今、高齢者の「孤独と孤立」が深刻な社会問題となっている。
内閣府発表の「平成30年版高齢社会白書」によると、65歳以上の一人暮らし高齢者数は、1995年時点での約220万人に対し、2015年時点では約592万人と、この20年で実に2.5倍以上となっている。また今後、2040年には約896万人にのぼると推計されており、我が国の人口動態に鑑みても、一人暮らし高齢者数は増加の一途を辿ること必至だ。
出典:平成30年版高齢社会白書(内閣府)「65歳以上の一人暮らしの者の動向」
ここで注意して頂きたいこととして、単に「一人暮らし高齢者数の増加」が問題なわけではない。そこから派生する「高齢者の社会的孤立」が深刻な課題なのである。
この社会的孤立は、様々な要因が複合的に絡むことで発生する。自身が社会的につながっている居場所の数が少ないこと、そのような居場所を作るための精神的および金銭的余裕がないこと、そしてそのような高齢者を受け入れる居場所がそもそも少ないこと。インセンティブ設計が働きにくい領域だからこそ発生する、構造的課題であると言えるだろう。
人は、好きな人に囲まれ、笑顔で会話し、ともに美味しいご飯を食べ、安心とともに休むことに喜びを感じるもの。それらを絶たれ、社会的に孤立する高齢者が増えていることが、孤独死(孤立死)の増加につながっていると言える。
そんな背景の中、「孤独をなくし、こころがつながる」ことを目的に、コミュニケーションの力で上述の社会課題解決を目指しているのが、株式会社こころみである。
一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」をはじめ、親のための自分史作成サービス「親の雑誌™」、高齢者会話メソッドによるロボット・スマートスピーカー・チャットボット向け会話シナリオ開発など、実にユニークで高齢者に優しい事業を展開している。
まさにLove Techカンパニーだ。前編では同社のこれまでとこれからについて伺うべく、株式会社こころみ 代表取締役社長の神山晃男(かみやまあきお)氏にお話頂いた。
コミュニケーションを軸とした各種事業
まずはインタビューに入る前に、株式会社こころみが展開する各種サービスについてご紹介する。
つながりプラス(2014年2月1日提供開始)
「つながりプラス」サービスページより
一人暮らしの親御さんに向けて、こころみの担当コミュニケーターが毎週定期的に電話し、そこでの会話内容を都度ご家族にメールでレポートする会話サービス。
一人ひとりに対して専属のコミュニケーターが担当し、初回には「自己紹介シート」や「お話し興味リスト」を通じてその人自身について深く知った上で会話するので、お互いの信頼関係が自然に生まれるように設計されている。
親の雑誌(2015年5月1日提供開始)
「親の雑誌」サービスページより
親御さんの人生の振り返りや思い出を一冊の雑誌形式でまとめる、親のための自分史作成サービス。インタビューと写真だけで気軽に作ることができ、親御さんの想いや家族の想いが形となって残る「自分史」は、世界に一つだけの宝物である。
つながりプラスで培った「聞く」プロ集団による安心の取材力も、本サービスが人気のポイントである。
創業の雑誌(2018年8月30日提供開始)
「創業の雑誌」サービスページより
企業向けのサービス。企業の創業者に人生の振り返りと会社の歴史、これからの会社への思いなどをインタビューし雑誌形式でまとめる、新しいタイプの社史作成サービス。
A4版の雑誌形式の社史は一般的な社史に比べて目を通しやすく携行もできるため、採用活動や営業ツールなどにも活用しやすいことが特徴。
「高齢者会話メソッド」を活用した会話シナリオ開発
高齢者会話メソッドとは、これまでの高齢者との定期的・長期的な世間話で得られた「大量の世間話」データと「高齢者ナレッジ」をもとに、「演劇的シナリオ作成方法論」(※)と「ロボット開発経験」に基づいた、信頼構築と情緒の満足に最適化された会話シナリオ作成ソリューションのこと。
※演劇的シナリオ作成方法論:演劇における脚本作成・動作やタイミングを含めた会話プロデュースに関するノウハウをまとめた方法論
株式会社こころみホームページより
この高齢者メソッドをチャットボットやコミュニケーションロボットに活用することで、「かわいさ」や「だめっぽさ」などの情緒的な訴えのある存在へと昇華される。
最近ではシャープ株式会社と共同で、モバイル型コミュニケーションロボット「ロボホン」を活用した自分史作成の新サービス「私の足あと」を企画。
ロボホンが利用者にインタビューし、ロボホンとの会話を通じて自分史「足あとノート」を完成させていく。さらにそのノートを事務局に送付すると、一定期間後にロボホンがその内容を覚え、「あなたの半生を知っている」世界で一つのロボホンになるという。
他にも様々なロボット案件を取り扱っている。
高齢者の方々はもっと話したいんだ、という気づき
--「孤独と孤立の解消」というテーマが非常に素敵だなと感じました。なぜこの領域で事業展開されることになったのでしょうか?
神山晃男(以下、神山氏):もともとのきっかけは、私自身の両親が一人になったらどうしようか、と思ったことで、世の中の高齢者支援サービスを調べたことでした。
私の実家は長野県なのですが、遠隔地にいる高齢者をサポートするサービスが意外となく、見守りについても機械的なものしか見つからなかったので、高齢者自身にはどんなニーズがあるんだろうかと、試しに近くの団地に行って、一人ひとりヒアリングしていきました。
当然嫌がられるだろうと思っていたのですが、話しかけた高齢者はみなさん快く話してくれて、そのままなかなか話が終わらなかったんです。こちらから切り上げないと、延々と話を続ける雰囲気でした。
その時、「この方達はもっと話をしたいんだ!」ということに気づきました。
--会話したいけど会話先がない、という需給のギャップがあったということですね。
神山氏:あともう一つ、私自身の高校生時代の記憶です。
高校から関東の学校に通うことになったので、長野の実家を離れて一人暮らしをするようになったのですが、都会の学校にうまく馴染むことができず、登校しないで一人暮らしの自宅に引きこもっている時期が続きました。その時に感じていた孤独感が、とてもシンドかったことを覚えています。
団地での気づきの際に、昔自分が辛かった時の感覚だな、ということを思い出しまして、「孤独と孤立」を解消する事業をやろうということになりました。
--ご自身の原体験から通じる事業でもあるんですね。当時、不登校からどのように復活されたのでしょうか?
神山氏:自分自身でも「さすがにこのままではマズイ」と思いまして、たまたま雑誌で見つけた社会人劇団に飛び込みました。そこで劇団員や外部スタッフ、観客など、いろいろな方々と関わることになり、コミュニケーションの大切さを学びました。
ここでの学びが、今の事業にも活かされています。
「聞き上手」というコア・コンピタンス
--こころみ創業までは、どのようなご経歴なのでしょうか?
神山氏:新卒から2年ほどはコンサルティング会社に在籍して、その後は投資ファンドの会社に転職しました。
そこでの経験が10年ほど続きます。
--また、今とは全然違うお仕事ですね。
神山氏:未上場会社の大株主になって、経営に参加しながら会社の価値を上げて売却するという仕事です。
事業を通じて多くの経営者に出会ったのですが、全員、なんか「凄い」んですよ。うまく言語化できないんですが、会社を営んで従業員を抱える”社長”という存在は、なんとも言えない「勝てない感じ」がありました。
そんな方達と生で接するうちに、自分も社長をやってみたいと感じて、こころみを創業しました。
--なるほど。会社名の「こころみ」って、どういう意味なんでしょうか?
神山氏:「こころを見る」と「試み」を合わせています。
「こころを見る」とは、満足の追求・孤独感や不安に寄り添う・家族の幸福の為に存在する、といった内容を示しています。
また「試み」とは、新しい事の追求・社会を変える・新しいものを生み出すといったことを示しています。
総じて、人の気持ちに訴えかけて、コミュニケーションにつながる新しいものを作ることを目指しています。
--コミュニケーションが軸なんですね。
神山氏:コミュニケーションの中でも「聞き上手」が弊社のコア・コンピタンスです。
弊社の創業事業であるつながりプラスでは、この「聞き上手」なコミュニケータースタッフが、弊社が独自に開発した”傾聴”のメソッドなどのノウハウを使って、とにかくじっくりとお話を聞きます。
ここから親の雑誌事業が生まれ、創業の雑誌が生まれ、またロボット・AI向けのシナリオ開発にまで応用しています。
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