プロサッカー選手・長友佑都氏も出資
“You are what you eat”
「あなたは、あなたが食べたもので出来ている」という有名なフレーズがある。人は食べた“もの”によって、体調や欲求が変化する。ひいてはその人の考え方や人生観にすら影響を与える。だからこそ、しっかりと見極めて食べ物を口にしよう。そういう意味が込められたものだ。
じゃあ人が最初に口にする食べ物って何かというと、母乳をはじめとするミルク。そして、その次にくるのが離乳食だ。
世の中には「DOHaD説」という医学学説があり、そこでは妊娠期間と2歳までを合わせた約1000日間における適切な栄養が、子どもの成長・学習・貧困からの脱出のための能力獲得に強く影響するだけでなく、社会の長期的な健康・安定・繁栄を実現すると考えられている。つまり、母乳等のミルクと離乳食は、昨今さけばれている「ウェルビーイングな生活」への、非常に重要な“スタートダッシュ”となるわけだ。
母乳については、以前イベント取材という形で母乳テック企業のBonyu.lab社を取材した。では離乳食体験をアップデートさせるようなサービスはないものか、という観点でたどり着いたのが、今回お話を伺った株式会社MiLである。
写真左:ヘルスケア創作レストラン「倭」、写真右:離乳食サブスク「Mi+ミタス」
同社ではサブスクリプション型の離乳食「Mi+ミタス」を提供しており、また一方で、東京・西麻布でヘルスケア創作料理レストラン「倭」も手がけている。スタートアップと西麻布の高級レストランとは、なんとも珍しい組み合わせであるが、令和2年1月15日には、プロサッカー選手の長友佑都氏をはじめとする方々からの累計約1.8億円の資金調達を発表しており、その注目度の高さがうかがい知れる。
1/15発表の資金調達引受先の皆様。写真左から、Future Food Fund 株式会社 代表取締役 松本浩平氏、プロサッカー選手 長友佑都氏、日本体育大学 准教授 岡田隆氏
「ヘルスケア × フードテック」の新星はどこを目指しているのか。今回LoveTech Mediaでは、前後編に渡って、株式会社MiL 代表取締役CEO 杉岡侑也氏にお話を伺った。杉岡氏はMiLが3社目の起業となるシリアルアントレプレナーだ。
ウェルビーイングの思想を大切に事業を展開
--この度の資金調達、おめでとうございます!出資者の皆様、すごいメンバーですね。
杉岡氏:ありがとうございます!長友選手とFuture Food Fundさんは、MiL創業の頃から僕が勝手に、絶対に仲間にする!と決めていました。また岡田先生は創業1年目の後半に初めてお会いしたのですが、そこから食事をご一緒することが多く、満を辞して今回ご参画いただきました。
トップオブトップの皆様に株主になっていただき、さらに身が引き締まる思いです。
--素晴らしいです。まずは改めてとなりますが、貴社の現在の事業内容について教えてください。
杉岡氏:弊社では大きく2つ、ヘルスケア創作レストラン「倭」と、離乳食サブスクサービス「Mi+ミタス」(以下、ミタス)を運営しています。
「倭」は弊社の創業事業で、「人生が変わるディナー」をコンセプトに運営している西麻布のレストランです。食材の旨味を極限まで引き出す調理法で、調味料や添加物を極力使用せずにお料理を提供しています。またフルコースで召し上がって頂いても、総カロリーが合計600〜800kcal程度になるようにしており、毎日食べても、体も心もストレスを感じないコースとなっています。(※1)。
もう一つのミタスは、小児科医が栄養面を、管理栄養士が食材面を、共同創業者であり「倭」の責任者でもある熟練シェフが調理面を、それぞれ監修する離乳食のサブスクサービスです。お子様の月齢に合わせて、食材や固さなどがカスタマイズされた離乳食をお届けしています。
昨今注目され始めている「ウェルビーイング」(※2)の思想を大切に、事業をやっています。
※1. 通常、フレンチのフルコースではバターや生クリームをふんだんに使用し、調理で使う油も多い為、トータル1,200〜1,500kcal程度になると言われている(「倭」のクラウドファンディングプロジェクトページより)。
※2. ウェルビーイング(well-being):身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。WHO(世界保健機関)憲章ではその前文の中で、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」(日本WHO協会:訳)と定義しており、この満たされた状態を表す用語としてwell-beingが用いられている。
Mi+ミタス
思わず涙が出た、最初の出資者との出会い
--ウェルビーイング。ここ1〜2年で一般的な認知が広がってきていますよね。杉岡さんはどのタイミングでウェルビーイングを意識され始めたのでしょうか?
杉岡氏:当社最初の株主がLIFULL代表の井上高志さんなのですが、彼がウェルビーイングに関する研究を進める財団(※)の評議員を務めていることから、その時に初めて知りました。最初にお会いしたのはもう2年ほど前でして、その場で即座に出資を決めてくださった方です。
※一般財団法人LIFULL財団:石川善樹氏を代表理事とし、国内外のWell-Beingに関する研究技術分野における研究開発活動への助成を通じて研究者を支援することで、Well-Beingの発展に寄与することを目的に立ち上がった団体
--最初の株主はLIFULL井上代表だったんですね!その場で出資決定って、本当にある話なんですね。
杉岡氏:男性と話をして、初めて涙が出た瞬間でした。ほんと、ものすごくかっこよかったんですよ。10人くらいの会食ではじめに一人ずつ自己紹介していくのですが、その時に会社名とか言わず「世界を平和にする井上です」って自己紹介されたんですよね。ご自身のアイデンティティを、世界を平和にする一人格だと捉えていらっしゃっていて、超ピュアに、自分がいかに世界を平和にするかということを、すごく具体的に語っていらっしゃいました。
その中で、「僕はあと15年で世界を平和にする。杉ちゃんはその時、何をする?」と問われたんです。
もう震えちゃって。そんな大人いるんだ!って。
何を言ったか実は覚えていないのですが、その時に発した僕の言葉を聞いて、「応援するよ」ってその場で出資を決めてくださいました。僕が何者かも、何をしようとしているかも知らないままですよ?
--めちゃくちゃかっこいいですね!そんな大人、いるんですね。
杉岡氏:僕がまだまだなので、実はそれからまだ2回ほどしかお会いできていないのですが、井上さんが思い描かれているウェルビーイングな状態と、僕が創業当初から描いていた思いが、事業を進めれば進めるほど結果として非常に似ているな、と感じています。
大いなる挫折から始まった社会人人生
--杉岡さんは、MiLで3社目の起業と伺っています。どのような経緯でMiLを創業されることになったのか、教えてください。
杉岡氏:僕の社会人人生って、大いなる挫折から始まったんです。大学受験に失敗して、そのまま浪人にもならず、かと言ってどこかに就職するわけでもなく、地元・大阪でアルバイトを転々としていました。5年間フリーター生活だったわけです。
転機になったのは22歳の初上京でした。有難いことに就職先が決まって、他の同世代と違って学歴もスキルもないので「もう仕事を頑張るっきゃない!」となって、とにかく成果にコミットして働きました。エネルギーだけはいっぱいありましたから。そしたら、努力した分だけ成果も出てきて、どんどんハマっていったんですよ。
こんな自分でもここまでやれる。人の可能性って無限の可能性を秘めていると感じて、それを他の人にも実感してもらいたくて始めたのが、最初の会社でした。10万円2株の資本金というスタートでした。
--その後すぐに人材系の事業をはじめたと伺いました。
杉岡氏:MiL以前の2社とも人材関係の会社です。人材ってめちゃくちゃ面白くて、たくさんの若者と触れることができるんですよ。そうすると、時代の変化にもすごく敏感になる。若い人たちってその国の状況を如実に表していると感じていて、それを顕著に感じたのが、東北の震災前後でした。
それまでは、企業の名前や安定性を求めたステレオタイプな就職活動を正としていたわけですが、311以降はそれがガラッと変わり、「自分の有限資産である時間をどうせ使うなら、社会にとっていいことをしよう。その中で幸福を感じていこう」という選択軸へと変わっていった人が、非常に多くいました。
--確かに、東北の震災をきっかけに価値観が激変した方は、非常に多い印象ですね。
杉岡氏:ただ同時にもう一つ感じたのが、そもそもこの沈みゆく日本でいつまでも生きる必要があるのか?という考えの広がりでした。僕ら世代の4〜5つくらい下の、東大・京大・一橋といった有名校の若者たちは、そもそも日本企業に骨をうずめるなんて微塵も考えていないわけですよ。現に、優秀な人たちはどんどん海外に出ていってるわけです。
それを知った時に、もしかしたら僕たちの世代が「日本をなんとかしないといけない」というステレオタイプな意識を持つ、最後のジェネレーションになるかもしれないと感じました。
ここで世界に通用する会社や文化を作ることができれば、グローバルで活躍する若い彼らも、「日本の文化を使えばもっと有利なコンテンツを作れるじゃん」となってくれるんじゃないか。いい意味で、日本をうまく活用する起点にできると考えたのです。
--杉岡さんって、ものすごく「人への興味」が強い方ですね。
杉岡氏:人と社会、両方に対して興味津々です。たまたま最初に、人の方から入っていきました。
そんな流れから、3回目の起業となる今回は20代の勝負の集大成として、世界で戦える企業を作りたいと考え、現在のMiL創業に至りました。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/20200128mil2/”]