居住地国とマーケット国で綱引きが起きている
EY Japan EY税理士法人 / タックステクノロジー アンド トランスフォーメーション パートナー 税理士 橋本純氏
一方で昨今、GAFAへのデジタル課税などがトピックとしてある。デジタルに対するTAXへの政策について、今度はEY税理士法人の橋本氏がお話しされた。
「今のデジタル経済では、ビジネスの変化が早く、国境をまたいでビジネスをするのも非常に簡単です。また、拠点が不要で、いつでも自宅から全世界の人々と仕事ができる。こういった環境が、税務を複雑にしています。
また当局側の目線で見ると、対象となるビジネスは国境を越えるが、レギュレーションつまり税務当局はローカルの規制しかかけられないので、グローバル全体で何が起きているかローカルではわからないといった問題が起きます。
このことから、国家単位での対策には限界があると言えるでしょう。」
このような背景から、2012年にOECDで発足したプロジェクトがBEPS(税源新色と利益移転:Base Erosion and Profit Shifting)である。国家間の協力によって税務のルールを共通化し、その内容を加盟各国に勧告し、各々の国における税制をアップデートさせるという取り組みとなっている。
その中でも「経済の電子化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画書」という、2019年5月BEPS包摂的枠組みで承認し、同年6月のG20財務大臣会合(於:福岡)に提出・承認された計画があり、国際税制原則の見直しと、軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入という2つの柱からなる解決策について検討し、2020年末までに最終報告書を取りまとめる、というスケジュールとなっている。
「例えばアマゾンをイメージしてください。本社は米国にあるが、世界各国でプラットフォームを通じて販売しています。そこには商品リコメンドに関する様々な仕組みが実装されていますが、これを“使うユーザー”がいてこそ、その仕組みが活きてきます。ユーザーが多くいることで機能が向上する類のものと言えますね。
つまり、居住地国とマーケット国で綱引きが起きるという観点で、この議論が起きているわけです。
従来の考え方では、仕組みを持っているところに権利が存在するのですが、この仕組みの中では、ユーザーがいるところにも価値が分配されるべきですよね、という議論になっています。」
この中で日本は、大きなプラットフォーマーがいないという現状から、マーケット国としての対応を進めており、平成27年には国境をこえて提供される電子サービスに対する消費課税を、平成30年には「PEなければ課税なし」等の国際課税原則の見直しの実施に合意している。
企業で開発したAIを“良いもの”にするための方向性
EY Japan / EY アドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーリーダー パートナー 宮地秀敏氏
それでは、具体的なビジネスモデルと企業の対応についてはどうだろうか。この点について、EY Japanの宮地氏より、主にAI技術における企業の対応という観点で解説された。
昨今、ニュースの紙面で聞かない日はない“AI”という単語であるが、これは単独で存在するというよりかは、あらゆるビジネス領域の中に入っていき浸透していく類の技術と言える。
そして、このような新しい技術というものは、いい面が先に出てくる特徴がある。例えばAIについて言えば、人間では見つけることのできなかった特徴抽出がなされる、それによる圧倒的な効率化の実現等である。
その後、今度はその反動として、必ず悪い面への懸念が出てくる。それが、リスクの顕在化というわけだ。
上図は一般的なAI実装の流れになる。
例えばトレーニングデータの段階では、データは誰がどんなふうに選んでいるのか、といったことがリスク要因として挙げられる。
また、モデル化の段階では、誰がそれを検証して良いと判断しているのか、そもそも“良い”とはどのような状態でどう判断されるのか、といった点が挙げられる。
さらにアウトプット段階では、検証の良し悪しがわからないという話が出てきて、これが大企業に広まっていくとコンプライアンスに関わるリスクとして認識されるに至る。
「このようなリスクに対して、最近では“良いAI”にしていくための方向性も出てきており、先進的な企業ではガバナンスの効いたAIプロジェクトへの取り組みが進んでいます。
行動原理としては大きく3つ。目的ありきの設計をする、一回作ったら終わりではなく常に検証してアジャイルに改良していく、きちんと監視して確認するということを、専門の部署等を立ち上げて取り組むことが大切だ。
また施策についても、AI倫理委員会の設置、AIデザインスタンダードの設定、影響評価における基準の策定、作成したものの資産化と管理、AIの使われ方といった教育施策、そして第三者委員会の設置といったものが挙げられます。
これらを通じて、新しい技術をどうやって企業活動に組み込んでいくかを議論し、フィットさせていくことが大事だと言えます。」
企業としてきちんと評価してもらう発信を心がけるべき
最後に、サーキュラー・エコノミーにおける日本のポテンシャルについて、官としての視点で福地氏がコメントされた。
「私個人の考えとしては、日本のポテンシャルはとても高いと思っています。
まず、限られた国土と限られた資源の中で、最終処分廃棄物や不法投棄を減らすといったシステムの部分が、しっかりと対応できています。
次に、企業の経営理念として、元からパートナーシップや“三法よし”の考えが染み付いています。
最後に、個人の観点でも『もったいない』の精神が自然と身についています。
だからこそ、これまで当たり前に取り組んできたことを、イノベーションの力を借りてどこまで自覚的に取り組んで、投資家にどう評価してもらうかがポイントだと感じます。
いかに取り組みを発信し、企業として評価してもらうか、を考えていく必要があるでしょう。」
編集後記
RegTechに関する国内外の議題について、前編では主に官や規制サイドの立場から、後編では被規制サイドである企業の立場から、それぞれの内容を2記事にわたってレポートしました。
記事をご覧になってお分かりの通り、特にRegTech領域で事業展開する企業は、グローバル展開が大前提となるわけです。
前編で鬼頭さまもお話されていましたが、日本の規制だけを対象に機能するようなガラパゴス化したプロダクトを作ったとしても、国をまたいだ横展開ができず、スケールしない可能性が高いでしょう。
日本がRegTech先進国となるための方策については、別セッションでも議論されていたので、本特集の最終予定記事(Report22)を楽しみにされてください。
次回Report5では、セッション「Regulatory Sandbox の今後の国際連携の可能性」についてレポートします。
お楽しみに!
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