日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)の活用をテーマにした初のグローバルイベント「AI/SUM(アイサム)」。「AIと人・産業の共進化」をメインテーマに掲げ、4月22日〜24日の3日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。6月に大阪で開催されるG20に先駆けた取り組みとも言える。
レポート第12弾の本記事では、スタートアップピッチ:NEXT90についてお伝えする。
NEXT90は、主に日本の優秀なAI関連スタートアップのピッチコンテストであり、世界から集まった投資家や企業関係者、メディアを前に「90秒」でビジネスモデルを披露。VC、CVCを含む協賛社が、優秀なスタートアップに授賞する。
LoveTech Mediaでは、ピッチ登壇された49社のうち、特に愛に寄り添っていると感じた8社について、そのピッチ内容や事業内容をお伝えする。
水質判定AI「DeepLiquid」(AnyTech株式会社)
世界初の水質判定AI「DeepLiquid」(ディープリキッド)を提供するAnyTech株式会社。水処理施設の用水・排水、化粧品、バイオ医薬品、飲料といった様々な液体の状態を監視する異常検知システムである。
従来のセンサーは「時間」「コスト」「精度」といった大きく三点の問題があった。異常を検知するまでにかかる膨大な時間、センサー導入とメンテナンスにかかる莫大な費用、センサーデータを分析する技術者の技量による精度のバラツキの三点である。
AnyTechでは、独自のディープラーニングを応用した画像認識エンジンを、各工場に設置されている監視カメラに搭載することで、液体の状態を24時間監視、異常が発生した際にはアラートを行うので、これら三つの課題を解決してくれる。
カメラ映像のみで水質異常を検知するAIでは現時点で競合がおらず、2018年11月のリリースから4ヶ月で、同社の売り上げは1億円を突破している。
リーガルテックサービス「AI-CON」(GVA TECH株式会社)
契約業務を効率化させ、法務業務の生産性を格段に向上させるリーガルテックサービス「AI-CON(アイコン)」を提供するGVA TECH株式会社。
契約書業務の中でも、法律知識が必要とされる契約書ドラフト作成からレビュー・交渉までのプロセスを、弁護士の知見を学習したAI(人工知能)がサポートする。
具体的な操作は非常に簡単。WordやPDFで作成した契約書ファイルをAI-CONにアップロードすることで、当該契約類型に必須の条項のチェックや自社に不利な条項に関する判定がなされて、リスクが見える化された状態でフィードバックされる。
同社はこの法務領域でAIを活用することで、法務知識が豊富でなく工数もかけられないスタートアップと大企業とで発生しやすい「法務格差」解消を目指している。
なお、GVA TECH株式会社については個別に当メディアで取材もしているので、こちらも併せてご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/20190327gvatech/”]免疫多様性解析テクノロジー(Repertoire Genesis株式会社)
次世代T細胞/B細胞受容体レパトア解析、ネオエピトープ解析などの最先端の免疫多様性解析テクノロジーを活用したサービスを提供するのが、Repertoire Genesis株式会社(レパトア ジェネシス)だ。
世界の医薬品売上の約半分(年間5,000億ドル相当)は効果のない治療に浪費され、米国では毎年220万件以上の薬物有害事象が発生し、10万人以上が亡くなっているという事実がある。
このような背景の中、同社のミッションは、免疫系プラットフォーム技術を提供することで、高度なオーダーメイド医療に貢献することだという。
同社が提供する2つの解析プラットフォーム(免疫プロファイリング分析、体細胞遺伝子突然変異解析)を利用して患者一人ひとりの薬剤標的を同定すれば、既存の標準治療を適切に組み合わせて個別化治療を行うことができる。
同社が提供するサービスの中でも、例えばT細胞療法は今後1兆円を超える市場になると言われており、ポテンシャルを秘めたAIスタートアップである。
アートとAIによる介護の感動化(株式会社あのころコミュニケーションズ)
シニア世代の方に対して、暮らしに役立つことやこれからやってみたいことについての情報やサービスを提供し人生を豊かにする学びをサポートする『おとなのプライベートカレッジ』を運営する株式会社あのころコミュニケーションズからは、「アート×AIによる介護の感動化」というピッチがなされた。
上写真の絵で、一番左のもの以外は、すべてiPadとタッチペンによって高齢者が描いたものだ。生きるエネルギーを感じるものである。
同社は、高齢者と介護者の孤独と孤立を、クリエイティブ・エージングで解決しようとする取り組みを進めているが、客観的評価を得るためには確固としたエビデンスが必要であり、そのために創作活動における情動データをカメラで取得する仕組みを進めている。取得したデータはAI解析し、高齢者本人と介護者へとフィードバックされる。
本人にとっては創作活動の活性化、ひいては行動変容につながり、介護現場での非言語コミュニケーションにより感動の共有が行われる。
次世代養液土耕システム「ゼロアグリ」(株式会社ルートレック・ネットワークス)
次世代養液土耕システム「ゼロアグリ」を開発、販売する株式会社ルートレック・ネットワークス。アグリテック企業だ。AIがもたらす働き方改革はオフィスワーカーのみならず、農業領域にももちろん当てはまる。
AI×IoT技術で土壌環境制御をしてくれる「ゼロアグリ」は、可視化できなかった土壌環境を見える化し、AIで土壌を最適な環境に保ち続け、SNSによって圃場の状態を知らせてくれる。
自動で潅水施肥してくれるから、従来かかっていた作業時間や精神的負担を大幅に軽減でき、その上で収量の増加や品質の安定/工場が見込める。また、熟練農家の経験や勘を「データで表現」することから、根拠ある数値を次世代へ継承でき、新規就農者でも結果を出すことができる。
かつては労働集約的事業の最たるものであった農業は、AIをはじめとするテクノロジーの発達により、確実にアップデートが進んでいる。
歯磨きIoTモニタリング「シャカシャカぶらしキット」(株式会社Temari)
家族の身近な課題の解決をサポートする、ターゲットニーズに沿ったFun&Warmな商品・サービスを提供する株式会社Temari。
第一弾の商品・サービスである子供向けの歯磨きIoTモニタリング「シャカシャカぶらしキット」(商品名)は、普段使用している歯ブラシに直接装着し、専用のアプリを用いることで、子どもがゲーム感覚で楽しみながら歯磨きを学ぶことができるウェアラブルデバイスである。
ゲームを通じた歯磨きデータは、クラウド上のヘルスケアデータベースに蓄積され、それをAIが解析し、個々に合わせた指導として歯磨き状況やアドバイスをレポートしてくれる。
歯周病は20歳代で約61%、40歳代で約71%、60歳代で約75%の方に所見が見られると言われており、子ども時代からの正しい歯磨き習慣は、今後ますます重要なポイントになるであろう。
病理画像診断ソフト「PidPort」(メドメイン株式会社)
病理画像診断のマーケットプレイスを担うプラットフォーム「PidPort」およびDeep Learningを用いた病理画像診断AI「Medmain AI」の開発・運営を行うメドメイン株式会社。福岡発スタートアップである。ピッチでは前者のPidPortについて説明された。
患者の細胞を顕微鏡で見て、異常の有無・手術の必要性があるかなどを判断する病理医は、どの病院でも必要とされているが、国内外問わず慢性的に不足している。国内では2000人強の病理専門医(医師全体の約0.6%)に対し、診療所は10万以上あり、市中病院に病理医はほとんどいない。故に患者は病理診断の結果が出るまでに長い時間待つ必要があり、病気によってはこの時間が致命的になる場合もある。
PidPortはディープラーニングと独自の画像処理技術によってスピーディーで高精度な病理診断を実現するので、実用に足る高い精度の診断を、世界中のどの病院でも病理診断ができ、1分で結果を出すことができる。
国内外の医療機関との連携の下、スーパーコンピューターによって開発されてたPidPortは、国内のみならず海外のコンテストでも優勝しており、期待値が非常に高いことが伺える。
ロボットの心をつくる(株式会社ロボマインド)
非タスク指向型対話システム用APIを開発する株式会社ロボマインド。同社は、いわゆるAI業界のメイン潮流とは異なる手法で「ロボットの心」の開発に挑戦している。
人には感情と性格があり、これらが合わさって「心」になる。
今のAIのメイン潮流はビッグデータの解析であり、自然言語処理についても、大量の言葉データを解析・学習している。しかし言葉というものは、言ってみれば、人の性格を感情の光で照らした時に現れる影にしか過ぎない。その影をいくら学習しても、心というものには到達しない、というのが同社の考え方だ。
例えば自動車のカタログを大量に読ませることで「人気の車種は?」「人気のボディー色は?」などの質問には答えられるようになるだろう。しかし「自動車でアクセルとハンドルとではどちらが高い位置にありますか?」という簡単な質問には答えることができない。学習させる元となる自動車のカタログには、そのような観点での解説は書いていないからだ。そもそも、「3次元空間」といった概念を持っていないから、「どちらが高い?」という質問に答えられないのである。
既存のトレンドとは異なるアプローチでAIに「心」と「会話」を持たせようとする同社では、まずはベータ版プロダクトリリースに向け、随時開発スタッフを募集しているという。
なお、株式会社ロボマインドについては個別に当メディアで取材もしているので、ぜひこちらも併せてご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/robomind20180726/”]
編集後記
90秒という、非常に限られた時間の中でのピッチ大会ではありましたが、AI活用の様々なユースケースを確認することができる時間でした。
これまでLoveTech Mediaで取材させていただいた企業も複数登壇されており、愛とAIは地球を救うと、改めて感じます。
本記事を通じて気になったスタートアップがありましたら、ぜひ個別にご連絡されてみてください!
次回最終Report13では、「AI からALIFE へ」についてレポートします。
お楽しみに!
AI/SUMレポートシリーズ by LoveTech Media
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