ポストAIとしてのALife研究、電気羊の夢を見る日は来るか? 〜AI/SUM Report 13

イベントレポート

 日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)の活用をテーマにした初のグローバルイベント「AI/SUM(アイサム)」。「AIと人・産業の共進化」をメインテーマに掲げ、4月22日〜24日の3日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。6月に大阪で開催されるG20に先駆けた取り組みとも言える。

 レポート第13弾、AI/SUM取材記事として最後となる本記事では、「AI からALife へ : 生命原理のロボットを考える」というテーマで設置されたセッションについてお伝えする。

 この10年は深層学習とともに人工知能=AIが世界を席巻した時代であった。

 AIを「人のできることの自動化」とするならば、人と同じように自分で自分のやることを決定していくシステム、つまりは「人工システムの自律化=ALife」が、これからの10年を牽引すると思われる。

 そこでALifeとはどういう技術か、ALifeではどういう研究を行っているのか。どういう新しい産業分野がひらかれようとしているのか。

 ALife研究の第一人者である、東京大学 大学院総合文化研究科教授であり複雑系研究者でもある池上高志(いけがみ たかし)氏による講演内容をお伝えする。

》AI/SUM 2019記事一覧はこちら

はじめに、ALifeとは

 池上氏は複雑系科学という分野を立ち上げ、30年近く、複雑系と人工生命をテーマに研究を続けている。また、アートとサイエンスの領域をつなぐ活動も精力的に行っている。

 講演スライドのタイトルが“Offloaded Agency”ということだが、Agencyとは「意図を持っているようなもの、動機を持っているもの」という意味であり、そういったものは内部的に作れるのか、あるいは外からやってくる(offloadされる)のか、ということをメインテーマとして講義が進められた。

 昨今、世の中はAIやロボットといった言葉で溢れかえっているが、そこには大きく2種類の機械が存在する。一つは人間がやることを肩代わりするもの。そしてもう一つは、自分で好きなことを勝手にするものである。

「本日は”自律的な機械”を扱うわけですが、これに現在のトレンドであるディープラーニングやAIは使えるかというと、おそらく使えないと思われます。

ALife(Artificial Life)とは、生命原理に基づいたロボット原理とでもいうものを考えていくことであり、ポストAIのための方法論を考えていくものです。

ALife研究4つの流れ

 そもそも、ALifeという言葉自体は、1987年にロスアラモスで始まった研究から出現したものだが、その前身となる、計算によって生命性を立ち上がらせようという研究は、1950年代のコンピューター黎明期から始まっている。

 ALife研究には4つの源流があり、下図は池上氏が研究を通じてまとめたものである。

池上氏によるALife4つの流れ図

 左から順番に見ていく。

 まず一つ目は、グレイ・ウォルター(Grey Walter)氏から始まった第2種ロボットの流れである。自律的に動き遊ぶロボットの考えが、サイバネティクス(※)の時代から考えられてきたわけだ。ここから、自然進化を模倣してロボットを人工進化させようという「進化ロボティクス(Evolutionary Robotics:ER)」へと発展していった。

※サイバネティクス(cybernetics):邦名は人工頭脳学。機械の自動制御や動物の神経系機能の類似性や関連性をテーマに研究する、心理学・生物学・物理学・数学等を包括した科学の総称。第二次世界大戦後、アメリカの数学者であるノーバート・ウィーナー氏によって提唱された理論。

 次は、生命哲学の流れ。源流はグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)に立ち戻れる。彼は、アメリカの文化人類学・精神医学などの研究者である。ひとつの人間集団を、関係性のダイナミックスという視点から分析する方法を切り開いていき、サイバネティクス創立に関与しつつ、その内容を研ぎ澄ませていった。

 次は、化学反応の流れ。アラン・チューリング(Alan Tuling)氏は、コンピューター原理である計算可能性を体系化したイギリスの数学者であり、第二次世界大戦時にナチス・ドイツが用いていたローター式暗号機・エニグマを解読した暗号解読者でもある。映画『イミテーション・ゲーム』でご存知の方も多いのではないだろうか。チューリングは、生き物が作り出す様々なパターンを数学的に表現したチューリング・パターン、現代で言うところの反応拡散系制御による組織化の理論を考案している。

 最後が、オートマトンを始めとするコンピュータの中の生命の流れだ。ジョン・フォン・ノイマン(Jon Von Neumann)氏は、現代の最初の頃のコンピューターENIACを設計した数学者であり、量子力学の基礎理論の研究者でもある。ノイマンは、生命のよう自己複製する機械をコンピュータ上の数学モデル(自己複製オートマトン)で実装している。

 このように、ALife研究は4つの分野にまたがっており、特に哲学のブランチがあることが昨今の合成生物学と比べ特徴的だ。

次ページ:Boid modelとGray-Scott model

続きを読む
1 / 4

長岡武司

46,970 views

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

LoveTechMedia

テクノロジーに触れないことによる”愛”損失を最小限に留める。
LoveTechMediaとは