSNSを使い始めたことで、世界が開けました。

 このように述べるトキワ氏。彼がここまで、地球規模の社会的包摂システムの構築を目指すようになった背景は、一体なんなのだろうか。次章で紐解いていく。

 

》中編記事につづく

株式会社アメグミについて

小さいころの地獄のような家庭環境を原体験に同じような家庭の人たちを支援することをミッションに掲げて2016年10月に起業。新興国(インドやインドネシア、カンボジアなど)のブルーカラー労働者が利用する安価・長持ち・最低限機能のスマートフォン向けのOSを開発。深センのOEM/ODMと共同でスマートフォンを生産し、企業向け(社員や契約先)に販売する。これまでデライトベンチャーズや、個人投資家の山本真司氏、川田尚吾氏、本田謙氏、宮田昇始氏、他数名から出資を受けている。
問い合わせ 株式会社アメグミ 常盤
Email: eisuke.tokiwa[at]amegumi.com
Webサイト: https://www.sunblaze.jp/
採用情報: https://note.mu/sunblaze/n/n813d6a50dfc5

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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