LoveTech Media編集部コメント
ヒトの感覚分類は”五感”であると、誰しもが小学校で習う。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
人間は全てをこれらの感覚で説明することができる。
本当だろうか?
enhance代表の水口哲也氏なんかは、かつてアリストテレスが提唱した「五感」という概念に、いまだに多くの人がその呪縛にとらわれ続けている、とWIREDインタビューで語っており、多くの研究者は、人間にはもっと多くの感覚が存在すると指摘している。
いわゆる「第六感」である。
今回、人間が”地球の磁気”を感じる能力を持っているという研究結果の発表が、東京大学とカリフォルニア工科大学などの共同研究チームから発表された。
ミツバチ、鮭、渡り鳥など、地磁気をナビゲーションに用いる動物は多い。
例えば渡り鳥は、地磁気を感じるセンサーのような能力を持っており、コンパスのように方位を正確に把握し、地球上を季節に合わせて移動している。
「ヒトも潜在意識下で未だに磁気感受性を有している」という仮説の中、東京大学 大学院の眞溪 准教授をはじめとする共同研究チームは、34名の被験者に対して、地磁気を遮断した特製の部屋にて、地磁気と同程度の磁気で頭部を刺激し、頭表 64 箇所で脳波を計測するという実験を行った。
結果、実験で与えた磁気に対し、選択的に応答する脳波を見出したという。
ヒトは潜在意識下で未だに磁気感受性を有しているという仮説への具体的な証拠を得ることができたわけだ。人も、地磁気を”感じ取る”能力を持っているということである。
人間の”五感”という概念が、時代遅れなものになる日も近いかもしれない。
以下、リリース内容となります。
1.発表者:
- コニー・ワン (カリフォルニア工科大学 計算神経システム 博士課程)
- アイザック・ヒルバーン (カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学 開発アソシエート)
- ダゥアン・ウー (カリフォルニア工科大学 生物学・生物工学 ラボマネージャー)
- 水原 悠貴 (研究当時:東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻 修士課程)
- クリストファー・コステ (カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学 リサーチテクニシャン)
- ヤコブ・アブラハム (研究当時:カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学 学士課程)
- サム・バーンスタイン (プリンストン大学 計算科学 学士課程)
- 眞溪 歩 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻 准教授)
- 下條 信輔 (カルフォルニア工科大学 生物学・生物工学 教授)
- ジョー・カーシュビンク (カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学 教授)
2.発表のポイント:
- 方向が変化する人工的な磁気刺激をヒトに与えたところ、その方向変化に対し選択的に応答する脳波を見出しました。
- このことは、ヒトが地磁気感受性を潜在意識下で未だに有しているということに対する、具体的な証拠になります。
- 本研究は、発見的な意義を持つばかりでなく、実験手法に新規性があり、ヒトの磁気感受性、 意識、第 6 感に関心のある研究者にとってこの実験手法がひとつの指針になると考えられま す。今後、ヒトの磁気感受性を証明する行動実験や潜在意識下から顕在意識下に上げる研究 への展開が期待されます。
3.発表概要: カリフォルニア工科大学のカーシュビンク教授、下條教授、東京大学の眞溪准教授らの国際
共同研究チームは、地磁気強度で方向が変化する磁気刺激に対し生じる脳波を捉えることに世界で初めて成功しました。
ミツバチ、鮭、渡り鳥など、地磁気をナビゲーションに用いる動物は多数存在しますが、ヒトの磁気感受性はどうなっているのか明らかではありませんでした。そこで本研究グループは、電磁波シールド暗室内に地磁気強度で方向変化する磁界を生じさせる実験装置を作製し、ヒトを磁気刺激しながら頭表 64 箇所で脳波を計測しました。
その結果、方向選択的にアルファ波の事象関連脱同期が観察されました。ここで、アルファ波の事象関連脱同期とは、外部刺激(たとえば、視覚・聴覚刺激)が入ってきたときに、脳波のアルファ波成分(8-13Hz)の強度が低下する現象であり、外部刺激に応答した証拠のひとつとなります。
本研究はそれ自体発見的な意味を持ちますが、その実験手法も、同種の研究を行う研究者への今後の指針になることが期待されます。
本研究の詳細は、米国の科学雑誌 eNeuro にて、日本時間 2019 年 3 月 19 日(火)午前 2 時 (米国東部夏時間 2019 年 3 月 18 日(月)午後 1 時)に、オンライン公開予定です。
4.発表内容: ミツバチ、鮭、渡り鳥など、非常に多くの動物が、地磁気をナビゲーションに用いています。
埋めた磁石を掘り起こしてくるように、犬を訓練することもできます。それなのに動物の一員であるヒトは、いったいどうしてしまったのでしょうか?
ヒトの地磁気感受性を調べた先行研究には、再現性が乏しい行動実験や条件設定に疑問の残る脳波計測などがあり、地磁気感受性の有無は明らかになっていませんでした。そのような状況の中、カリフォルニア工科大学のカーシュビング教授の呼びかけにより、同大の下條教授と東京大学の眞溪准教授は、「ヒトは潜在意識下で未だに磁気感受性を有している」という作業仮説のもと、心理物理学的・神経工学的アプローチによる国際共同研究を行ってきました。
本研究では、まず、動物実験の先行研究に照らして、適切で正確な実験装置の開発から始めました。たとえば、渡り鳥は、地磁気の強度や変化が普段の生活環境から逸脱したり、都市部に存在するような強力な電磁波環境では、その磁気感受性を失ってしまいます。ヒトに対する 磁気刺激の先行研究では、少なくともそれらの点に問題がありました。そこで,本研究チーム では電磁波シールド暗室内に 3 軸のコイルを設置し、磁界(強度が地磁気程度で方向のみ変化) をコンピュータ制御する実験装置を作製しました。また、磁気感受性は仮にあったとしても、 通常、顕在意識下に上がってこないため、これに課題を与える行動実験はいったん棚上げにし、脳の受け身の反応を捉えるために、ヒトを磁気刺激しながら頭表 64 箇所で脳波を計測しまし た(図 1)。
実験中、ヒトは暗闇の中、ただ目を閉じて座っているだけで、実際に何ら顕在的に感じるものはありませんでした。しかし、特定方向の磁気変化に対しては、アルファ波の事象関連脱同期が観察されました(図 2)。
ここで、アルファ波とは、特に何もしていないアイドリング状態で強く観察される 8-13Hzの脳波のこと、事象関連脱同期とは、アイドリング状態に外部刺激が入ってきたときアルファ波の強度が低下する現象のことであり、視覚・聴覚などさまざまな刺激に対し発生することが知られています。したがって、ヒトは地磁気強度の磁気刺激に対し、潜在意識下で生理的に応答したということになります。磁気感受性の方向選択性として、N極が下向きに傾斜した刺激に対してのみ反応が現われました。
北半球では N 極の伏角(注 1)は下向きに傾斜しており、本研究の被験者(34 名、性別、人 種、年齢は多用)が普段生活しているパサデナ(米国カリフォルニア州)や、東京で身体を動かしたときに浴びる磁気変化だったと言えます。
「いや、磁気刺激すれば頭部に電磁誘導で電圧が生じ、脳波はそれを観測しただけでは?」 という疑問に対しては、磁気刺激の周波数(2Hz 以下)とアルファ波の周波数が異なること、磁気刺激としては異なるが電磁誘導としては同じ対照実験で反応差が現われたことから否定することができます。あるいは「磁気刺激ではなく、それにともなってわずかに生じたコイルの振動や発熱に対して反応したのでは?」に対しては、コイルは 2 本ペアの導線で巻かれており、ペアに同方向に電流を流す磁気刺激条件と逆向きに電流を流すシャム条件(磁気刺激は相殺され、振動や熱に対しては刺激条件と等価)において、シャム条件では反応が得られなかったことから否定することができます。
さて、動物の磁気センシングの仮説には、N/S 極を区別できるマグネタイト仮説、電磁誘導仮説、N/S 極を区別できない量子コンパス仮説があります。前述の電磁誘導の対照実験の結果は、電磁誘導仮説では説明できません。また、事象関連脱同期が生じる条件において、磁気刺激の N 極と S 極を入れ替えてみると反応は得られませんでした。このことは、量子コンパス仮説では説明できません。したがって、本実験結果はマグネタイト仮説を支持しています。
ヒトの地磁気感受性の証拠を見つけたことは、それ自体が発見的な意義を持ちます。そればかりでなく、ヒトの磁気感受性、第 6 感、意識に関心のある研究者にとって、本研究の実験手法がひとつの指針になると考えられます。今後、ヒトの磁気感受性を証明する行動実験や潜在意識下から顕在意識下に上げる研究に展開したいと考えています。
本研究は、主として Human Frontiers Science Program grant RGP0054/2014(下條、カー シュビング、眞溪)、DARPA RadioBio Program grant D17AC00019(カーシュビング、下 條)、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B) 18H03500 (眞溪)による支援を受けて行わ れました。
5.発表雑誌: 雑 誌 名 論文タイトル
雑誌名 :eNeuro
論文タイトル :Transduction of the Geomagnetic Field as Evidenced from Alpha-band Activity in the Human Brain.
著 者 :Connie X. Wang, Isaac A. Hilburn, Daw-An Wu, Yuki Mizuhara,
Christopher P. Cousté, Jacob N. H. Abrahams, Sam E. Bernstein,
Ayumu Matani, Shinsuke Shimojo, and Joseph L. Kirschvink*
DOI番号 :https://doi.org/10.1523/ENEURO.0483-18.2019
関連 URL :カリフォルニア工科大学
http://www.caltech.edu/about/news/evidence-human-geomagnetic-sense
6.用語解説:
(注 1)伏角
方位磁石の N 極が北を指すことから、磁気は地表に対し水平な向きを持つことはよく知られてい ますが、直な方向の成分も持っていて「伏角」と呼ばれます。「伏角」は、北半球においては下向き、南半球においては上向きで、赤道付近ではゼロとなります(東京:水平から下向き 50 度、米国カリフォルニア州:下向き 58.5 度)。したがって、もし方位磁石が 3 次元的であったなら、これらの地域ではかなり斜め下方向を指します。
7.添付資料:
図 1:実験の様子
電磁波シールドルーム兼暗室内に、2m 角の xyz3 軸のコイルを設置し、その中心に頭部がくる ように被験者に座ってもらいます。コイルにはコンピュータ制御された電流を流し、頭部を空間的にできるだけ一様な磁界で刺激します。磁気刺激は、実験場所の室内で測った地磁気強度で一定にし、実験条件ごとに異なる向きにスイングさせます。
図 2:磁気刺激に対する脳波の変化 被験者の正面下向きに磁界をスイング刺激(小さいゴルフスイングのよう)した場合、刺激後 アルファ波(8-13Hz)の振幅が低下する事象関連脱同期が観察されました。 上図:時間波形、規則正しい振動が刺激提示(時刻 0 秒)以降、振幅低下しています。 下図:上図の脳波のパワーの時間周波数表示(横軸:時刻、縦軸周波数)、脳波パワーが低い場合、青。高い場合、黄色。バルブ状の枠に囲まれた青の暗い部分がアルファ波の事象関連脱同期を表しています。