パネルディスカッション
各社による事業紹介の後は、登壇者4名を交えてのパネルディスカッションとなった。
以下、「世界を席巻するために日本が取るべきAI戦略や姿勢、それに向けての課題」というテーマに対する、各社の意見を要約してお伝えする。
目的をしっかりと定めた上でのデータ収集が大事(HEROZ、井口圭一氏)
「先ほどもお伝えした通り、弊社はこれまで将棋AI開発を通じて培ってきた技術を、他業界に向けたAIソリューションに応用しております。
とは言え、開発した技術をそのまま使えるわけではなく、まずは保有されているデータや課題をヒアリングし、目的を設定し、その目的に応じて弊社エンジンと組み合わせ、プロダクトを開発していくという進め方になります。
よく、『こんな大量データがあるので何かできないか』というご相談を頂くのですが、データ自体はやみくもにとっても、役に立たないことが多いです。
まずは目的を定めて、それに即したデータを取っていくということが非常に重要となります。
この観点を前提に、各産業に精通した上で、さらにAIで何ができるかをしっかりと議論できる人が多くなると、日本はもっと良くなると感じます。」
日本独自の”しなやかさ”を活かすべき(コニカミノルタ、市村雄二氏)
「皆さまが仰るように、データ精度の高さは、特に製造などのものづくり現場においては非常に重要なポイントです。
ハードの観点で申しますと、弊社ではサーマルカメラ(赤外線カメラ)や3次元レーザーレーダーといった最先端の光学技術を用いて、暗闇や逆光出会ったり、各種障害物のある工場内であったとしても、精度の高いデータを収集する技術があります。
またオフィス環境という働く場においても、人間という定量化しにくいものを入れていく上で、日本独自の”しなやかさ”を活かせると考えています。このExcelのマクロは誰に一番使われているのか、高パフォーマンス従業員のメールはどのようになっているのか。こういった、サイバー空間での”働く”と、フィジカル世界での”働く”を突き合わせていくことで、様々な機会が創出できると感じます。
日本では昔から、『三方よし』と言われていますが、本当にそれに尽きます。他社・団体とパートナーを組むことで、データを共有化し、新しい価値を生んでいける。
日本は質の高いデータを持っているものの、オープンイノベーションが進まないのは非常にもったいないです。現場もオープンマインドでいけば、我が国のポテンシャルは高いと感じています。」
ディープラーニング以外との組み合わせが大事(NEC、今岡仁氏)
「AI技術は、ソフトウェアについてはどの国でも”できること”は変わらないと思います。
大事なのは、ディープラーニングではないものとの組み合わせと考えます。
画像認識技術についてずっとやっていると、ディープラーニングは不安定性が課題だなと感じています。ちょっと違う入力を与えると、すぐに違う結果になります。
弊社が第1位の性能評価をいただいているNISTの顔認証ベンチマークについても、使っているハードは全部一緒なんですよね。
そういう観点で、組み合わせによって、日本の技術も負けないと考えています。
一点、規制とかデータ流動性がもう少し高まるような仕組みづくりができると、有難いと感じます。流動性が高まると、データに群がって人が集まり、市場も活性化します。
逆に、この仕組みづくりが遅くなると、スピード感が落ちてしまいま、世界各国のベンダーについていけなくなります。
技術開発におけるスピードの担保が、現時点で課題だと思います。」
日本はニッチトップをとって重ねていくべき(MUJIN、滝野一征氏)
「先ほど、私たちは『モーションプランニング技術』を活用していると申しましたが、これはすなわち、ディープラーニングを否定しているわけでは一切ないです。
要は、棲み分けだと思っております。
製造業で何が求められるかを一つあげるとするのであれば、それは『精度』であると言えます。
そして今回のテーマでいえば、『集めるデータの精度』が非常に重要です。ゴミデータがたくさんあっても、意味がありません。
一方これらのデータをカメラ等で用意しようとすると、結構な投資が必要となり、リソースに限りがある企業にとって、簡単にPDCAを回せるものではないです。
そこに私たちは切り込んでいます。
精度の高いデータを、ローカルからいかに集めていくか。この領域で、日本は非常に大きなチャンスがあると感じています。
なお、NECさんが仰るように、弊社も”スピード”が課題と感じています。
データを集める素地は非常に高く、現場力も世界で一番だと感じているので、あとはスピードですね。
知財などがもっとスピーディーに通るような仕組みになればいいな、と感じています。
『ニッチトップをとって重ねていく』。
これが今後の日本のAIを活用したものづくり戦略と考えています。」
編集後記
Report1の世耕経産大臣による基調講演では、日本の大きな舵取り戦略が示されました。
では実際に、我が国にはどんな強みがあるのか。
本セッションでは、日本の「ものづくり」における可能性に力点を置かれて、各リーディングカンパニーによる見解が述べられました。
最後、MUJINの滝野CEOが仰った「ニッチトップをとって重ねていく」というスタイルことが、世界に負けない日本のあるべきマインドと感じました。
次回Report3では、国連事務次長・中満泉さまによる「AI時代における国連の各国政府および企業・団体との関わり方」についてレポートします。
お楽しみに!
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