お金はどうあるべきか、フェイスブックLibraから考える《後編》 〜FIN/SUM 2019 Report 13

イベントレポート

 日本経済新聞社と金融庁が共催する、国内最大のFinTech(フィンテック) & RegTech(レグテック)カンファレンス「FIN/SUM(フィンサム)」。

 「新しい成長の源泉を求めて」をメインテーマに掲げ、9月3日〜6日の4日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模国際ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。

》FIN/SUM 2019記事一覧はこちら

 レポート第13弾の本記事では、「お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃 Part2(国内編)」というテーマで設置されたセッションについてお伝えする。

 前編では《海外編》ということで、海外に活動拠点を置くVCやブロックチェーンの専門家をお呼びして、お金の未来についてのディスカッションがなされた。

 後編では今度は《国内編》ということで、今度は国内に拠点を置きつつ、海外含めて積極的に事業展開を進める起業家や専門家によって、Libraの将来性や留意事項などについて話し合われた。

》前編記事はこちら

<登壇者>

※写真左から順番に

  • 上杉素直(うえすぎ もとなお)氏 ※モデレーター
    日本経済新聞社 編集局 コメンテーター
  • 高﨑義一(たかさき よしかず)氏
    ドレミング株式会社 会長
  • 林千晶(はやし ちあき)氏
    株式会社ロフトワーク 代表取締役
  • 榎本悠介(えのもと ゆうすけ)氏
    株式会社LayerX CTO
  • 森下哲朗(もりした てつお)氏
    上智大学法科大学院 法科大学院長・教授

賛否両印象の登壇者

 まずは自己紹介と併せて、現時点のLibraへの感想について、それぞれコメントがなされた。

現金は持つもんじゃない by. ドレミング高﨑氏

ドレミング株式会社 会長 高﨑義一氏

 ドレミング株式会社は、リアルタイムで給与計算を行い、労働者が給与を日払いで受け取れるという、世界で唯一のサービスを提供するFinTech企業である。

 2016年5月設立のベンチャー企業であるが、現時点ですでにアメリカ、イギリス、インド、シンガポール、サウジアラビアにて海外法人を立ち上げているグローバルカンパニーでもある。

 労働者に優しい企業とまじめに働いている労働者に、不正ができにくいデジタルマネーを使った金融包摂サービスを提供するLoveTechな企業として、当メディアでも注目している存在だ。

 今回登壇された高﨑氏はドレミングの会長。以前は板前・ハンバーガーショップのフランチャイズ店オーナー・給与計算ソフト開発企業代表という、異色の経歴をお持ちの方である。

「私がフランチャイズ店をやっていた時に、現金を盗まれたことが何度もありまして、現金は持つもんじゃないとつくづく思いました。

かと言って、クレジットカードも、日本は手数料が非常に高いですよね。

今回のLibraが世界中に広がってくれたら、めちゃくちゃ嬉しいなと、個人的には感じます。

私の中で全然衝撃が走っていない by. ロフトワーク林氏

株式会社ロフトワーク 代表取締役 林千晶氏

 林氏は2000年に株式会社ロフトワークを起業。まだクリエイティブやデザインなんて言葉が一般に流通する前から、Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなどを手がけてきた人物だ。

 グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、「MTRL」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD」などを運営しており、最近では、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「飛騨の森でクマは踊る」代表取締役社長も務めている。

「Libraについてですが、正直、新しい暗号通貨の一つかな、くらいに思っていました。私の中で、全然衝撃走ってない、というのが正直なところです。

おそらく8割の人にとっては、またどうでも良い動きが出たのかなと思われている、と感じています。

ついに来たな、と思った by. LayerX榎本氏

株式会社LayerX CTO 榎本悠介氏

 ブロックチェーン技術を活用し、すべてのことが正しく評価されるような世界を目指し事業展開している株式会社LayerX。

 同社CTOとして技術面を支える榎本氏は、大学時代に数学とコンピュータサイエンスを専攻。DeNA・Gunosyを通じて複数の新規事業立ち上げをアーキテクトやリードエンジニアとして牽引してきた人物だ。

「数年前にサトシナカモトの論文を読んで、なんてかっこよくて力強くて美しい論文なんだ!と思い、そこから本格的にブロックチェーンの研究を始めました。

Libraについては、衝撃を受けた側です。

これまで、決済に使える仕組みで決定版というものがなかったと思いますが、今回のLibraが持つプログラマブルな性質を通じて、それがついにきたな、と思いました。

ひょっとしたら信頼が生まれるかもしれない by. 上智大学 森下氏

上智大学法科大学院 法科大学院長・教授 森下哲朗氏

 現在、上智大学法科大学院で法科大学院長・教授をつとめる森下氏は、元々は新卒から10年間は銀行に勤務。後半5年間は法務部門にいたことから法科大学院に入っていき、現在は国際取引法や金融法、、交渉学等を教えている。

 2016年6月から金融庁決済高度化官民推進会議座長、2017年11月から2019年6月まで金融庁金融制度スタディ・グループ・メンバーもつとめていた。

「私もどちらかというと、衝撃を受けた側です。

これまで仮想通貨といっても、通貨として信頼に値するものはほとんどないと思っていました。

一方でLibraは、あれだけのグローバル企業がコンソーシアムを組んでいますよね。ひょっとしたら、通貨としての“信頼”が生まれるかもしれない、と感じました。

質問1:Libraにはどういう潜在力があると感じるか?

僕たちも同じことをやっていた by. ドレミング高﨑氏

「実は、私たちも数年前から同じようなことをやっているんですよ。

経緯から説明させてください。

私は阪神淡路大震災後に、働く人たちが報われる給与体系を実現するために、キズナジャパンという会社を立ち上げ、日本初のASP型人事、勤怠、給与システムを開発開始、2008年には、これは世界で初めてのリアルタイム給与支給サービスを開始しました。

そんな中、2014年にケニアで普及しているM-Pesaを視察に行き、衝撃を受けました(M-Pesaについてはこちらの記事をご参照)。

「当時、私たちの給与計算ソフト利用顧客にベトナムの半導体工場がいらっしゃって、4,000人の従業員に対して現金で給与の受け渡しを行なっていました。

誰も銀行口座を持っていないので振り込めないというのです。

世界20億人がそんな形で口座を持っていない中、携帯電話で給与を送金していたのがM-Pesaだったんです。

つまり、銀行がなくても、携帯を持っていて携帯ショップがあれば、何でもできるということを、その時に初めて知りました。

一方M-Pesaでは、現金輸送はバイクで行い、バラックのトタン板の中に現金を預かっているという状況で、率直に『危ないんじゃないの?』とも感じました。

僕たちのシステムから直接M-Pesaにチャージしたら、銀行口座がなくてもいけるだろうと思って、日本帰国後にすぐに開発して、アメリカで発表しました。

そうしたら反響がすごかったんです。

特にイギリスが積極的に支援してくれて、金融庁長官もバックアップを約束し、世界186カ国の金融難民に対して金融サービスを提供すると大々的に発表しました。

そこから、英国政府の紹介で様々なところに行って説明させていただいています。

先日はサウジアラビアのサウジアラムコ(石油会社)に行って、同社の役員と一緒に現地法人を設立しました。

長くなりましたが、Libraを見たときに『僕たちもやっていたけど、やっぱりGAFAは強いな』って思いました。

でも、Libraのような動きは大歓迎です。

キャッシュレスなんてある意味で当たり前 by. ロフトワーク林氏

「5年前にミャンマーの奥地に行ったのですが、そこがヤンゴンから陸路3時間水路2時間の、『FACTFULNESS』の所得レベルでいうところの「LEVEL 1」の貧しい村に行きました。

農家では水田をやっていて、毎月の売り上げは紙にメモしていたのですが、彼らに一番欲しいものを聞いたところ、携帯電話だと言っていました。

その時に『携帯が、全てのアクセスのポイントになる』と記憶したことを覚えています。

だから、今世界ではキャッシュレスが進んでいるけど、ある意味で当たり前のことだなと思いました。

日本にいるとこういう話は、どこか遠いところの話に聞こえますが、『それを使ったら便利かどうか』という点で一致していると思いますい。

ミャンマーでもインドでも、これを使ったら便利に払えるじゃん、ということで使われるでしょう。

だからLibraについては、サービスとして成立させるのは可能だけど、様々な規制の中でどうやってこの“便利さ”を仕込んでいくのか、という点がわからないと思っています。

お金がソフトウェア化されないわけがない by. LayerX榎本氏

「僕自身は、お金がプログラムに乗ってソフトウェアになる、という観点に興味を持っています。

お金がプログラム化されたら、誰にいつ支払ったかといった情報がリアルタイムで記録されていくから、税金もリアルタイム計算がなされて、究極的には会計というものがなくなって、お金の回りもさらに流動的になって効率化されていくと思います。

今僕たちは、証券をブロックチェーンに乗せる「セキュリティ・トークン・オファリング」(Security Token Offering:STO)にも力を入れています。

透明性を担保したり、小口化が簡単になったり、譲渡を制限したりと、様々なメリットのある動きです。

いずれにしても、お金がプログラムになっているということが大事なパーツと言えて、その1手段がLibraなのだろうと捉えています。

全てのものがソフトウェア化されている中で、お金がソフトウェア化しないはずはないと思っています。

質問2:既存の金融システムへの影響は?

 今年7月に開催された「7か国財務大臣・中央銀行総裁会議」では、最高レベルの規制が必要という認識が発信され、マネーロンダリングや個人情報保護への心配など、かなりネガティブなメッセージが発信された。この動きを含めて各登壇者よりコメントがなされた。

ネガティブな反応は当然でしょう by. 上智大学 森下氏

「確かに各規制当局がそんな反応をしましたが、非常に真っ当な反応だと思います。

Libraホワイトペーパーには、グローバルにオープンに瞬時に低コストで、資金移動ができるようになりたい、という旨の記載がなされています。

だからこそ、テロ資金やマネロンに使われたらまずい、という意見が出てくるのは、至極当然に感じます。

しっかりとしたスクリーニングをしないと安心できない、というのは、その国にある国民の生活に責任を負っている国家としては当然の意識かなと思います。

多くの国の中でも、日本は政府に対する“期待”が高いと感じます。セーフガードが効いているということです。

だからこそ、国家の側から気にすべき点をリストアップして、クリアされない限り勝手に進んではいけない、というのは自然な反応だと思います。

お金ってものはダークな力もすごく働くところ by. ロフトワーク林氏

「このLibra の話を聞いた時に、90年代の、インターネットの誕生によって自由な情報発信ができるようになる!と思った自分を思い出しました。

結局、インターネットで新しいことが開けるというのは幻想で、今のマスメディアを誇張するようなツールでしかないという側面があると感じます。

今の状況を元Wired編集長の若林さんに聞くと、『絶望してる』とおっしゃっていますし。

仮想通貨も前向きに考えると、例えば時間単位の労働に合わせて自動でお金が支払われるような素晴らしい可能性があるかもしれないとは思いますが、一方で大量の仮想通貨が盗まれて回収が全然できないという現実も見てきました。

つまり、お金にダイレクトに関わらない部分は比較的前向きに入っていくけれど、お金というところは、ダークな力もすごく働くところなので、その恐怖を、やっぱり人は感じているんじゃないかなと思います。

だから私は、現実的にLibraは“かなり”規制がなされるんじゃないかなと思っています。

そして、逆に不便な部分がすごく多くなってしまい、結果として日本ではあんまりLibraが使われないんじゃないかな、と思っています。私の勝手な想像です。

各国で実証実験が始まっています by. ドレミング高﨑氏

「私たちにはシステムがあるので、様々な国に『タダで使ってください』と回っています。

これからデジタルマネー社会になったら、日本は海外に持っていける技術があるので、現地のお金持ちに工場作ってもらって、ロイヤリティ契約にして、全ての取引を電子マネーにしたら、ものすごく売上が上がると思います。

アフリカ12億人、インドで13億人、中東で2億人、アジアで7億人。

こんなチャンス、もう二度とないと思います。

このチャンスを生かすために、僕はみんなで手を組みたいので、Libraのようなネットワークを作って活かしたいと思っています。

実際に、中央銀行総裁会議で発表したところ、参加国全員が名刺交換に来て、25人が携帯電話番号まで交換希望とのことでした。

そんな流れで、今年にかけて各国を周遊してきまして、みんな“実証実験をやろう!”となっています。

みんな税金の収集方法がないんです。

僕たちにも『君らもぜひ申請しなさい』と言われましたが、デジタルマネー発行運用のノウハウがないので、急いで日本に帰ってきて、今この領域で協力してくださる企業を探しています。現在進行形です!

質問3:本当に実現できるのか?条件やハードルは?

森下氏:Libraがどこまでを目指しているかによりますが、そこがまだわからないから、何とも言えないですね。

やりたいと思ったことが、必ずしもリブラでなくともできるかもしれない、ということを再考する良いタイミングと考えると、面白いと感じています。

 

榎本氏:Libraが目指す社会は今後10年以内にきっと実現するでしょう。

それとは切り離して、技術者としてみても、Libraはイケてるところが多いと感じます。

コンソーシアムがちゃんとできているし、使っている技術もしっかりと分って選択していて、ちゃんとしたエンジニアをアサインしている証拠だと感じます。

何よりも、世間からめちゃくちゃ注目されていて、バグなんかも勝手に修正されているということで、オープンソースプロダクトとしては、完全に成功していますからね。

技術者として、引き続き注目しています。

 

林氏:やっぱり、Libraはあんまりうまくいかないんじゃないかと思っています。

それよりも、Libraのソースコードやスキームを全部真似した中国発あたりのものが早く出てくると思います。

いますでに経済的に進んでいる国と、銀行も無くてどうするのかという国では、欲求度合いが全然違うと思っています。

中国をはじめとするアジアの爆発的成長力を考えると、そっちの方が進むんじゃないかと思いますね。

私がロフトワークを運営する中で、19年前はクリエイティブなんて言っても誰もわからない状況の中で、今やクリエイティブ産業やデザイン経営など、日本の政策はどれを取ってもデザインベースになっています。

そう考えると、10〜20年くらい経つと、欲しいものは確実に手に入るものなんです。

だから、Libraなのかはわからないですが、銀行を超えた、もっと便利な双方向性のある金融機関は絶対に出てくるだろうな、とは思っています。

 

高﨑氏:今年4月13日から2日に渡って開催された、世界のメガバンクを集めたイベントで、サウジアラビアは2030年までにキャッシュレスの最大目標を70%に据えると発表しました。

サウジアラビアでは、GDPの1.3%が紙幣の発行にかかっているとのことです。

紙幣は盗まれたり、賄賂に使われたりで、マイナス面が多すぎます。

日本のような災害の多い国では、タンス預金しているお金が流されたりでもしたら、自分の手元には帰ってこないで、全員が生活保護者になってしまいます。

だからこそ私は、現時点で一番大事なことは、携帯電話・モバイルマネーだと思っています。

 

編集後記

米Facebookが発表したLibraは、ステークホルダー内外、様々な方により議論がなされています。

 

筆者個人の印象としては、今回登壇されたロフトワーク林氏と同じく、Libraでないかもしれないが金融システムをアップデートさせるプロダクト・プラットフォームは、ここ10年で確実に出現するだろう、ということです。

 

そして、やはり個人としては、そこには適切な規制が働くことによってこそ、90年代に多くの人々が夢想した理想郷へのアプローチが可能になるのではとも感じます。

 

Libra単体に限らず、引き続き業界を注視して参りたいと思います。

 

FIN/SUM 2019 レポートシリーズ by LoveTech Media

Report1. FinTechとRegTech、新しい成長の源泉へ期待高まった4日間 ~FIN/SUM 2019

Report2. RegTechとSupTech、その定義からポテンシャルまで要点解説

Report3. レギュレーション × テクノロジーが世界を変える《前編》

Report4. サーキュラー・エコノミーが熱い!レギュレーション × テクノロジー《後編》

Report5. 規制サンドボックスの現状、英国・香港・シンガポール・日本のケース

Report6. グリーン・デジタル・ファイナンス、環境に対する行動変容を設計せよ

Report7. 北欧デンマークが進めるデジタル融合社会とFinTechエコシステム

Report8. 金融資産72%は55歳以上が保有、高齢化社会で期待されるFinTech

Report9. 20兆ドルマーケット狙うFinTechスタートアップが考える金融包摂

Report10. 諸外国のオープンバンキング事例から考える日本のケース

Report11. クラウドファンディングが導く金融の民主化と、その先の世界

Report12. お金はどうあるべきか、フェイスブックLibraから考える《前編》

Report13. お金はどうあるべきか、フェイスブックLibraから考える《後編》

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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