虐待と貧困を経て、「幸せになる方法」を学んだ。 〜アメグミがめざす最低限幸福社会《中編》

インタビュー

 スマホ向け独自OS「SUNBLAZE OS(サンブレイズ オーエス)」の開発と、それを搭載したモバイル端末「SUNBLAZE PHONE」の提供を進める株式会社アメグミ。

 代表取締役CEOである常盤瑛祐氏(以下、トキワ氏)へのインタビュー中編では、同氏が地球規模の社会的包摂システムの構築を目指すようになった背景について、語ってもらった。

》前編記事はこちら

おもちゃを転売して小遣い稼ぎをしていた

--まずはアメグミ起業までの経緯を教えてください。

トキワ氏:いきなりショッキングな話ですが、僕はもともと虐待と相対的貧困の家庭で育ちました。小さい頃から親を恨み続け、お金がないので自分のおもちゃを転売して小遣い稼ぎをしていたりしました。中学になると月に3万円くらい稼いで、頑張って生きていました。

 

--今の素敵な笑顔からは想像もつかない、ハードなお話です。

トキワ氏:転機が訪れたのは、10年前に発売されたiPhoneです。無料で通話できるSkypeを目的に購入したのですが、そこにプリインストールされていたGoogleアプリで色々な検索をしたり、Wikipediaを辿って学びを深めたり、その内容をミクシィやFacebookに投稿して新しい人との出会いに繋がったりと、とにかく凄い転機でした。スマホでかなり救われたのが、僕の原体験になります。

そして、そこからの10年、ひたすら社会問題の分析を行ってきました。

読書をしたり、大学に通ってデザインの勉強をしたり、またはアンケートを作って聞き込みに行ったりと、たくさんのインプットをしてきました。またアウトプットとしては、国際条約や国内法への政策提言、地方でのアプリ開発、アート活動の後、スタートアップ3社でのデータ分析業務を経て、現在に至ります。

 

--色々とやっていらっしゃいますね。政策提言は具体的にどんなことをされていたのですか?

トキワ氏:国際条約では、2016年にできる事になる「水銀に関する水俣条約」への政策提言です。通称「水俣条約」と言われ、水銀の製造と輸出入を規制するものです。2010年〜2011年頃のことで、当時は環境省の人と喧嘩とかもしながら進めていました。

その後、国際条約に限界を感じて始めたのが、国内法への政策提言です。ネット選挙解禁を目指す「One Voice キャンペーン」というもので、選挙の立候補者がSNSを使えるように、チーム活動をしていました。

でも結局、政治の根本って「資金(税金)の分配」、つまりは資金調達であって何も生み出していないと分かってからは、離れましたね。

データ分析で社会貢献できることを知り、起業を決意

--スタートアップへの転職は何がきっかけで、そこではどんなことをされていたのですか? 

トキワ氏:OneVoiceキャンペーンを行っていた頃、米国ファンドレイジング大会に参加する機会があって、そこで米国のNPOは完全にビジネスだということがわかりました。社会問題を解決するにはビジネスを勉強せねば!と思い、今度はスタートアップに入りました。

最初はTokyo Otaku Modeでデータを使ったマーケティングというものを知り、もっとでかいデータを見たいと思って、Qubitalというヤフーとブレインパッドの合弁会社に転職しました。ヤフーのビッグデータに触れた後に、もっとデータ分析を学びたいと思って、弁護士ドットコムで半年だけ働きました。

これと同時期に、ケニアでGPSと電話履歴を使って与信スコアを付けマイクロファイナンスを実施する、アメリカのTalaという会社のことを、TEDを通じて知る事になります。「データ分析で社会貢献ができる」ということを知り、そこで初めて、起業を目指すことになりました。

3社を通じて感じたことですが、WEB/アプリビジネスって、どうしたってスマホのユーザー数に依存するじゃないですか。アプリのマーケティングやデータの限界というものを知って、今度はもっとスケールするGAFA級のビジネスをやろうと決意して、アメグミを立ち上げました。僕自身もGAFAに助けられた、ということもありますからね。

データが集まるビジネスをやろうと思い、インド(※)に行って車・バイク・モバイル・求人サイト・SNSの5つについて現地課題調査をしたところ、モバイルに課題があったので、結果としてOSを作る事になったというワケです。これがだいたい、2017年2月くらいの話です。

※トキワ氏が最初にインド市場を見据えた理由については、こちらの記事をご覧いただきたい。
https://www.wantedly.com/companies/amegumi2/post_articles/138895

 

--アメグミとSUNBLAZEって、それぞれどういう意味なんですか?

トキワ氏:まずアメグミは、「雨の恵み」です。全動植物が必要なのは雨ということで、全人類に必要なものを作る、という意味で命名しました。

SUNBLAZEですが、BLAZEには2つの意味があります。一つは「燃え盛る」という意味で、太陽のような労働者の情熱を表しています。もう一つ「切り開く」という意味もあって、スマホを使って自分の運命を切り開け、という意味も込められています。英語では副題で“Blaze Your New Destiny.”と表記しています。

加害者も、実は被害者

--iPhoneを手にされてから10年、一貫して社会問題の解決を図っていらっしゃいますが、そんなトキワさんから見て、社会問題の根本的な原因って何だとお考えですか?

トキワ氏:結局、人間は理性が不完全なのに、理性に頼る社会制度になっているからです。目的と手段に齟齬があるので、社会問題が自動的に発生しています。

「理性に頼る」とは例えば、人に自由を与えれば頑張って良い政治をするというポジティブな行動原理のもとで民主主義や資本主義を回してくれる、といった考えのことです。

でも実際はそうなっていません。特に貧困層は理性的になることが難しく、親からの愛情不足や劣等感などで精神的に安定せず、勉強や仕事でも成果を出しづらい。僕の家庭もそうだったので、よく分かります。

これをマトリックスで表現すると、こちらになります。

出典:アメグミ提供資料

トキワ氏:お金を持っている人は、各企業よりサービスを購入して自分の課題を解決することができます。(上段2象限)

一方でお金を持っていなくても、多数決で勝てる人は、公共サービスやNPO、NGOなどから支援を受けることができます。(右下象限)

ただ、お金を持っていないし少数派です、という場合は放置されやすいです。(左下象限)

 

--放置されやすい層の代表例として、映画『ジョーカー』の主人公・アーサーをすぐに思い浮かべました。

トキワ氏:まさにそうだと思います。あとこちらが社会のマップになります。

出典:アメグミ提供資料

トキワ氏:被害者がいるということは、当然ながら加害者がいます。じゃあ加害者はどっから出てくるのかという話ですが、生まれた瞬間から加害者だったわけではなくて、発達障害や脳に病気を持っているケースなどもあって、それも何らかの原因で発生しているワケです。要は、加害者も被害者になっているんです。

さらには、本来的にはそこを守るべき管理者が、この負のサイクルを解決しきれず、結果として加害者となってしまう。そして、それを上位で決めているのが社会制度という、こういう循環が起こってしまっています。

ここをなんとかしなければならない、というのが、僕の強い問題意識です。

人の「幸せのなりかた」は、みんな最低限一緒

--アメグミでは「全員最低限幸福」がミッションとして掲げられています。トキワさんが考える「最低限幸福」とは何でしょうか?

トキワ氏:最低限、自分のやりたいことができる状態のことです。それを全員に対して実現することが、弊社のミッションです。

 

--なぜ「最低限」とついているのでしょうか?

トキワ氏:人の「幸せのなりかた」は、みんな最低限一緒だからです。最低限の上は、当然ながら多様な価値観があります。でも根底にあるものは人間関係や家族など、みんな一緒なんです。慶應義塾大学大学院の前野隆司教授も、「地位財」ではなく「非地位財」の方が幸せが長続きするとおっしゃっています。(※)

だから、そこを最低限幸せにしてあげることが、結果として暴力や犯罪をなくす事に繋がると考えています。

※地位財とは、金・モノ・地位など他人と比べられる財のこと。非地位財とは、環境に恵まれている幸せ、健康である幸せなどのほかに、心の要因による幸せが多く含まれている。特に前野氏は因子分析によって、心の要因による幸せを、「自己実現と成長」「つながりと感謝」「前向きと楽観」「独立とマイペース」という「4つの因子」に整理している。
詳細は以下記事をご参照。
https://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/opinion/detail29.html

 

--そのためにSUNBLAZE PHONEができることは、どんなことでしょうか?

トキワ氏:1番はアプリのプリインストールですね。

例えば農家を支援する農業関連アプリの横には、ヘルスケアアプリや遠隔医療アプリ、eラーニングアプリ、マイクロファイナンス用アプリなどが入っています。就農者が就労中は農業アプリを使いますし、仕事が休みの時は、子ども達がeラーニングアプリを使って勉強をする。病気になったとしたら、遠隔医療アプリで診断してもらう。資金調達が必要になったら、マイクロファイナンス用アプリを使う。そういうことです。

 

--なるほど。一方で、「それって行政など公的機関の仕事なのでは?」という意見もありそうなのですが、それについてはいかがでしょうか?

トキワ氏:行政にはできませんよ。SUNBLAZE PHONEのように、ユーザーについてリアルタイムでインタラクティブなデータを持っていない限りはできないです。もちろん、行政でも定期的な統計を取ってはいますが、データとして圧倒的に不十分です。

だから僕は公務員にはなりませんし、政治家への立候補とかも絶対にしないです。


 

 いよいよ後編では、トキワ氏が構想する「未来」について伺う。また併せて、現在進行している海外での展開事例についても、教えてもらった。

 

》後編記事につづく

株式会社アメグミについて

小さいころの地獄のような家庭環境を原体験に同じような家庭の人たちを支援することをミッションに掲げて2016年10月に起業。新興国(インドやインドネシア、カンボジアなど)のブルーカラー労働者が利用する安価・長持ち・最低限機能のスマートフォン向けのOSを開発。深センのOEM/ODMと共同でスマートフォンを生産し、企業向け(社員や契約先)に販売する。これまでデライトベンチャーズや、個人投資家の山本真司氏、川田尚吾氏、本田謙氏、宮田昇始氏、他数名から出資を受けている。
問い合わせ 株式会社アメグミ 常盤
Email: eisuke.tokiwa[at]amegumi.com
Webサイト: https://www.sunblaze.jp/
採用情報: https://note.mu/sunblaze/n/n813d6a50dfc5

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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