僕の都合でやめたら人類に対する罪だ、くらいに考えていました
--25年以上イエバエを守って来られたわけですが、相当苦労されたのではと推察します。一番苦労したことは何だったでしょうか?
串間氏:売り上げがゼロの状態でも続けなければならないことが、しんどかったです。
数年前、大学との共同研究が一通り終わった段階で、大企業との提携の話も何社か進んだものの、結局は途中で止まってしまうんですよね。イメージが悪いって。まだ早すぎたんだと思います。
--確かに、大企業となると株価などへの影響も心配されますからね。
串間氏:そうなんです。
全員が良いものとわかっているのに、そういったリスクがあるので、みなさん、一番風呂に入りたくないんですよ。
それでいよいよ電気代も払えなくなってきた、どうしよう、ということが続いた時期がありました。
それでも、このハエが必ず世界に必要とされる、という確信だけはありました。今考えたら無駄な自信だったかもしれませんが、その確信だけでなんとか続けていきましたね。
--事業自体をやめよう、と考えられたことはなかったのですか?
串間氏:やめるという選択肢が頭をよぎったことは、正直あります。
でも相談していた大学の先生方から、絶対にやめない方が良い、という励ましの言葉を頂き、思いとどまったりしたこともありました。
何より、僕の都合でこのハエの種を途絶えさせることは、人類に対する罪だという、一種の強迫観念がありましたね。
--人類に対する罪って、すごく広い話ですね。
串間氏:この技術を世に提供することで、将来的に何億人もの命を救うことになるかもしれないのに、それをやめるということは、間接的に人を殺しているのと一緒だと。
それでなんとか続けていく中で、今出資していただいている株式会社BASESと出会い、一気に事業化へと舵を切ることができるようになりました。
昆虫メジャー企業に育っていきたい
--事業化フェーズに進まれたムスカさんの、今後の展望を教えてください。
串間氏:今の私たち人類が生活する世界で、陸海空の生物の中で一番使われていないのは昆虫なんですよ。
昆虫の機能を工業的・産業的に利用している事例はほとんどご存知ないはずです。
--確かに、思い浮かびませんね。
串間氏:せいぜい蚕(かいこ)くらいだと思います。
つまり、昆虫はほぼ未利用資源なんです。
こんなに可能性のある分野は、他にはないと考えています。
弊社としてはイエバエに限らず、複数の昆虫の機能性や特徴をうまく人類の役に立てる、”昆虫メジャー企業”に育っていきたいと考えています。
そのための最初の足がかりが、イエバエです。
--先ほどの話ですと、イエバエが最強のシステムに感じるのですが、他の昆虫を育てる必要性はあるのでしょうか?
串間氏:イエバエの仕組みは素晴らしいですが、不向きなこともたくさんあります。
例えばですが、イエバエは稲わらとかおがくずなど、繊維質なものの分解が苦手です。歯がないですしね。
一方、他の昆虫で繊維質を分解することに長けたものもあるわけです。
用途に応じて、ソリューションとなる昆虫を選べるようになりたいと考えています。
--展開は国内がメインですか?
串間氏:いえ、僕たちは最初からグローバルを狙っていきます。
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